人でなし
どうも、緋絽と申します。今回は早く更新できた、はず!
オレーーーランセルは生まれたとき、人の姿ではなかった。
どういう意味かというと、そのまんま、竜の姿で生まれた。生まれてすぐに火を吹き、母親の足に火傷を負わせた。
そんな風だったから、母親は周囲から『化け物』を産んだと親類から非難され、半年経ってオレが人の姿をとれるようになる頃には、すでにまともではなくなっていた。
『化け物』であるオレは、父親からいないモノとして扱われた。幼い頃は今よりも随分魔力制御が下手で、周囲に頻繁に怪我をさせていたために、最初は愛そうとしてくれた親もそれが難しくなっていった。
周囲に罵倒される毎日。気味悪がられることに、まだ傷ついていた。
そんなある日のことだ。
オレは村のいじめっこ共から暴力を受けていた。
「肌に鱗があるなんて気持ち悪いんだよ!」
「化け物!!」
オレはその時、喋ることが出来なかった。下手なことを言ってより事態が悪化することを恐れた父によって、常に石を口のなかに詰めているように言われていたからだ。だから、呻き声しかあげられなかった。
それなのに、ぶつけられた石が額に当たり、茂みに落ちた瞬間、絶叫が響いた。
「うわぁぁああ! 助けてえええええ!」
「大人しくしろ、ガキが!」
人拐い、だった。
森の奥なんかでオレをいじめるから、大人はすぐには来られそうもない。
さっきまでオレに暴力を振るっていたいじめっこが、顔を張られて涙を浮かべている。地面に打ち伏していたオレを、助けを求めるように見つめる。
同じように子供のオレ。普通なら、対抗する手段なんてないに等しい。けれど、オレなら、助けられるかもしれなかった。
ーーーーもし、助けたら。もしかすると、皆オレに優しくしてくれるんじゃないだろうか。父も、口いっぱいに詰め込んだ石を取り出していいよ、『お父さん』と呼んでいいよって、頭を撫でてくれるんじゃないだろうか。
使うなと言われていた、この能力があれば。
そう思った次の瞬間から、記憶がない。けれど、いじめっことは別の大人の絶叫が、耳に残っている気がした。
目が覚めたとき、オレは地下牢にいた。服はボロボロながらも新しくなっていたが、髪は鉄錆のような臭気を放ち、バリバリに乾いていた。
子供達は助けられ、人拐いは退治したと、きいた。いや、退治なんて生易しいものではなかったらしい。体の一部を食いちぎったのは、間違いなく、オレだった。
首にかせをはめられながら、オレは知った。
オレは竜。人ではない、災厄を招く竜。
だから。例え人の子を助けても、その姿を見られれば、厭われるだけなのだと。
ーーーこうして、閉じ込められるだけなのだと。
隣でハルキが所在なさげにしている。
それはオレがずっと黙ったままだからだ。
だからと言ってオレはわざと無視しているわけじゃない。
単純に、呼吸を整えているのだ。オレの能力は、感情の揺れに左右されやすい。
長く息を吐いて、ーーーオレはピアスを両方はずした。
「ーーーランセルに、私をつける?」
ハルキがきょとんとした表情を浮かべる。
場面はその後、具体的な作戦案をレオンが練り、指示を出している場面に遡る。
ハルキの訝しげに曲がった眉から、隊長の伝令役なのにどうしてと思っていることがありありとわかる。
「お前の能力なら、多少ランセルを抑えることができるだろう。いいな、一気に吸い取ったりするなよ」
隊長の言葉にハルキが曖昧な仕草で頷いた。
わかってねえんだろうなあ、きっと。
けれど、オレはその理由を説明しない。
自分の弱点をわざわざ認める真似なんかしたくない。
オレの魔力は量が多い上に、荒い。魔力に荒いも何もないと偉い方々は言うが、しかしそれ以外に表現のしようがない。
だからこそ、オレは幼い頃から自分の魔力を制御できなかったんだろうと思うわけだ。
だから、いきなり吸収すると容量がすぐ満杯になる上、押さえ込むのも難しいんじゃないかという隊長の考えだ。
「お前に伝信装置を持たせる。対のものをアルベルトにも渡す。ランセルが行方不明者を発見したら、すぐに場所を教えろ。……くれぐれも、あいつに捕まるようなへまをするなよ」
「へまってなんだ! わかってるよ、気を付けるから」
気を付けたって、どうにもならないことも、あるんだぜ、ハルキ。
体の底から熱いものが滲み出す。肌が泡立ったようになり、表面を薄くて固いものが覆う。
それが鱗の形をしていることを、オレは忘れていない。時間が経ったから形を変えているかもと期待したのに、そんなことはなかったか。
「え、ラン……セル……?」
ハルキはきっと、増幅したオレの魔力に当てられて、本能的に怯えているに違いない。
こいつはびびりだからなあ。
意識的に、キリカの香りを探す。竜の嗅覚に近づいたオレの鼻は、すぐにその香りを見つけ出した。
オレは、目を開ける。
「ーーー見つけた」
オレの目は、金色で縦長い瞳孔になっていた。
すべてが、竜へと近づいていた。




