連れていくって、どこにだ!
今のところストックがたまっているので早めに更新ができていますが、尽きたら恐らく遅めの更新になると思われます。すみません!
「俺のことを知らずとも、流石に騎士団のことは知っているな?」
騎士団? 騎士団って、あれか。ヨーロッパとかの、白馬に乗って颯爽と現れる奴のことか。いや違うこれは王子様だ、落ち着け私!
「そこの二番隊の頭である俺に、こんなことをして、まさかとは思うが、ただで済むとは思ってないだろう」
冷風が吹きさすぶような声で、一言一言句切って言う男に知らず喉がゴクリと音をたてる。
お、怒っていらっしゃるー! そらそうっすよね! あれ、けっこう痛いんだから―――て、ギャアもっかい笑うんじゃねーよ!
なんかあんたが笑うと怖いのよ! わかってないでしょ、あんた!
ええい。しょうがない、こうなったら。
ぐ、と奥歯に力を入れて男を見返す。
―――肚を、決めよう。
「生憎と、俺は権力に屈しようとは思わないんでね。何、隊長って。偉いわけ?」
私の言葉に、男が初めて戸惑った顔を見せた。
騎士団とか隊長とかって出せば、今までみんな従ってきたのにってか。
つーか隊長って、今時ピンとこなさすぎるでしょうよ。第一、ゴッコ遊びの役職に恐れ戦けという方が無理がある。
もう完全に私の中では、今のこの状況はゴッコ遊びだと結論付けられていた。多少それでは片付けられないこともあったような気がするが、乱暴にその違和感をなかったことにする。
「偉いんだとしても、こんな事件が起きるくらいにはなめられてるんだろ。大したことないんじゃねえの、その権力。俺は、口先だけの奴なんて信じないよ」
瞳に力を入れて相手を見つめた。
一歩も退いてやらない。
「だから、あんたの権力なんかに屈しない」
男が眉根を寄せた。
私はフンと鼻で笑ってみせる。
「あんたの権力はたかがしれてんだよ、隊長さん」
男の顔が力一杯しかめられる。苦々しげな顔だ。
うわ、なんか快感。ハハハざまぁーみろお!
「ベラベラとよく動く舌だ。……どうやら本当に、俺のことを知らんらしいな」
「だぁーから。そう言っただろ」
あれ、もしかしてそれを確かめるために、二番隊隊長だとかなんとか言ってたわけ? それとも、本当に権力ごり押しで従わせようとしてたのかな?
ていうか、設定が掴みきれてない。とにかくこの人が偉い人の役なのはわかった。
うむ、イケメンなのにゴッコ遊びとは少々残念だ。衣装も言動もやけに本格的で堂に入りすぎている。正直に言って馴染みすぎていて気持ち悪い。
私から顔を逸らして部下役らしき人達に指示を出す。
「連れていけ。女達は城で一時保護する」
「は。隊長、あの……」
部下役の人が私にチラッと目をやる。
ん? 何?
「これは俺がどうにかする。行け」
これ!?
部下役の人が去った後、男は再び私に向き直った。目は元の冷徹な光を宿している。
「話は聞こえていたな? お前は俺と、共に来てもらう」
「やだね! なんであんたなんかと!」
私の返事に男が無言で指を鳴らす。
すると、男のそばに鬣の立派な、ライオンのような獣が出現した。
―――は!?
今、一瞬で出てきた!? なんで!?
私の見開いた瞳に、男が首を傾げる。
「なんだ。魔法が珍しいか? さっきから何度も見てるだろう」
魔法!? いやいや何言っちゃってんのこの人、いやでも、魔法じゃないんだとしたら今目の前にいるこいつは一体なんだ。少なくとも、科学で実証できるものではない。
いや、だって。これが、魔法なんてこと、ありえるはずがない。
だって、これが現実で、もし今起きたことが魔法なるものなのだとしたら―――ここは、私がいた世界じゃないということになるじゃないか。
「捕らえろ」
男の命令に、足元にいた獣が私に向かって飛び出す。
頭の中の混乱なんて一瞬で吹き飛んだ。
飛び掛かってくる獣の牙に襲われるのを恐れて顔を腕で庇おうとした瞬間―――また、私を覆ったドーム状の何かにぶつかって、その獣が霧散した。
え!?
この風景は、さっきも見た。炎の塊を、このドーム状の何かが阻んでいた。
男が舌打ちをする。
「なるほど」
何がなるほど!?
「やはり、お前は連れていく」
そして―――ズカズカと大股で近付いてきた。
これにはもう、恐怖するしかない。
同じくらいの速度で後ずさると、すぐに背が壁についた。
目の前に男が立つ。目の前に来るとよりいっそう威圧感のある大きな体躯にビビる。
しまった。もう、逃げられない。
男が若干屈んで私を囲うように壁に手をついた。
私と男の目線が交錯する。睨みあいのように、どちらも目を逸らさない。
いや、むしろ逸らしてほしいんですけどね。ていうか今それどころじゃないんですけどね。考えなきゃいけないことが、あるのに。
「大人しく、行くと思うか?」
「足掻きたければ足掻け。その代わり、どうなっても知らん。身の安全の保証はしない。骨の一本や二本や三本や四本、覚悟しといたほうがいいかもな」
「つまり四肢全部いっちゃってんじゃねえか!」
「だから、どうにかされたくなければ、大人しくついてこい」
男の手が私の顔に伸びて頬に触れる。その瞬間ビクリと体が跳ねた。
男の目が驚いたように見開かれた後、愉しげに細まった。
顔に熱が集中する。
不覚。びびってしまった。こんな奴に―――。
「っ、じょっ、冗談……っ、なんで俺があんたにどうにかされなきゃいけないんだよ! 行くなら俺もあの子達と行くっ」
男の手を払って歩き出そうとして―――視界が回って、体が浮いた。
男の肩に担がれていた。
「―――ぎゃああ! 何っ、何すんだっ、降ろせ! 降ろせよ!」
めちゃくちゃに暴れると、男の腹に私の足が当たった。
「あ」
男からブチッと何かが切れたような音がした。
地面に降ろされ、男が手を高く振り上げる。
こ、こいつっ、女に手をあげるつもり!? いや、男って言ったけど!
トンと首筋に痛みが走った。
「な……」
何すんじゃい! と思って、視界が暗転した。
倒れた春紀を正面から抱き止めた瞬間、男―――レオンは違和感を覚えて、まじまじと腕の中の春紀を見つめた。
「こいつ……」