命名
お久しぶりです
どうも、緋絽と申します。
長いこと空いてしまって申し訳ありません。
次回も遅くなると思われます。すべてはテストのせいです。だいたい一月ほど空くかもしれません。
それでもよいという方は、待っていていただけると嬉しいです…!
泣き叫ぶような悲痛な声を、聞いた気がした。
ギルシュは目の前で服を握りしめている女の子をじっと見つめた。
必死に何かを伝えようとしているのがわかる。
───置いて、いかないで。
この子供は泣いてはいない。それなのに、その一言には絶叫が含まれているような気がした。
返事をしようと口を開いた瞬間、戸が再び開いた。
「だめっ!」
美少年のようであって実は男装の少女であるハルキが中に転がり込んでくる。
それにビクリとノラクルが反応した。
「一緒にいこ? 極悪天使顔のもとにいくなんてダメ!」
「極悪だなんてひどいよハルキ」
「うるさい黙れ、極悪天使顔! よくも閉じ込めてくれたわね! あとで覚えとけよ!」
ギルシュは肩を竦めた。そして、ノラクルに向き直る。
「……どうして?」
びくりと子供の肩が跳ねる。
まさか言葉が返ってくるとは思っていなかったように。パクパクと空気を求めて開閉する口が、最後に真一文に引き結ばれる。
自分と相対するときはいつも、何かを堪えている。
たしか、名をノラクルといったか。…………ふざけた名前。こんなにも憎悪に満ちた名はそうない。
「ボクは、ご覧のように悪いやつだよ。お偉い騎士様に、保護された方がずっといいんじゃない?」
ギルシュの返事に、ハルキが驚いたようにギルシュを見つめた。
失礼な。人を子供とみれば誘拐する変態みたいに。
ほんの少し不服に感じたが、気を取り直す。
ギルシュは、常に隠れ住んでいるようなものだ。同じところに住むことはない。子供にとって、それは酷だと聞いたことがある。
お偉い聖なる騎士のもとに行くのが正しいのだ。普通は。
髪の色による優劣の差別は、ギルシュにも経験があった。憐れだと思う。
でも、それだけ。
────それに何より。
「ボクに、君は必要ないよ」
ノラクルの顔がクシャリと歪む。
それを見届けて、ギルシュは足を踏み出した。
「ちょっと、」
文句を言おうとしただろうハルキに向かって微笑んで見せる。
自分の放った言葉は、確実に子供を傷つけたはずだった。
だから、嫌われるだろうと思った。
横を通りすぎて部屋を出ようとした瞬間、くんと服をひっぱられた。
「お兄ちゃんが、いい……っ!」
まだ、どこかに服が引っ掛かった方が強いだろうほどの抵抗感。
弱々しく端を掴み、少女がギルシュを引き留めていた。
「騎士様は、みんなと同じ、なの、私を、髪を、笑う。お母さんは、私に冷たい手で、声で、痛みを、くれる」
極まったように言葉を詰まらせる。
ギルシュは、自分の過去を思い出した。
同じような、過去を。
「それでも、よかった。側に、置いてくれるなら」
そう。自分も、それだけでよかったのに。
数ある傷痕の一つが、じくりと痛みを持つ。ある記憶を思い出すだけで、生々しい痛みと憎悪が蘇る。
ギルシュはノラクルに向き直った。
少女の指からギルシュの服がするりと外れる。それに、ピクリとノラクルは指を動かした。
「でも、もう、置いて、くれない。捨て、られた」
あの頃。ギルシュは、弱かった。ただひたすらに。
けれど、この少女は、涙の欠片すら見せない。
「お、ねがいします、なんでも、やるから、連れていって、ください、……必要とされるように、がんばります」
俯いた顔は、上から見下ろすギルシュには見えなかった。
でも、少女の言葉は、確かに届いた。
「なんで、ボクなの?」
だから、これは、最後の質問。
泣かないノラクルに与えられた、最初で最後の機会。
ノラクルは、答えた。
「お兄ちゃんの手が、温かかったから」
その言葉に、ギルシュは微笑んだ。
「───君の名前は、この瞬間から、ルネだよ」




