不安
どうも、緋絽と申します。お久しぶりです。よく考えればお久しぶりですと何度言っていることでしょう……。すみません!
今回は珍しい二人組が登場!
許さない。こんなのは認めない。認められるわけがない。
だって、こんなの不平等だ。確かに常に善良な人間だったかと問われればそうとは言い切れないけど、それでも善良な方に分類される生き方をしていたはずだ。
それなのに、こんな。 こんなのってない。
───だから、私は。
ふと目を覚ますと、いつか見たことのある部屋だった。
朧気に治療所の一室だと思い出す。
………なんでこんなところにいるんだろう?
お風呂から上がって、着替えてからの記憶がない。
私は首を捻った。
はて? 恐ろしいほど記憶にございませぬ。
そういえば、アルベルトが見張りをしていてくれたはずだ。ということは、アルベルトなら詳細がわかるのかな。
体を起こす。
「おはようございます、ハルキさん」
少し高めの柔らかな男の子の声。ブラン君だ。
「あ、おはよ、ブラン君。えーっと、なんで、私はここにいるのかな? さっぱり記憶がなくてね」
えへっと笑いかけると、ブラン君はおかしそうに微笑みをこぼす。
あぁ、その天使の笑みに癒されるっ!
「お風呂でのぼせて、そのまま寝てしまったみたいですよ。起こすのも忍びなかったので、そのまま治療所のベッドで寝ていただいてたんですー」
のぼせた? そんなに浸かったかな……。
首をかしげる私の背中をとんとんとブラン君が叩く。
ん? なにかな?
「ハルキさん、そんなことよりもですねー。もし、今後辛くなったときは、ぼくのところに来てくださいねー?」
私はブラン君を見つめて瞬いた。
辛くなったときは? そりゃまあ、痛いときは行くとも。だけど、きっとこれは、そういう意味じゃない。
「辛く、なったとき?」
「はい。どんなときでも構いません。貴女が辛いと感じたときに、必ずぼくのところへ来てください」
手をそっと握られ、真剣な目を向けられる。
やだイケメンとか茶化せる雰囲気ではなかった。
「いいですか? どんなときでも、です」
「……わかった」
正直、真意は全くわからない。だけど、ブラン君が言うならそうしよう。大丈夫、心に言い聞かせようではないか。
私の返事にブラン君は、とても嬉しそうに笑った。
「おーいチビ二人。何ニコニコしあってんだ?」
「ランセルさん」
ランセルがずかずかと中に入ってくる。ノックの音が聞こえなかったのに、ブラン君はそれを普段通りかのように受け入れ、お茶をいれ始めた。
おい、おかしいでしょうが!
「紅茶でいいですか?」
「んー」
ソファに寝転がってくつろぎ始めたランセルが、ふと思い出したかのように私を見た。
「そういや隊長が執務室に来いってよ。なんか話があるらしいぜ」
「あ、そうですか? じゃあ、行ってきます」
今回の潜入作戦で、ランセルは一人で敵の三分の一の人数を戦闘不能にしたらしい。まだ私は、ランセルの戦闘姿を見たことがない。だけど、倒した敵の数から見るとおかしいほど怪我がない。
すごいなあ。私も早く、強くならなきゃ。
ヒラヒラ手を振るランセルに笑みを向けて、私はドアを閉めた。
「ランセルさん……」
「わぁかってるよ。オレだって事情知ってんだから」
「そう、ですよねー……」
不安そうに手を握り混むブランを見て、ランセルが唇を尖らせる。
「お前があいつのことを気にかけるのはわかるぜ。オレらみたいなやつにとっちゃあ、稀有な人間だよなぁ」
「それはそうなんですけど」
確かに春紀は稀有な人間だ。ランセルの力のことを知っても、彼女は怖がらなかった。実際を見ていないからとも言えるが、ドラゴンと聞くだけで忌み嫌う者は多い。
けれど、こんなに心配なのは、春紀が稀有な人間だからだけではない。
「ハルキさんは、ぼく達に近い存在です。あの力は、それだけの脅威と捉えられる。だからでしょうか……とても、不安なんです。特に、今回はハルキさんの意思の下の行為ではなかった。それなのに、心ない悪意に晒されては、ハルキさんが気の毒で……」
眉尻を下げたブランの頭を、ランセルは乱暴に撫でた。
驚いたような顔をするブランに、ランセルは笑って見せる。
「てめえがしょげてんなよ。あいつはオレが、守ってやる。隊長にもそう言われてんだ。…………だから、安心だろ?」
よしよしと撫で続けるランセルの手を握り、ブランは嬉しそうに微笑んだ。
「はいー。頼みますね、ランセルさん」




