魔法講座
遅くなりました!
そろそろリアルで戦う時期になってきたので、しばらくこれから更新をお休みすると思います。
書けると思ったらアップしますが、さらに間隔が空くようになると思ってください。
必ず完結させますので、どうか見捨てないでやってください! えぇ切実に!
「はい、それでは、魔法講座・第一講『魔力制御をしてみよう!』を始めまーす。どうも、今日のみなさんの先生を務めます、ランセルお兄さんでーす。こーんにーちはー」
「こんにちはー!」
イエーイとピースをするランセルの周りでちびっこたちが歓声をあげながら拍手をする。
私は地面に膝をつき、拳を叩きつけた。
「子供と同列……っ!」
いや、まぁ、しかたないのはわかるけど! 何故だ、認めづらい!
「はい、そこのいい歳して初めて魔力制御する兄ちゃん、ちゃんと話聞けー。おへそをこっちに向けろー」
「はーい!」
ぎゃああ! その呼び方と言い方やめて!
やけくそになって返事をすると、ランセルがニヤニヤしながらこっちを見ていた。
楽しんでやがりますね! わぁ、むっかつく!
訓練はどこでやるのだろうと思っていたら、朝になっていきなり訓練場に呼び出された。そしてまさかのちびっこ達と一緒に魔法訓練がスタートすることと相成ったわけである。
……子供達の興味津々な視線が痛かったです。
「じゃあ、まず、ハルキは魔力の感覚掴まねえとなぁ。でも、ふっつーはだいたいわかってるもんだけどなぁ」
ランセルが首を傾げる。
なんだっけ、前にノックスが教えてくれたんだよね。温かいものが滲むような感覚って言ってた気がする。
「んー、あれだ。めんどいから一発で掴んでもらおう」
めんどい!? ちょっと、ランセルさん! 魔法ってそんな軽いノリで扱っていいものなんですか!
そう文句を言おうと口を開いた瞬間に、ランセルがピアスを一つ外した。一瞬、彼の瞳孔が金に染まり、縦に細まっているのが見えた。
―――濁流のように温かい何かが押し寄せてきたのがわかった。
あまりの勢いに目を瞑る。
それはぶつかる前に一旦動きを止めて、今度はゆっくり体の中に入ってきた。なんだかよくわからないが、特に害がある感じはない。体全体を巡るようにして、温かいものは動いていた。
恐る恐る目を開けて、私は心底驚き、絶叫した。
「―――ぎゃああああああああ! なっ、なんっ」
私の周りを、うねり狂うように炎が取り囲んでいた。
まるで私を守るように展開されているドームが無ければ、今頃丸焦げだ。
「おぉ、無効化ってこういう。わーお、吸い込まれるの初めてかもしんねえ」
吸い込まれる!? 何が!?
しれっとした声が聞こえるが、火のせいで奴の姿は見えない。
よし、ちょっとそこで待ってなさい。殴りにいかせていただきますのでえ!
ていうか真面目にいやほんともう勘弁してくれ。
なんで爆発の疑似体験みたいなのをしなきゃならないのか!
「―――っ!」
やめる旨を伝えようとして、押し込めようとしてくるのがわかった。
どことなくドームが範囲を狭めた気がする。
ぎゃああああああああ! しっ、死ぬ!? 私ここで死ぬ気がする!
「ちょっ、ちょっとっ、ランセル!」
「このままじゃ、ハルキ怪我すっかなぁ。まぁ、いいか。ほら、訓練中の怪我ってことで」
ランセルはこっそり呟いたつもりらしいが、私にはハッキリと聞こえた。
まったくよろしくないに決まってんでしょうが!
ど、どどど、どうしよう! そうだ、無効化ってレオンも言ってたし、どうにかなるんじゃない!?
さあっ、消えろ!
念じてみたが、何の変化もない。
…………魔法の使い方がわからない!
「ど、どうしよう」
ほ、本格的にまずい。
なんだかさっきよりもドームが小さくなった気がする。
ヤヴァーイ! まずーい!
火……火を消さなければ……! どうにかして消せないものか! ほら、あのー、水をぶっかけるのと同じ要領で!
ランセルの炎に水が覆うようにかかるのを想像した途端―――ぞわりと、体の毛穴の至るところから温かいものが滲み出た気がした。
一瞬で、ランセルの火が消える。
ようやく見えたランセルが拍手をした。
「おーできたじゃーん! 温かいものは感じたかね」
「え、あ、はい!」
あれ、できたの!? あれが魔力か!
「んじゃーそのまんま、別の属性試してみようぜ」
え、もう温かいもの感じないけど。
いや、でも、多分。要するに、念じることではなく、想像することが大事なんだろう。さっきので少しコツをつかんだ。
「やっぱあれだ、分かりやすくて安全な水だろーなぁ。なんかやってみ」
「はい! いざっ!」
両腕を挙げてポージングを決め、目を固く瞑る。
某有名魔法学校長が、名前の言えないあの人と戦ったやつで!
「出でよっ、ウォーターボオオオオオル!」
カッと力強く目を開けて腕を降り下ろす。温かいものが抜けていった気がした。
…………何も起きない。
「いや、その、まぁこういうこともあるって」
「ちょっと飛び降りてきます」
「まぁ待て待て」
走り抜けようとした私をランセルが二の腕を掴んで引き止める。
離してくださいいいい!
あんたに気を遣われたことが一番ダメージでかいんですけどねえええ!
あんなにポージング決めたのに! 発動しないとか! 発動しないとか!!
「わかった! わかったから! いろいろやってみようぜ!」
その後、いろいろなことを試した。
結果わかったこと。
「その一、無意識に守れるのは自分だけ。その二、発動後の魔法は意識しないと消せない。……まぁ、便利っちゃあ便利か? 問題は」
地面に拳を叩きつけながらブツブツ呟いている私の肩をランセルが宥めるように撫でる。
「ふっつーの属性が使えねえことだよなぁ」
そうなのだ! 魔法、使ってみたかったのに! いや、実は使ってるらしいけど、何せ自分を守るのは無意識だからさ! 感覚ないんだよ!
「うぅ……ちなみに、ランセルはどんな属性なんですか?」
私の言葉に、ランセルが目を瞬かせる。
「んー……知りたい?」
ウンウン頷くと、ランセルは煮えきらないような曖昧な笑みを浮かべた。
「教えたくねぇなぁ。お前、どう考えてもびびりだからさぁ」
びびられたら、オレ今何するかわかんねーよ? とランセルが呟く。
物騒ですね! 怖がるようなものなんですか!
おばけ!? おばけなのか!!
流石におばけは怖いんですけど!
「お、おばけ属性なんすか」
「んなわけないだろー。それは闇」
あるんですか! おばけ属性!
「えー……教えなきゃダメかぁ?」
「いや、そんなに嫌ならいいですけど。数少ない同じ先天性型として、参考にしたかっただけなんで」
うん、多分、どうにかなる。
普通の属性が使えないのはもしかしたら致命的なのかもしれないけど。それでも置いてもらえるように頑張ろう。
うわぁどうしよう。急激に不安になってきた。
追い出されたり、しないかな? 伝令役なのに普通の属性使えないって、やっぱりダメ?
頭を抱えて呻いている私を見て、ランセルがハァと溜め息を吐いた。
「……さっきちょっと見えたろ。オレの目」
目? そういえば、縦長く金色になってた気がする。
「オレのは…………ドラゴンの能力なんだよ」
なんですと!? ドラゴンとか! 空想上の生き物でしょ!?
強すぎじゃない!
「へぇ! すごいんですね!」
鼻息荒くそう言うと、ランセルがキョトンとした。
まるで、想定外のことを言われたみたいな顔。
「ドラゴンってことは飛べたりするんですか?」
何それかっけえ。
「え、や、残念ながら飛べないけど。……お前、ドラゴンの災厄とか、怖がらねえの?」
首を傾げるランセルに合わせて私も首を傾げる。
ドラゴンの災厄?
もしかして、ドラゴンが人里を襲う的なことかな? ありきたりだけど。
「え、だって、ランセル別にドラゴンではないじゃないですか」
クッとランセルが瞠目する。
「い、や、そうだけど」
「ランセルが人里襲うわけないし、そもそも襲う理由なくないですか? 人間なんだし。何を怖がる必要が?」
そうでしょ? と言わんばかりに首を傾げる。
そうすると、唖然とした顔のランセルが次の瞬間吹き出した。
「アッハハハハ! オレお前マジで気に入ったわ!」
なぬっ!?
「よしっ、先天性型の先輩として、色々見てやるよ。だから、負けんな?」
何にですか!
グリグリ頭を撫でられて不貞腐れる。
子供扱い!
「安心しろよ、レオンが及第点出すくらいにはしあげてやるから」
ニッコリ笑ったランセルが、不気味に見えた。