再会
どうも。緋絽と申します。
更新からずいぶん日が空いてしまいました……。
すみません。
作戦はこうだ。
こっそり忍び込み、人質を確保したら、こっそり脱出する。
その後、近くに忍んでいた騎士団が突入し確保。
至って単純で、安全な作戦。
いちいち戦っていたらきりがない。うむ、確かにその通り。
今回は以前わざと人質になった私とは違い、拐われた人物が自衛の手段を持たないため、撹乱作戦は使わない。ひたすら私は人質を守り抜くのが仕事だ。
肝心の居場所はランセルが突き止められるらしい。すごいな、ランセル。
ドラゴンの能力。
今までも垣間見ることはあったけど、その本質には一切触れていなかったように思う。
この間みたとき、あまりの存在感に本当にランセルの魔力かどうか疑った。ランセルの肌には鱗がはえ、爪が鋭くなっていた。
まるでランセルがそのまま龍へと変わろうとしているかのようだった。
すぐにピアスを締めたためかそんなことにはならなかったが、少しだけ皆がランセルを怖がる気持ちを理解できた。
荒々しいのだ、あの力は。仲間ですら、警戒してしまうのも仕方がないくらいに。
まあでも、ランセルが周りを怖がらせまいとしていることは、なんとなくわかる。なんだかんだで自由気ままにやっているように見えて、あの人はそうではないのだ。
「おい、ハルキぃ。今から3つ数えたらお前は右の二人をヤれ。オレは左を引き受けてやる」
「えっはっ、ヤれってまさか殺……っ」
「3、2、1、かかれ」
ランセルの命令の通りに繁みから体が飛び出す。
そして私達は、見張りらしき輩をランセルの計画通りに叩きのめし、中に侵入した。
その後、ランセルがスムーズに動いていく。まるで建物の構造を知っているかのようだ。
「こっちから匂う……」
動物か!
おおおいちょっと待て、突っ込みたいがそんな場合じゃないことはわかる! なんでだ。普通どんだけ嗅覚よくても、人間として、香りをたどるなんてこと、常識的にできるわけがない。
魔法も、部位を強化するようなものなんてなかったはずだ。先天的な魔法なら可能なの? でも、少なくとも、ランセルはそういう類いの魔法じゃなかったはずだ。
急に立ち止まったランセルに危うくぶつかりかける。
いかん。集中しなければ。
「着いた。オレが連れ出すから、ハルキは周りを見張れ。誰か近づいたら、あれだ、眠らせとけ」
「はい!」
こういうとき、ランセルには一切の迷いがない。さすがに、長く騎士をやっているだけのことはあるんだなあ。
ランセルが立ち止まった場所は、中が薄暗いぽっかりと開いた入り口だった。
本当に迷いがない。ここに人質がいるということを、微塵も疑ってない。流石すぎる。
中に入っていったランセルから、少し焦ったような声が投げられる。
「くそっ……おいハルキ! この入り口から外に魔力が漏れ出さないようにできるよな? ちょっと頼むわ」
「え」
そんなのやったことないですけど。
そういう抗議を込めて沈黙してみたが、やれて当然とでも言いたいのか、ランセルは完全に待ちの体勢だった。
ちくしょう。私だってこれでも騎士の端くれだ、やってやるよ!
ようは、入り口より外に魔力が放出される前に、吸収すればいいんだ。私はスポンジ、私はスポンジ。
じわりと温かいものが体から流れていく。それを、入り口にまんべんなく行き渡らせ、隙間なく埋めるイメージ。
「大丈夫だと、思います」
「ばれたらお前、後で飯おごれよ」
「は!? 嫌ですよ、っ…………!?」
ばれるって何が!? と思った瞬間だった。
急に押し寄せてきたランセルの魔力に、歯を食いしばった。そうでもしないと、吸収しきれない。
熱いような魔力を吸収すると、すぐに私の限界が近づいてきた。どこかで放出しないと、吸収できなくなる。
限界ぎりぎりというところで、魔力の放出が終わった。
どっと汗をかいた。
すぐに中から、誰かを抱き上げた状態でランセルが出てくる。
早いな。見張りとかいなかったのか。
私はランセルの腕の中でぐったりしているキリカさんを覗き込む。
「司書さん! よかった……怪我はなさそうですね」
ホッとしてそう言うと、ランセルが唸り声のような低い声を出した。
「いいわけねぇだろ。魔力を吸われる枷をはめられてたんだぞ。満足に声も出せねえ状態だ、くそっ」
ふざけんなと、小さな声が聞こえた。
普段飄々としているランセルが、今回は少し感情的なのがわかる。
「このままじゃ、上手いこと脱出すんのは難しいな。キリカが歩けない以上、抱えてたら不審がられる可能性がたけえしな」
「ランセル、魔力切れなら、私がどうにかできます」
「はぁ?」
怪訝な顔をしたランセルに、キリカさんを床に寝かせるように伝える。
そして私は、キリカさんの手を握った。なるべく密着するように指を絡める。
じわりとキリカさんに流れ出した魔力に、ランセルは驚いたようだ。
「ハルキお前、こんなんもできたのか。すげえなあ」
ふっむしろ魔力の出し入れしかできませんが、何か。
徐々に赤みの戻ったキリカさんを見て、ランセルがほっとした顔をした。
……ランセルがこんな顔をするなんて、本当に初めて見た。
ふと目覚めたキリカさんの瞳が、ランセルを見つけて揺れる。
ランセルはそれに笑い、キリカさんを抱き起こし頭を肩口に引き寄せた。
「キリカ、もう大丈夫だ。助けに来たぜ。…………絶対に、守ってやる。あと少しだから、踏ん張れるな?」
唇を震わせたキリカさんが、声を出せずに頷きを返す。その拍子に、ぽろりと涙が零れた。
しがみついたキリカさんをランセルが強く抱き締める。
うわ。なんか、羨ましい。この二人は、本当にお互いが大事なんだな。人の目があっても構わないくらい、お互いの無事を確かめ合うなんて、不謹慎だけど素敵だ。
「ご、めんなさい、私、どうしようも、できなくて」
「わかってる。しかたねえよ」
「違うの、ごめんなさい、ごめ、なさ」
声を絞り出したキリカさんにランセルが片眉を跳ね上げる。様子がおかしい。
「ごめんなさい、同僚を殺すって言われて、どうしようも、なくて」
何がだろう?
そう思ったときだった。
急にランセルがキリカさんを抱き上げ、ついでに私の襟をつかんでぶん投げた。
「おわっ!!」
壁に背中を強かにぶつけて声を上げる。
い、いたい。酸素が全部口からでるかと思った。
文句を言おうとした私の前で、炎が黒い塊を飲み込む。
え?
「ハルキ! キリカを連れて外まで走れ! 隊長に援護要請をしろ!」
ランセルの怒鳴り声で、ようやく状況を悟った。
周りを、囲まれていた。
一人や二人じゃない。こんなの、一人じゃ無理だ。いくらランセルでも、死んでしまう。
「でも!」
「うるせえなあ早く行け! お前は伝令役じゃねえのか!」
ぐっと詰まる。
そうだけど。仲間が死ぬかもしれない状態で、逃げるなんてできない。
私の俊巡を見透かしたくせに、けれどランセルはさらに怒鳴った。
「早く行け! ーーーキリカを、守れ!」
押し付けられたキリカさんの肩が、震えている。
この状況は、彼女に起因する何かがあるのだ。そう気がつく。
それで、覚悟が決まった。
まだぐったりしているキリカさんの手を掴み、走り出す。キリカさんも、体調が悪いのにふらつきながらも追ってきてくれた。
追いかけてこようとした敵に炎が襲いかかり、一人の追ってもなく私達は潜り抜ける。
ちらりと振り返った先で、ランセルがピアスを投げ捨てたのが見えた。




