ちょうこう
お久しぶりです、緋絽と申します!
んなにこ更新が遅くても読んでくださるかたがいることに感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます!
レオンは泣き疲れて眠りに落ちた春紀をゆっくりベッドに横たえた。
泣き腫らした瞼が痛々しい。だが、その寝顔はどこかすっきりしたように見える。
……アルベルト・グリーンから、記憶のある限りまでの報告を聞いた。
騎士団が魔法だけでなく武器も携帯するのは、威力は期待できるが数を得られないため、勝敗の決定打にはならないからだ。
だが春紀はいくら先天性型だとしても、魔法を使いすぎていたらしい。ノックス・アークライトのように、昏倒してもおかしくないほど────。
ところが底無しに魔力を使っているかと思えば、唐突に途中から魔法が使えなくなった。
魔力量の限界が来たのか?
……いや。
レオンはベッドに腰かけて春紀の顔にかかった髪をうなじへ梳きやってやった。
常に“無効化”の魔力が放出されっぱなしに見えた力。そして、アークライトに最後に流入した力。
「……クラモチ、お前の能力は、無効化ではない」
吸収と放出。
それが、春紀の力。
限界が来たのは、魔力量ではない。
敢えて言うならば体内の何処かに存在する魔力の吸収される甕が満杯になったのだ。
満杯になった水がそれ以上増やせないように、魔力もそれ以上吸収できない。それ以上増えれば、もしくは衝撃を与えれば───後は、こぼれるだけ。
そう考えれば、すべてのことに納得がいく。
恐らく、限度が来たら自動的に吸収が止まるようになっているのだろう。
「難儀なやつだな、お前も」
だが。吸収と放出を上手く考えて使えるようになれば。
ものになる。
レオンはうっすらと笑みを浮かべた。
もともと、体術はずば抜けている。ただ格闘技の規則に乗っ取った動きが身に付いているだけだ。
武術の師範代を持っていると言っていたが、本当の闘いでは、急所以外も狙われるし、何より卑怯な手だって使われる。
春紀はそれをわかっていないようだが、まぁそれは追々叩き込めばいい。
それよりも、問題は。
打って変わってレオンは忌々しげに眉をしかめた。
あの銀髪。名乗りはしなかったが、随分と特徴的な見た目をしているため、必ず何かしらの情報があると思っていた。しかし───。
「いったい今までどこに隠れていたのか……情報の秘匿もここまで徹底的なのはなかなか見られんぞ」
見事なまでに、過去の痕跡は見つからなかった。一人で襲撃を試みるのだ、それなりの実力があるはず。
強者は良きも悪しきも目立つものだ。
それが塵あくたほども情報がないだと?
レオンはしかめた眉を揉みほぐす。
「ポッテーリ子爵を生きたまま護送できたのが不幸中の幸いか」
銀髪が投擲した刃を、子爵に到達する前に魔法で封じたのである。
そう、レオンは間に合った。間違いなく子爵は生きている。生きては、いる。
もう二度と、その意思では何も伝えられないだけで。
王城に無事到着し、牢に連れていこうとした騎士が見たのは、手足がどす黒く染まり、口も音を出せない子爵だった。
食事は摂れるし、排泄機能は問題ない。
ただその手足と声だけが、毟り取られたようにその役目を果たさないのだ。
原因は不明だが、恐らくかなり前から何らかの仕掛けがされていたのだろう。
その鍵がとある状況下で外されるような───。
「まだ不確定な要素が多々ある上に……何にせよ、内通者がいることは間違いない」
護送の日にちは秘匿してあった。それを知るのはごく僅かだ。
まったく、仕事を増やす者ばかりだ。
レオンは春紀に目をやった。
さっきまでしゃくりあげていたくせに、今は心地良さそうに眠っている。
偶然とは言え、二度も恐らく奴が絡む事件に遭遇し、そして銀髪に気に入られた春紀。
こいつも例外なく、俺の手を煩わせる存在だ。
ほけほけとアホ面をさらしているから、ああいった輩に付きまとわれることになる。愚かはつけ込まれる最大のもとだ。
そこでふと、レオンは春紀に異変を感じた。
おもむろに手を伸ばし春紀の頬を見つめ、なぞる。
「……ほう」
あの銀髪は、諦めていないらしい。
春紀の首と腰に手を回して頭を抱き上げると、その衝撃で春紀が睫毛を震わせた。
レオンが春紀の前髪をかき上げ、うっすらと春紀の漆黒の双眸が開かれた瞬間───レオンは、その額に口付けた。
「───っ!?」
ギョッと瞠目した瞳にレオンは何の感慨も見せずに淡々と命令した。
「ハルキ。お前、明日より毎日、必ず任務の前に執務室を訪れろ」




