打ち明け話
ご無沙汰しております。緋絽と申します。
ようやく更新することができました!
多忙な時期を抜けたため、以前のペースに戻そうと思います!
お待ちいただきありがとうございました!
「ノックス!」
後を追って走ると、ちょうど本部と宿舎の連絡通路をノックスが歩いているところで追い付いた。
私の呼び止める声が聞こえているだろうに、ノックスは足を止めるどころか、緩めもせずむしろ歩みを早めた。
ああ、ものすごく怒っている。
私はよくノックスに怒られるが、それはどちらかと言えば叱られるという方が近かった。
だから。こんな風に怒られると、どうしたらいいかわからない。
「ノックス! 止まってってば!」
無言で歩くノックスの後ろに追いすがって必死で声をかける。
ノックスはすぐ後ろにいる私を無視して歩を進めようとした。
ああもう、お願いだから。
「話したいことがあるんだよ!」
腕をとると、そこでようやくノックスが立ち止まる。けれど、決して私を見ようとはしなかった。
頑なに、何かが自分の限界を越えるのを必死で押し留めるみたいに。
「…………それは、俺が、話してくれないって言ったからだろ。いいよ、無理すんな」
固い、強張った声。無理矢理感情を押さえつけているような、そんな、声。
「そりゃ、それもあるけどっ、でもそれはきっかけになっただけで、」
「本当にお前が話したいと思ったときに話せよ。今話されても、俺が無理強いしたからだとしか思えない」
思わず言葉をつまらせた私に、ノックスがひっぱたかれたような顔をした。
やってしまった。そんな顔。
「わりぃ。今、こんな風にしか言えねえわ。……しばらく一人にしてくれ」
手の内から、ノックスの腕がこぼれていく。静かな拒絶を目の当たりにしているようで、胸が詰まる。
「――――じゃあ、ここは、一生のお願いで!」
それは、嫌だと。遠ざかっていく腕にしがみついた。
お願いだ。私が悪かった。それは自明の理だから、だから、そんな風に、遮断しないで。
呆気に取られたような顔をしたノックスが口を挟む隙も与えずに次を続ける。
「俺の話を、聞いて。行かないで」
沈黙が、あった。
個人的にはとても長い間だったように思うが、もしかするとこれは数秒のことだったのかもしれない。
「……お前、やっぱずるいわ……一生のお願いって、ガキかよ……」
するりと腕がほどかれる。
ダメだったかと俯いた途端に、頭に手が載った。
「ま、それは俺もか。駄々こねて悪かった。…………可能な範囲でいい。話してくれ」
私は、二人に話した。
異世界から来たこと。
そこでレオンに出会ったこと。
そして、身を守るために、男のふりをしていたこと。
「ごめん!! 嘘ついてて! けど、ずっと、いつかは話そうと思ってた!」
頭を下げた私に、二人とも絶句する。
というよりも、驚愕が過ぎて二の句が継げないという感じだ。
「じゃ、あ……何だ……、クラモチ、君は、その、女性なのか?」
「仰る通りです」
土下座している私を穴が開くほど凝視して二人がより一層の驚愕を露にする。
なんだよ。見えないとでも言いたいのか。いやわかってる、見えないよね!
元の世界でも凛々しいとか言われてたけど、ちょっといい感じに言ってくれてただけで、要するに丸みなしかわいさなし女らしさなしの三重苦ですよねありがとうございます。
「お、ま、お前、俺と同じ部屋で」
ノックスが口をパクパクさせる。なんなら少し顔が赤い。
「あーそこに関してはほんとにごめん。流石に背中の傷だけじゃ一人部屋になれなくてさー。正直めちゃめちゃ不安だったけど、ノックスがいい人過ぎてもういいかなって落ち着いちゃってた」
あれ、待てよ。ばらした以上、部屋は変えた方がいいのかな。いやでも、どうせ一人部屋もらえないならノックスと一緒の方がいいだろうと思うんだが。だって最初から私が女だと気づいてたのに、レオンは私を一人部屋にしなかったんだから。おいちょっと待て、平等精神行き渡りすぎでしょうが。
「……私は、これからもノックスと同じ部屋がいいけど…………その、ノックスが嫌ならレオンに言って変えてもらうから…」
ちゃんとした部屋はもらえないかもしれないが、どこかの倉庫の隅くらいは貸してもらえるだろう。寝床さえあればなんとかなる。ご飯は出るし、お風呂もあるし、大丈夫だ!
「おまえってやつは…」
盛大にため息をつかれる。
な、なんだよ。慎みがないとでもいいたいのか。
わかってるよ、苦肉の策だよ!
「別にいやじゃねえよ。嫌だったらお前が男だと思ってる時にすでに変えてるし、見られたくないものがあるかどうかも今更だしな。好きにしろ」
「ありがとノックス!」
抱きつこうとすると、頭を押さえられ押しとどめられる。
「お前が女だってわかった以上、それはさせねぇよ」
はい、怒りが見えます。これはほんとにごめんなさい。
その時、ふと考え込んでいたアルベルトが顔を上げた。
「……君が異世界から来たということは、なかなかに信じがたいが…、その、クラモチ、君はいつか、帰ってしまうのか? 元の世界に」
アルベルトが投げ入れた言葉に、その場は一気に緊張した空気が走った。
あぁ、やっぱ、来るよね。その質問は。
アルベルトとノックスの視線が、私の口元に集中しているのがわかる。
「…………帰らないよ」
だって、私は、もう死んでいるから。あっちの世界で。
私は笑って、そう返した。




