怒り
お久しぶりです。どうも、緋絽と申します。
やっと白髪編終わりました!
「レオン・カエンベルク……」
低く殺意のこもった声音に、レオンが私を抱き上げる腕に力を込める。
ギルは、今にも舌打ちせんばかりに顔を歪めていた。
「横恋慕はいけないねぇ。───ハルキはボクのものだ。返してもらうよ」
その言葉と共に周りに転がっていた死人の体が動きだし、レオンに向かう。それは要するに私にも向かうわけで。
ぎゃぁぁああ! これは腰を抜かしている場合じゃない!! どぎまぎしてる場合でもない!!
慌てて無効化する。ばたりと倒れたが、すぐにまた起き上がってきた。
これじゃ前と同じだ……! くっそうどうにかならぬものか。
「動くな、クラモチ」
えっ、でも、こうしないと危なくないですかね!!
そう思った瞬間、動いていた死人が一人残らず氷で覆われる。
レオンだ。
「何をほざいている、ギルシュ・ヴァーリア。初めから、こいつは、俺のものだ」
なんつー言い方を! そんなんだと、妙にときめいてしまうじゃないか! やめろこんなときに!!
「く……っ」
ギルが私に向けて手のひらを向けた。
ま、魔法なら防いでみせるぞ! なんだ! やんのか!!
「残念ながら契約は塗り替えた。お前も見ただろう。今は、俺が、強い」
レオンが指をならすと、すべての出入り口に氷がはる。逃がさないようにするためだろう。
「さあギルシュ・ヴァーリア。楽しいかくれんぼは終わりだ。精々暗い監獄の中で、残りの余生を数えて過ごせ」
言った瞬間、ギルの足元からまるで突き刺すように氷の柱が飛び出した。
それを察していたかのようにギルが飛び退く。
もうね、あんたら人間じゃないよ。氷飛び出させるのもそれを避けるのも普通できない。私には不可能。
氷は天井にぶち当たると、そこを中心にして部屋を凍らせ始めた。
ば、馬鹿野郎。こちとらシャツ一枚なんだぞ! と、文句を言いたかったが、助けられている身では何も言えなかった。
すみません、はい。大人しく凍えます。
ギルに向かっていく氷を、闇色の靄が覆って打ち消した。
ゆらりと俯いた髪の隙間から、銀色の瞳が何か恐ろしい圧迫感をもって覗く。
「あぁ、レオン・カエンベルク。君は、何度ボクを怒らせたら、気がすむんだい? 言っておくけれど、ハルキのそれは、僕の方が優ってる。なぜなら、ボクは先天性だから。いくらでも、食い込めるよ」
ギルが笑った瞬間、私は体が縛られたように思った。
レオンにしがみついていた腕が、レオンの首を絞める。
や、やめろ! またこのパターンか!!
苦しげにレオンが私の腕をほどこうとする。
死んでしまう。レオンを、私が殺してしまう。
恐怖に呑まれかけた所で、その感覚が消失する。
「な、んで!?」
「仮契約は済ませてある。……残念だったな」
指を鳴らしたレオンの傍から、いつか見た氷の獅子が一直線にギルに向けて駆け出していった。
歯軋りが、聞こえるようだった。
闇色の靄が一匹の氷の獅子を覆う。それは消えたが、もう一匹がギルにむけて牙を剥いた。
それすら一掃し、ギルは、私たちに向けて複数の短刀を放った。
私がいるから魔法が効かないと踏んでだろう。
何度かの攻防を繰り返す間に、私達は忘れていたのだ。
少女の、存在を。
「お兄ちゃん!!」
倒れていた騎士の放った矢だった。
ギルの影から現れたルネが、ギルを庇う。
その小さな肩を、矢は易々と貫いた。
私は悲鳴ともつかない声をあげて手を伸ばしたが、レオンに抱き込まれる。
「ル、ネ」
崩れ落ちるルネを抱き起こして、呆然としたような声がポツリと落ちた。
「このガキ!」
第2射を構える騎士が、一瞬で靄に包まれ消え失せる。
「アハ、アハハハ……! そうだったね、白髪に、この国は優しくない。だから、お前はボクのところを選んだのに」
ルネを抱き上げ、矢尻を折る。
「君達がボクを悪だとするなら、君達は何? ボクにとっては───こんな幼い子を射ったのに、罪悪感のまるでない君達の方が悪だ」
ぞわっと背中の毛が立った。
レオンと私に咄嗟にバリアを展開する。
そこに闇色の尖ったものが大量に突き刺さった。
「やっぱりボクは、君達を許さないよ。邪悪なお前らを、ボクは残らず消し去るだろう」
その台詞を残して、攻撃が止んだ時、既にギルは姿を消していた。




