微笑の効果
どうも、緋絽と申します。
あ、あんまり進んでません、ごめんなさい。
私はノラクルちゃんから短刀を受け取り、手首の紐を切ってあげた。
振り返ったノラクルちゃんがじっと私を見上げる。
私は微笑んだ。
さっき、この子は、ちゃんと女装というか、本来あるべき姿の私に対して、
なんと言ったでしょうか?
答え、お姉ちゃんは男の人なの?
こ、心にまともにダメージをくらったぞ。子供の純粋な疑問は心を抉られると知った。1つ賢くなった気がする。
「…………なぜ、そう思うのかな……?」
ひきつった笑みを浮かべている私に、ノラクルちゃんは首を傾げた。
「だって……この間、町では騎士様だったから」
アウトオオオオオオ!
ばれてる! いやそりゃそうか! 髪型と服しか変わってないから、顔をまじまじ見てたらわかるよね!
「…………ノラクルちゃん。私は女だよ」
「じゃあ、どうして騎士様なの?」
や、やっぱり女は騎士になっちゃいけないのかな。仕方ないのよ。成り行きなのよ。
「…………内緒」
私は人差し指を立てて口の前に持っていき、最高にかっこつけて微笑んで見せた。
これまで、全力でふざけてこうして見せると、みんな呆れるのか気が抜けるのか、顔を背けて話を流してくれた。
この子にも通じればいいな! 私が話題を変えたがっていることは少なくとも伝わるはずだ!
ノラクルちゃんは何かに当てられたかのようにボーッとした。心なしか少し顔が赤い。
顔を背けたノラクルちゃんは少し不貞腐れたような顔をしていた。
「ノッ、ノラクルちゃん!? 何、何何何!? だっ、大丈夫か!」
「……やっぱり、男の人じゃないの……?」
だから違うっつーのおおお!
ま、まぁ、その談義は脱出してからだ。
私は胸のネックレスを握る。
「ノックス、アルベルト、聞こえる?」
ガタンと音が聞こえた。
『クラモチか!? 大丈夫なのか!?』
アルベルトが大声を出したので、私は慌てた。
誰か気づいたらどうすんのよ! いや、心配かけた私が悪いんだけど!
「あーうん。今気がついたんだ。心配かけてごめん」
『……ほんとだよバァカ。なぁにが大丈夫だよ、だ。ハルキ……帰ってきたら覚えとけ』
ぎゃー! ノックス怒ってるーー!
「ご、ごめんって! そ、それよか中を探るから、耳澄ませとけよ!」
『了解』
私はネックレスから手を離した。向こうが魔力を流しておいてくれるはずだ。
「そんなわけだからノラクルちゃん。少しの間お留守番頼んでもいいかな?」
「どこに行くの?」
ノラクルちゃんが何かを掴むように手を伸ばしかけ、すぐに引っ込める。
「探検してくる。すぐに帰るよ」
笑いかけると、ノラクルちゃんは少しの間のあと頷き、ぎゅっと自分の服を握りしめた。
うーん。やっぱり、心細いよね。でも、連れていく方が危険だから、できたら助け出されるのを待っててほしいんだよなぁ。
正直、囲まれたら守りきれない。
私はノラクルちゃんに目線を合わせるために跪いた。
「…………ごめん。側にいてあげたいんだけど……」
私はスカートの裾を破り、血が滲んでいるノラクルちゃんの膝に巻き付ける。キレイかと言われたら頷けないが、雑菌が入るよりはましだ。
まじまじと自分の膝を見つめたノラクルちゃんが、私を見上げた。
私は笑いかける。
「必ず、君の傷を癒しに戻ってくるよ。だから、いい子で待っていて?」
ウリウリ、頭を撫でちゃうぞ。
私の手にビクリとした後、少ししてノラクルちゃんは肩の力を抜いた。
うむ。いじめたりしないとも。安心して撫でられていいんだよ。
「…………わかった」
そう言ったノラクルちゃんが、少しだけ微笑んだ。
あらやだ! 可愛い!
「よし! じゃあ……」
「───あれ? 自由の身になってる」
聞いたことのある声が、部屋の中に響いた。




