もれた秘密
どうも、緋絽と申します。
ご無沙汰しております。かなり忙しくなってまいりましたので、不定期になります。
だけどがんばります!
その後、私はほとんどいつも通りの日常に戻っていった。
騎士団員にはレオンから説明があったのか、挨拶をすれば戸惑いながら返事があった。そりゃ中には仲間を傷つけられて怒ってる人もいて、挨拶すれば返されるどころか罵り返されたこともある。余りに正しい怒りに私は何も答えられなかった。けど、その度にノックスやアルベルト、そして意外なことにランセルが庇ってくれた。
ランセルに至っては、毎回どこから聞き付けてくるのか、私が絡まれる度にどこからか神出鬼没に現れる。そして文字通り、蹴散らしてくれた。
皆が庇ってくれるし、何よりももう、ただ落ち込むだけはやめると決めた。だから、ただ謝るのではなく誠意を見せることにした。
まあ、つまり、後は私がこの世界で生きるために、秘密にしていることをみんなに打ち明けるくらいしか、私の悩み、もしくはやらねばならないことはないのである。
「ハルキー、まだかー?」
「うあっ、はいっ、終わる終わる!!」
慌ててこっちの世界で言うブラなるものを着けて手早く着替える。
そしてジャケットを羽織ったところで、待ちわびたらしいノックスが外からドアを開けて中を確認してきた。
あ、危ない!! もうね、さすがに下着着けてるところを見られたらバレると思うわけですわ!
あれっ、なんでこの部屋に男以外がいるんだろうみたいなね? ハルキ男だったよな的なね!?
「傷気になるのはわかったけどな、毎度毎度外に出んの嫌なんだけど」
「う、ごめん」
確かにね。私何様だよって言うね。
ごまかすようにえへっと笑うと、ノックスは溜め息を吐いて私の鼻を摘まんだ。
「いいよ。今度仕切り用の布買ってこようぜ。そんで、着替えの時その裏で着替えればいい。それでいいか?」
「ノックス様愛してる!!」
飛び付くと、はいはいといなされる。
うーん。前まではこれでたじろいでくれたのになあ。教育の成果が出てきましたな。
訓練場に向かうと、アルベルトが既に自主練を始めていた。
「やあ。今週は訓練と騎士団駐留らしい」
「げ、まじか」
「おはよー。てことは、絶対団体戦あるよねー」
訓練の一貫で、我等が班長であるランセルは団体戦を取り入れた。それも嬉々として。自分が強すぎるとかで一対一だとすぐに終わってしまうかららしい。
いやまあ、そりゃ団体戦の方が実践的だし、協力してやれるからいいけど、如何せんランセルが怖いのだ。私がいるからと遠慮なく魔法を使ってくる。
確かランセルの魔法って、ドラゴンの魔法って聞いたけど。炎を放つ以外にも色々やれるらしい。炎以外には使ってないみたいだけど。
そういえば、前ランセルと話したとき、ドラゴンの災厄がどうのって言ってたなぁ。あれはなんだったんだろう。なんとなく、聞きづらい。皆は知ってるんだろうなあ……。
やっぱり練習は団体戦だった。
なかなかに汗をかいたので、私はお風呂に入ることにした。
ノックスもアルベルトもいつもなら見張り役を買って出てくれるのだが、今日はそれぞれ予定があるとかで遅くなるらしい。
まあ見張りしてもらうために帰りを待つってのも何様だって感じなので、もう入ることにした。
いやね。いけるでしょう。昼間っからお風呂にはいる人なんて滅多にいない。なんとかなる。要は気合いだ。ばれないという堂々とした気持ちがあれば大丈夫だ!
と、楽観視してお風呂に入り、上がって着替えている最中に。
「なんだ、お前が入ってたのか」
「うわぁーーー!」
なんで、いるわけ!
我等がカエンベルク隊長が、入ってきたのである。
はっと慌てて前をかき合わせる。体を見られたら気づかれてしまう。
下着を着けてシャツを羽織り、これからボタンを止めようとしている状態だった。
完全に憧れの彼シャツスタイルだけどもうほんとグッジョブ私! よくぞ上から着替えた!
あ、危ない!! 脚は出てるけど、大事なとこは隠れてるからそれなりにごまかしはきくでしょ!! きくと言って!
ホッと息を吐いた私を、レオンの黒い目が見つめる。
急に居たたまれなくなる。というか、恥ずかしい。
「な、何だよ」
「……筋肉がないな。ちゃんと鍛えてるのか?」
「き、鍛えてるわ! あ、んま見んなよ」
く、恥ずかしいさで顔が熱くなってきた。
背中を向けて視線から逃げる。
そうだよ、さっさと着替えて出ちゃえばいいんだ。なんで気づかない私。
いや、ダメだ、なんかもうパニックになってる。ほとんど裸に近い格好だっていうのと、何より風呂場で遭遇っていうことに動揺が著しい。
てきぱき着替えて振り替えると────まさにこれからズボンを脱ごうと手をかけているレオンがいた。つまり半裸である。
「うわあ!!」
なんで脱いでる! っていうか、そりゃそうだ、風呂はいるんだもんね!!
「何だ」
「いや、あの、なんでもない。じゃあ俺、行くから」
できるだけ目をそらして歩き出す。
さすがに鍛えているだけあって、レオンはいいガタイだった。傷跡もいっぱいあったけど、って、何をこんな思い返してるんだ!
外に出ようと取っ手をつかんだところで、ドアが開いた。そしてぞろぞろと人が入ってくる。
それは、私にいい感情を持っていない人達だった。
私を認識した瞬間に、和気藹々と喋っていた空気が霧散する。それは、刺々しい感情が散らばった空間だった。
伝令役になったというのもまだ尾を引いているが、この間の所有の印の件が大きい。私はかなりこの人達に嫌われている。
「あ? なんだてめえかよ。邪魔だ、どけよ」
軽く突き飛ばされてよろめく。
ムカッときた。どいてほしいならもっと言い方があるだろうに。私が嫌いなのはわかるけど、何もしてないときに絡むのはただの憂さ晴らしでしょうが。
「おい、態度悪すぎだろ」
「はあ? お前に対してなんでいい態度とらなきゃなんねえわけ?」
あーもう、これだから! 話通じないんだもうほんと! いい大人だろうがあんたら!!
「なんでもかんでも噛みつくなって言ってんだよ。子供じゃないんだから、感情のコントロールくらいしろよな!」
「あ?」
隣を通りすぎようとした私の腕を、一人が掴む。そのまま胸ぐらを掴まれ、壁にぶち当てられた。
「いてっ! このっ、離せよ!」
顔面殴ってやろうか!
「振り払えねえとか力無さすぎだろ! てめえの方がガキじゃねえか」
「つーか女みてー」
「ぎゃははは、ちゃんとついてんのかよ!」
ムカッときた。仕返しに頭突きしようとしたところで、体が固まる。
お腹に、手が滑り込んだ。
うわ、なんだこれ。なんだ、これ。
「ちょっ……」
「筋肉もねー! おい、お前のどこに筋肉があるか確かめてやるよ」
服を引っ張られる。
やめろ! そんなことされたら、バレる! それに、何より、気持ち悪い───!
「そこまでだ」
低い声が、耳元で響いた。そのまま肩を抱き寄せられる。
「俺の前でくだらん悪ふざけをするな。目障りだ」
「隊、長……」
一気にピリッとした空気が張りつめる。
私でも、その目を向けられている訳じゃないのに、ヒヤリとしたものを感じた。
「仲間を貶める者に騎士団にいる資格はない。そういうやつは実戦でも仲間を裏切る。俺の隊にそういう足手まといは必要ない。意味はわかるな?」
もしかして、怒ってるの?
変わらない表情が、むしろその怒りの深さを表しているようだった。
「はっ……し、失礼致しました!」
「二度目はない。……行くぞ、クラモチ」
肩を押され外へ出る。
見上げると、レオンは半裸のままだった。手に持っていたらしいシャツを羽織り、私を見る。
「あ、あの、助かった」
「気にするな。あれは本心もある。助けたのはついでだ」
さいで。それでも助かったから、私的にはどっちでもいい。
ただ、私のためだったらよかったのに。とは、思うけど。
「……それでも、ありがとう」
「……一人の時に、風呂にいくな」
私は、その発言がレオンがなんだかんだ、ああいう事を心配しているからだと思った。
だから、風呂場じゃなくてもからかわれるのにと、違和感を持ったのだ。
「まーできるだけ一人にならないようにするよ。風呂場だけじゃなくても、絡まれると面倒だし」
だけど。そうじゃなかった。
「そうじゃない」
「え?」
レオンの顔を見る。
この世界で生きる以上、私は、真実を話さなきゃならない。彼らを信用するからには、私の秘密はないほうがいいに決まってる。だから、言わなきゃいけなかった。そのはずだった。
「もっと慎重になれ、クラモチ。バレると、困るんだろう?」
「何、が……」
私の混乱した顔を見て、レオンが目を瞬かせ、いかにも当然なことを言うかのように放った。
「お前の、性別」
「…………え?」




