よみがえった記憶
お久しぶりです。
どうも、緋絽と申します。
さあ、やらかしてしまいました。きっかり一月空けてしまいましたよ……。
ここからは私の過去に関わることだから、とレオンは人払いをして私と二人きりになった。
ロイさんはこちらを何度もきにかけてくれながら退出していった。
「……お前は、背中に傷があるからと、一人で浴場に入るらしいな」
ギクッとする。
それは実は嘘でしたなんて言えない。あるっちゃあるけど、ほとんど見えないのだ。
「えーあーはい」
思わず間延びした返事をする。
あぁ、罪悪感が。異世界から来たことをレオン以外に隠してることだけでも気が重いのに、女であることも隠しているのとで二重に重い。
そもそも、これまでばれてないことがビックリだ。なんだ、私にそこまで胸がないと言いたいのか。さては女子力の方か。
なんにせよ、どっと落ち込む。
「単刀直入に言う。お前は昨晩、逆上せて治療室に運ばれたんじゃない。大量に流血し、気絶したために運ばれたんだ」
レオンの言葉は、何故だかストンと胸に落ちてきた。
なんとなくどこかでわかっていたからだ。逆上せて気を失うほど湯殿にいたわけじゃないし、何より更衣場までは私は普通に歩いていたのだ。
ただ、その大量の流血というのには、心当たりがなかった。
「流、血? って、どこから……」
「背中だ」
ビクッと体が跳ねる。そっと自分の背中を撫でてみた。
今は特になんともないように思う。ここから、血が流れた?
「幸い、止血したらすぐに血は止まった。どころか、綺麗さっぱり傷も消えているらしい」
「え…お、俺……」
私の体、大丈夫、なの? いきなり血を流したり、それが跡形もなく消えたり。どこか、おかしくなってるんじゃないだろうか。それから実は病気でしたなんてことが、あったりなんて。この世界で、死ぬかもしれない可能性が、あるかもしれない?
パニックに陥りそうな私の思考を、レオンがとどめのように混乱に突き落とす。
「一つ聞く。クラモチ、この世界に来る前のことを覚えているか?」
自分の表情が、凍りついたのがわかった。
何かを喋ろうとして喘ぎ、結局言葉がなにも出ずに口を閉じる。
そのことを。考えるときが来たのか。
「……大事なことだ。だから、例えお前が思い出したくないことでも、話すまで待つ」
どうして。いいじゃないか。この世界で生きていく上で、関係のない話なんだから、放っておいてくれればいいのに。
後退ろうとする私の腕を、レオンが掴んで引き止める。
「は、なせ」
「駄目だ」
「頼む、から」
「こればかりは聞いてやれない」
振り払おうとするのに、圧倒的な力の差で押さえ込まれる。
何だよ。何でこんなときに、力の差なんて感じなきゃいけないんだ。しばらく忘れていたのに。私は今、男なのに。
「思い出したく、ないんだ」
背中からゾッとした感覚が這い登る。頭を抱えて、すべてから逃げたくなる。
逃げない。逃げたくないよ。でも、怖いんだ。
そっと、頬に手が添えられる。その感覚に、私はびくりと身を震わせた。
「一人にしない。お前がもういいと言うまで、側にいてやる」
顎の下に私を収め、レオンは私の背を撫でる。
なんだよ、側にいてやるって。そんな、プロポーズみたいな。
唇を噛もうとして、やめる。何度もやめるように注意されていたのを思い出したからだ。
その代わり、レオンの袖をこっそり掴んだ。
何度も何度も、思い知る。
私は何だかんだいつまでも甘い。レオンの足手まといになりたくないなんて考えておきながら、結局足を引っ張っている。覚悟が足りないのだ。
目を瞑る。
もういいでしょ? 私は、可愛いげのある守ってあげたい女の子が似合うタイプじゃない。そうなりたいとも思わない。
私は、守りたいのだ。
思い出せ。事細かに、何もかも。あの時のことを。
「……私は……」
ピクッとレオンが眉を動かした。私はそれに、気づかない。思い出すために目を閉じていたために。
靴紐を結ぶためにしゃがみこんだ。
背後から聞こえた砂利を踏む音。
あれ? 何だか、おかしい。
私は振り返り、向かい来る鈍く光る刃を瞳に写して。
「う、あ」
あぁ、そうだ。そうか。
私は、もしかして、死んだのか。




