遠回り
どうも、緋絽と申します。
なかなか話が進まず申し訳ありません。
『……ルキッ、ハルキッ!!』
首飾りから響いた声に我に返る。
慌てたような、そんな焦燥の声。
ノックス?
「ご、ごめん。ちょっとあって、魔力送るの、止まっちゃった」
そう言いつつギルを見上げると、先程とは打って変わって優しげな笑みを浮かべていた。
犯罪者という事実さえ知らなければ、貴族の坊っちゃんや王子様もかくやといわんばかりの神々しさだ。
『そうか……』
ホッとしたような声音。
ていうか。
「そっちの声聞こえるじゃんか! 俺が連絡しなくなったのが悪いけど、あぶねえよ!」
誰かに聞かれたらどうするの!
自分を棚上げした私の言葉に、きっとノックスはぶちギレるのだと思っていた。いつものように、怒鳴り返されると。
───でも。
一拍の後、ガタッと音がした。
『そ、うだよな。悪かった。ちょっと、動転してただけっていうか、突然、声が途絶えるから、なんかあったかっていうか、』
また、襲われてるんじゃないかって。
そうぼやくように言ったノックスの声が、尻すぼみになっていく。
『変だよな、悪い、なんか、今混乱してるわ』
なんだか、私は嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになっていた。顔が少し熱い。
つまりなんだ。ノックスは私を心配するあまり、何も考える間もなく連絡を取ってしまったということか。
───あぁ。私の欲しかった無償のものを。ノックスが今、そっとくれた気がした。
「え、あ」
「ねえ、ハルキ」
甘やかな囁きが、耳に届く。
正面に立ったギルが私の首飾りを握り───引きちぎった。
「あ……っ! 何すんだよ!」
『ハルキ? どうし───』
「逆魔送」
ぶつんっと音がしてノックスの声が途絶える。
ギルが首飾りを強く握りしめた。
「…………ごめんね? 焼きもち妬いちゃったんだ。だってボクには、そんな顔見せないし」
薄く微笑んだギルが手のひらで私の頬を包む。
びくりと体が跳ねた。なんでこう、底冷えのする笑みを浮かべるんだ。
負ける、もんか。怯んだりしない。私は、レオンの伝令役なんだから。
私は手を払い除ける。
「何、したの」
「何にも。魔力を逆流させただけだよ? 安心して、向こう側の誰も怪我はしてないから」
ホッと小さく息を吐く。
よかった。誰かが怪我をしてないかと不安だったのだ。
私は手のひらを差し出してギルを見上げた。
「返して」
「どうして? ボクがこれを返したって何にも得することないのに」
思わず押し黙る。
何てわがままな。あんまりにも当然のことのように言うから、まぁそりゃそうだと思ってしまった。でも、それは今は私のものだから返してほしいというか返せ。
さてどうしたものか。
自己中心わがままボク様街道まっしぐらのこの男に、何を言えば首飾りを取り戻せるだろう。力尽くで奪い返すなんてことができないのは、この間で理解してる。さすがにそこまで私もバカじゃない。
悩む私の眉間はそれは凄まじかったのだろう。
小さく噴き出す音がして、手のひらに首飾りが載る。
「あははは、冗談だよ。でも、今日は探険はこれで終わりにしようね」
「えっ、だってまだっ」
反論しようとした私の唇に1本指を伸ばして当てる。
「しー。そうだね。まだ、本当の脱出経路は教えてない。明日教えてあげるから、今日は終わりにしよ?」
ねっと首を傾げるギルの白髪が揺れる。
ギルは、頭の脱出経路は教えてくれたが、肝心の構成員の脱出路は教えてくれてない。
それとなく話を振ってみたりしたが、するっと躱されていた。
あぁ、いらっとくるわ。
ジトッと見ると、ギルは微笑んだ。
「大丈夫。ちゃんと教えてあげるよ。逃がしたりもしない」
小指に小指を絡ませてくる。
「やくそーく」
嬉しそうに微笑む顔だけ見ればかなり無害だ。
「さっ戻ろ!」
捕まっていた部屋に戻ると、ノラクルちゃんは隅の方で体を縮めるようにして膝を抱えて座っていた。
「あ……」
入ってきた私を見てノラクルちゃんが少しだけホッとした顔をする。
あぁ! ごめんよ! 一人にしてごめんね!
「ただいまノラクルちゃん! この極悪王子面に敷布もらったから、今寝るとこ作るね!」
「うん。あ、りがと」
少しだけ笑む。
くっっっそ可愛い。何がってなんだか怯えてた猫が懐いてきたみたいな微笑みが。天使か、君は。
あくせくと布を広げる私の後ろで、ノラクルちゃんがギルを見上げていたのを、私は知らなかった。




