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月の入江  作者: 緋絽
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乗馬訓練

長らくお待たせして申し訳ありません!

現実がかなり忙しくなって参りました! 次回も遅くなるかもしれないことを先にお伝えしておきますね……。




「ところで、クラモチ。お前、馬は乗れるのか」

レオンのその一言で、私の今の鬼のような訓練が始まった。



「股しっかり絞めて体安定させろ。……前屈みすぎる、力入れすぎだバカ! 馬が痛がるだろうが!」

ひぃぃ!

ノックスに怒鳴られながら馬に乗って歩く。

ノックスが私の後ろに跨がって馬を操っているので、一応馬が突然走り出すことはない。

ただ、この距離感、いたたまれないというか。あああ近い! 恥ずかしい! 背中にノックスの体が引っ付いてるし、何より若干お腹に回された腕がものすごくその存在を主張する。

そういうわけで私はパニックに陥りそうなのだが、ノックスはカンカンに怒っている。

「まじありえねえ。何だって野郎を馬に乗せてやんなきゃなんねえんだよ!」

「ご、ごごごごめんノックス!」

そうだった、私、男のふりしてるんでした! おう、そう考えたらこのトキメキ体勢も考えものだね! 乙女の永遠の夢なはずなのにね! ていうか私で乙女の永遠の夢とか! うああ痒い!

謝ろうと勢いをつけて後ろを振り向こうとしたらノックスの顎と衝突した。

「…………ハルキ、てめぇ」

「ごーめーんーなーさーいー!」

ぎゃあああ! 舌! 舌噛んでないかい!?

ふ、と何かを諦めたようにノックスが笑む。

「あぁ、いい、別に。謝罪は体に聞く」

それは、どういう意味!

それからノックスはよりいっそう厳しい乗馬訓練を私に課したのであった。



「もー無理! 無理無理無理! お尻痛い!」

降りたいです! 猛烈に!

「耐えろよそれぐらい! お前、ほんっと信じらんねぇ! よくそんなんで騎士団入れたよな! 騎士の意味わかってるか? 馬に乗って駆けるんだぞ」

馬から降りて私が乗っている馬の綱を引きながらノックスが怒鳴る。

ギクッと体が跳ねた。

い、いやぁ、それはさ。ほとんどコネというかね。

「お前、あれだな、ほんとどうしようもねぇな。これで戦争とか起きてみろよ。伝令役のくせに馬乗れねえとか、暗殺されてもおかしくねえな」

「やめて! 怖えって!」

呆れたようにノックスが溜め息をついた。

い、いたたまれない。

こんな私が伝令役なんぞになってほんとすみません。

肩を落とした私を見てノックスが顔をしかめた。

「……ちげーの、俺は! 責めてえわけじゃなくて、だから練習して早く馬乗れるようになれって言いてぇの!」

ガリガリ頭をかきながらノックスが怒鳴った。

「そんなんじゃ、いつか昨日みたいに絡まれても言い返せねえだろ。あいつらの言いがかりつける格好の理由になるし、そんなのキツいし面倒だろ?」

困ったような顔でノックスが続ける。

「だから、ほら、頑張れ。乗れるようになるまで、つきあってやるから」

ノックス君!

私の頭の中でノックスの好感度が跳ね上がって飛び抜けた。

もうほんとになんなのこの人! いい人すぎるよ!

「ノックス、ありがとう! 俺、なんか今ので頑張れる気がする!」

「あぁそりゃよかった」

ノックスが疲れたように溜め息をこぼす。

…………あ、でも。

「………ちなみに、ノックスさ」

「はん?」

再び私を見上げたノックスの視線から逃れる。

こっちの世界に来て、初めて無償の心配をくれた人。私は、すごく嬉しかった。だから、心配してくれたノックスを一発で好きになった。もちろん仲間として、友達としてだけど。

でも、そう思ってるのは私だけで、実はノックスも伝令役の件で私が嫌いとかだったら。―――それは、少し、きついなあ。

「ノックスも、伝令役のこと、あんまり賛成じゃない?」

私の台詞にノックスがチラリと私を見上げる。

「なんで」

「な!? んでって、そりゃ……」

ぐ、と綱を握る手に力が入った。

あぁ、どうして聞いちゃったんだろう。

もしこれで、肯定されたら、私は間違いなく傷付くのに。

「俺、結構ノックスのこと好きだからさぁ。ルームメートだし、嫌われてたら、やだなぁって」

せっかく、仲良くなれそうって思ってるのに。アルベルトや昨日の奴らみたいにノックスが思ってたらどうしよう。

ふと気づくと、ノックスが肩を震わせて笑っていた。

「なっ、なんだよ! なに笑ってんの!?」

「いや、もうほんと、お前ずるいわ」

喉を鳴らして笑っているノックスを見ていると怒るに怒れなくなる。

「何が!」

「いや気にすんな。お前が直球のバカということはわかった」

何をぉ!?

ハーと息をついて笑いを納めたノックスが、馬の足を止めて私を見上げた。

「俺は、伝令役になんかなりたくねぇし、そもそも興味ねえよ。よく考えてみろ、何を好き好んで隊長のそばにずっと引っ付いてるような役職につく必要がある」

「おぉう、ノックス、レオンのこと嫌いなのか?」

ちょっと、ランセルといい、レオン嫌われすぎじゃない?

「すげえ人だとは思うけど、あの鉄仮面を常に眺めなきゃならんのはごめんだな。―――どうだ、安心したか?」

その言葉にハッとノックスを見ると、ニヤニヤしながら私を見上げている。

一気に顔が熱くなった。

意地悪だ!

なんだか、こうなんとも言えない恥ずかしさが私を襲っている。

「うるさいバカ! もーいい!」

顔を空に向かって思いっきり背ける。

そりゃ嬉しいし、安心したにきまってんでしょおおおお!

でもからかわれるのはムカツクのよ! ノックスのバーーーーカ、バーーーーカ!

クックッと喉を鳴らして笑いながらノックスが馬から少し離れる。

「おら、今日はこれで終わりだ。降りろ」

「え」

降りろ? え? この高さから?

「…………そういや、馬に乗るの初めてとか言ってたな」

「えへ」

私の誤魔化すような笑いに、とうとうノックスは諦めたように鼻で息をついて。


そして、両腕を私に伸ばした。


「ん」

待て待て待て! これは、まさか!

「早くしろバカ。野郎相手にこれをやるのは俺だって辛えんだぞ」

「い、いや、」

だって! どう考えても飛び降りる抱き止めるキャッ! の流れだ、これは!

「ハルキがいいならいいけどな、ずっとそこにいるつもりかよ」

「降ります! 降りますとも!」

足を馬の背の上を通して馬に横のりになると、ノックスは私の手を肩に置かせ、片手で私を持ち上げた。

ノックスに引き寄せられて、若干抱き締められる感じになる。

―――ぎゃああああああああああああ!

地面に降ろされ、一体どういった顔をしようかと頭を悩ませている私に、ノックスが言った。

「お前、腹筋ねぇのな。細えし、一体何食ってんだ?」


今のところあんたと同じもんですよおおおお!





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