特殊
長らくお待たせしてすいませんでした!
今回、少し説明回です!
「泣き止んだか」
頭上から落ち着いた声が落ちてきて縮みこまる。
「はい、それはもうほんとすみませんっした」
正座した状態で頭を深々と下げる。
あのあと、俺の隊に入れ発言に返事を返すことなくボロボロ泣き続け、今現在ようやく泣き止んだところです。
「で? 俺の隊に入るつもりはあるのか」
デリカシー無男がソファに足を組んで座り私を見下ろす。
くっ、偉そうだな! でももう大きい顔してつっこめない! こいつの前で大泣きしちゃったもの!
「えーっと……あんたの隊って言うと……」
そこまで言った所でガシリと頭を掴まれ下に押される。
な、何!?
「痛い痛い痛い痛い!」
「俺の名は、教えたはずだが?」
男が不機嫌そうに言う。
だから、なんであんたはそう見る度に不機嫌そうなのよ!
「あーはいわかってますわかってます覚えてます! レオン! レオン!」
叫ぶと、男がちょっと変な顔をした。手の力は少しも緩まない。
離せぇこらぁ!
「お前は……もっと、切るところがあるだろう」
何!? あんたの名前ってレオンじゃなかったっけ!?
「あれ、間違えた!?」
「もしや、名字を忘れたわけじゃないだろうな」
冷え冷えとした雰囲気に、エヘと笑って見せる。
いや、ほらさ。外人さんの名字って、長すぎて覚えらんないというか、一度で覚えろと言うのが無理な話というか。
現代の日本人にはちょっと難易度高めだよね! あれ、私だけかな!!
「まぁいい」
名前を呼んだっちゃあ呼んだので、とりあえずは満足したのか、レオンは手を離して背もたれにふんぞり返った。
ちきしょー加減しろや! 涙滲んでるし、なんだか縮んだ気がする!
「で、レオンの隊って、なんか、騎士団うんたら隊みたいなんじゃなかったっけ?」
そして、私の無礼極まりない発言に片眉を跳ねさせる。
「お前……そうか。異界から来たから知らないんだな」
そうそう。話が早くて助かるよ。
横柄に頷く私に向かって男が薄く笑いかける。
ひぃ!
「この俺に説明させるとは、いいご身分だな? クラモチ」
「いやまぁ仕方ないよね! ほら俺、異界から来たから何も知らないし!」
勝ち誇って高笑いをすると―――レオンは、やけに艶然に笑った。
ドキリと心臓が跳ねる。
……この男の何が一番むかつくかと言われたら、私の好みにどストライクなその顔だ。
な、何。なんでそんなにかっこよく笑っ―――いや今のなし! 例え顔は良くてもこいつはデリカシー無男だ! 騙されるな私! というか、その笑みには若干の身の危険を感じる!
「俺の手を叩き落とした奴はお前が初めてだ。どうしてほしい?」
ひぃ、優しい声音でそんな物騒なこと言わないでください!
手を叩き落としたぐらいで、なんでどうにかするという発想に繋がるわけ!? 暴君かあんた!
「え、遠慮しときます!」
「そうか、残念だ。お前が子供じゃなければな」
そうじゃなかったら何するつもりだった!
男がまた仏頂面に戻って足を組む。
「この国の騎士団は二つの隊に別れている。一つが王族の警護、つまりは近衛をこなす一番隊。こいつらは二番隊の中から性格面と能力面で選抜された、いわゆる精鋭部隊だな。人数は少ない。お前には縁遠い隊だ、頭の片隅にチラッと名前が残る程度に覚えておけ」
暗に、お前が一番隊に選ばれることはないから安心しろと。入りたいとは思ってなかったけど、そう言われるとむかつくなぁ!
「もう一つが、城下の治安維持を主とする、実働部隊である二番隊」
レオンがクッと喉をならして口の端を吊り上げる。
「お前が入ることになる俺の隊だ」
「誰も入るとは言ってない! ていうか、俺あんまり役に立たないと思うけど!」
「大丈夫だ、そこまで期待していない」
「むかつく! むっかつく!」
地団駄を踏む私の腕を、唐突に男が座ったまま引き寄せた。
正座したままだったため、体が少し浮いて男と顔が近くなる。一気に顔に熱が集中した。
ぎゃああああ! 今度は何! 何がしたい!
「お前、格闘技をやってるだろう」
「え、あ、うん、まぁ」
しどろもどろに答え、習得している格闘技の数を指を折って数えていると、レオンが若干顔を戸惑ったようにしかめさせた。
「お前んちはどういった家だったんだ……」
「ふっ、聞いて驚くなかれっ、何を隠そう一家揃って武道マニアでね! 俺、すでにいくつかの武術の師範代もってんの!」
おかげで男子から恐れおののかれ、デストロイヤー倉持と呼ばれたのは永久に葬り去りたい思い出である。
仕方ないじゃないか、好きなんだもん。
運動神経が普通の人よりほんの少しよかった上に、格闘センスもあったらしく、いくつか師範代の資格まで手に入れてしまったという事実。一家揃って武道マニアだったため、母ですら私のその状況を咎めず、むしろ推奨さえしていた。
同年代の子がアイドルにキャーキャー言っている間、私はプロレスラーに熱をあげていたのである。
女子としてどうだ、これは。
レオンが私の二の腕を何度か握った。多分、筋肉を確かめたんだろうけど……やめて! 肉が!
「剣は?」
「うーん……一応やってたっちゃあやってたけど、真剣じゃなかったし、実践向きじゃなかったよ。どっちかっていうと棒術の方が得意だし」
そこまで聞いて男が押し黙る。
私にやっていける可能性があるかどうかを計算しているらしい。それも、結構真剣に。
どうしてだろう、とふと思った。そもそもこいつが私を異世界人だと信じようと思ったわけは何だろう。
異世界から来ただなんだと言う奴がいたら、私なら何言ってんだこいつ、と恐怖を覚えさえするかもしれない。
「なあ。なんで俺が異界から来たって話、信じようと思ったんだ?」
私の言葉に、レオンがヒタリと目を合わせてきた。
涼しげな目元に吸い込まれそうになる。
そういえば結構近いところにこいつの顔があったと思い出し、急速に心臓が早鐘を打ち始めた。
体を離したくても、二の腕を掴まれていて動けない。
「魔法があると、言っただろう」
「う、うん」
私が頷くと、レオンはようやく私の腕を離して自分の顎を擦る。
「魔法を防ぐには二つしか方法がない。一つは避けること。二つ目は、同じ威力の魔法をぶつけて相殺すること」
え? でも、私が見た魔法は、バリアみたいなのに防がれていた気がしますけど。
そう思っているのがわかったのか、レオンが数度頷いた。
「そういうことだ。お前、魔法がない世界に住んでいたと言うが、お前には魔力がある。そして、お前の魔法は“魔法が効かない”魔法」
―――は!?
「魔法が消えるなんぞ、見たことも聞いたこともない。この世界では有り得ないものだ。だから、信じようと思った」
レオンが指を鳴らした。しかし何も起きない。
「ある程度、範囲には限界があるが、少なくとも、今のところこの距離では魔法は発動すらしないらしい」
レオンは首を傾けてニヤリと笑った。
「実に珍しい。だから、拾うことにした」
うん、珍しいらしいことはわかった。どのくらい衝撃的だったのなはわからないけどね。
でも一つ言わせてほしいな!
―――私は捨て犬か何かか!
主人公がなかなかチートですが、そこには目をつむってください。えへ。
行き当たりばったりで書いているので矛盾する点があるかもしれませんが、寛大な心で許してやってくださいm(__)m