任務
どうも、緋絽です!
今回はわりと早めに更新できました!
ノックスは欠伸を噛み殺した。
今は大事なカエンベルク隊長のお話し中だ。見つかったら、あの氷のような眼差しが襲い掛かってくるに違いないのだ。
ただの一騎士であるノックスは、春紀のようにあの視線に晒され、耐えられるほど能天気ではない。
隣に立っていた春紀が欠伸をしたのを見て、ノックスは愕然とした。
そもそもノックスが寝不足なのは、春紀が夜中に魘されるからだというのに。こいつは、そんなことも知らないで遠慮なく欠伸をかますのか。
案の定カエンベルク隊長の氷の視線を浴びた春紀は肩をすくめて言った。
「ゴメン」
こいつ、殴っても許されるんじゃねぇかな。
ノックスに魔力を流して気絶したあの夜から、春紀は魘され始めた。
呻き声の中で、時たま尋常じゃない様子で「許さない」と漏らす。
この能天気そうな頭のどこに、こんな物騒な言葉があるのかと思った。
ノックスに見られていることに気づいた春紀は、舌を出す。
ノックスは脇を小突いた。
巻き込まれてはたまらない。こいつに付き合うと、貴族の先輩に目をつけられたり、ホイットマン隊長に絡まれるようになったりするのだ。
「───本日の連絡事項はこれで以上だ。何か質問は? なければ解散だが、ランセル班は残るように」
シュバルツ副隊長がそう締めくくり、召集は終わった。
「おい、ハルキ、お前欠伸なんてすんなよなぁ」
「そうだぞ。何故僕らがハラハラしなければならないんだ? …………クラモチ? おい?」
同じように呆れた顔をしていたアルベルトが春紀に声を掛けたのに、今度はぼうっとしていた。
それで、ノックスとアルベルトは思い出した。
ランセル班にもたらされた、命令を。
ノックスは躊躇いなく───春紀の頭を全力で叩いた。アルベルトは少し手加減をして顔をペチペチ叩いている。
生温い。
「あだっ」
「よぉ伝令役。目は覚めたか?」
頭を押さえてうずくまる春紀にノックスは密かにホッとした。
「何だそれ! 俺はずっと起きてただろうが!」
「ぼーっとするんじゃない。今はしっかり意識を保って、夜に存分に寝てくれ」
夜、という単語にノックスは眉をしかめる。
ノックスも春紀も、夜は今のところ休める状況にない。そう思うと、少しだけ春紀が可哀想に思えた。
ノックスは春紀の頭を撫でた。
本人は気づいていなくても、知らぬうちに奥底に疲れは溜まっていくと聞く。
こいつ、参らなきゃいいけど。
「ノックス?」
「おら、隊長のありがたいお言葉だ」
ノックスは手を離して向き直る。
「───カエンベルク隊長に、敬礼!」
シュバルツ副隊長の言葉に一斉に敬礼をする。
「…………先日の銀髪の男に関することで聴取を行っていた所、人身売買に関わっていたものから有力な情報を得た」
カエンベルク隊長の言葉が響く。
隣の春紀がパッと顔をあげた。見れば、心の奥底から嫌な顔をしていた。
だからさぁ。そういう凶悪な顔を晒すなっての。
「時々、他の人身売買をしているやつとも関わっているような発言をしていたことがあったそうだ。話では、“蜥蜴”に会いに行くと言っていたことがあるらしい」
「蜥蜴……!」
春紀を挟んで隣のアルベルトが、ハッとしたように息を呑んだ。
ノックスも、面倒なことになったと首をガリガリかく。
「蜥蜴?」
春紀だけがわかっていないようで、首を傾げた。
春紀が物を知らないことに、二人は慣れた。そのため、もうつっこむことはしない。
「“炎激の竜”という、巷じゃ有名な盗賊だ。火計を得意とするためにそう呼ばれ始め、自分達でもそう名乗るようになったようだ。人殺しでも、それこそ人身売買でも、金さえ貰えるならなんだってやると聞く」
アルベルトが眉間のシワを深く刻む。
決して無視できない炎激の竜の勢力をして、蜥蜴と言ってしまえるのか。それだけの、余裕があるというのか。
「へーえ」
ウンウン頷く春紀にアルベルトは気が抜けた。
まるで心配をしている自分達が、考えすぎなように思えてくるから不思議だ。
「人身売買をしているという確固たる証拠はないが、どのみち余罪は両手でもありあまるほどだ。出没場所もわかっていることだし、遠慮することはない」
カエンベルク隊長がうっすらと笑みを浮かべた。
あーあぁ。面倒な任務になるのか。
ノックスは心の中で溜め息をついた。
班長がランセルである時点で、かなり危ない職務に着かされると理解し、ノックスはすでに回避を諦めている。
自分はなるべく死なないように頑張るだけだ。
「クラモチ。お前を囮にする。わざと捕まり潜入し、二日のうちに内部の状況を把握して脱出しろ」
「えっ!? は、はい」
恐らく唐突すぎてわかっていないだろう春紀に、ノックスは同情した。
確かに。この中では、一番違和感がない。
「ノックス・アークライト、並びにアルベルト・グリーン両名は、連れ去られる春紀を尾行し、本拠地を突き止めろ」
「はっ」
敬礼をすると春紀も慌てたように姿勢を正す。
春紀は隊長に一撃食らわせるほどの実力があるらしい。
でも、その中性的な見た目や線の細さで、そんな雰囲気が微塵も感じられない。
「…………お前、大丈夫かよ」
「へ? 何が」
キョトンとする春紀に、ノックスは溜め息をついた。そして何も知らない春紀に、カエンベルク隊長が叩きつける。
「クラモチ。女装用具は後で支給する。いいか、捕まるまで絶対に男だとばれるなよ」
春紀は大きく口を開けた。
「────はぁ!?」




