眠りに落ちる
お、思ったより早く更新ができました……現実逃避し過ぎですかね!
「お願いします! 宿舎だけは勘弁してください!」
現在、私はレオンの執務室に移動して土下座している状態です。
宿舎に入るという衝撃的な決まりを聞いたあと、ノックスとアルベルトを置いてきぼりにして真っ先にここを目指した。
いや、ほら。周りは男だと思っててもさ、私実は女じゃないすか。
騎士団の中に女の人を見掛けなかったことから、恐らく騎士団は女人禁制なのだと思われる。
ということは女とバレたら、まず間違いなく追い出される。
それは困るな! びっくりするぐらい困っちゃうな!
レオンの口添えがなかったら、多分私に働く場所はない。
ひぃぃいいい! 考えるだけで恐ろしい!
「ハ、ハルキ? 急にどうした?」
ロイが土下座する私の肩を掴んで体を起こさせる。
「はい! わっ、じゃない、俺はっ、宿舎に入るわけにはいかないんですぅぅうう!」
だってさ! よく考えてみてよ! 宿舎というからには、寝泊まりする場所なわけだ! つまり、当然風呂があるだろう! どう考えても各部屋に風呂があるはずがない。ってことは、大浴場だ。そこに、ノコノコ入ろうと思うほど呑気で露出狂な頭はしてない。
や、やばい。まずい。
このままでは、女だとばれる!
「そうは言っても、これは決まりだしなぁ。本部近くに家はあるのか?」
ロイの困りきった声音にグッと詰まる。
「ない……です……」
がくりと肩を落とす。
な、何ということだ。逃げられない。
「なんだぁ? ハルキ、ノックスと相性悪かったのかよ」
あいつ、けっこうオレ好きだけどなぁとランセルが呟く。
もちろんだとも! ノックス君はすごくいい人だよ! でも、駄目だ!
「いや、そんなことはないんですけど……」
そう言いかけて遮られた。
「宿舎に入るわけにいかない理由はなんだ」
レオンの瞳に見据えられて体が固まる。
え、えーっと。なんでそんなに、愉しげなのでしょうか?
レオンの手が頭を掴み、顔をさらに上げさせられる。
「見られたくないことでもあるのか? ―――女でも、あるまいし」
ぎぃやぁああああ! やめてえええ! 言うな!
「あーっとですね! 実は俺、背中にちょっと見られたくない傷痕がありまして!」
私の言葉にピクリとレオンが眉を寄せる。
おぉ! 意外といい理由なんじゃない!?
うむ、そんなに嘘はついてないし! 一応ほんとに傷痕あるし! あるかないかわかんないくらいの傷痕だけど!
家族と外でプロレスごっこしてる時に、背中から落ちて切ったものだ。……いや、わかってる、流石にアホな理由だということはわかってる!
「あんまり、その、見てて気持ちいいもんでもないんで」
「そうなのか……」
ロイが気の毒そうに眉根を寄せる。
はい! 若干の罪悪感があるけど、自分が生きるためだ、許せ!
首降り人形のように肯定の頷きを繰り返す。
それを何か考え込むように見つめるレオン。
な、何。
「だが、あいにく一人部屋は班長格からしかなくてな。諦めろ」
な ん と !
「お世話になります……」
「え、何。なんでそんな落ち込んでんの」
どんよりした空気を背負った私をノックスが招き入れる。
「いや、ちょっとね……」
「おーおー辛気くせえな。おい、荷物は?」
あぁ、私、そういえばこっちに来たときのジャージと財布とスニーカーしかない。
…………あぁ。何にもないなぁ。
「あー。俺、何にも持ってないわ」
「はん? お前着替えとかどうすんの」
確かに! お風呂入った後、ノーパンはちょっときついよ!
「下着どうしよう」
「あ、俺新品あるけど。やろうか?」
えっ。
固まった私に訝しげにノックスが首を傾げた。
「いらねぇの?」
「や、あの」
返答に困る。
それは、男子的にありなのか。それともノックスが親切心で、身を切るような思いで言ってるのか。
「よし、いらねぇんだな、お前は下着無しで過ごせ」
「あああいりますいります!」
縋りつくと鼻で溜め息を吐かれた。
な、なんだかすみません。
「じゃ、俺、新兵のノックス・アークライト。よろしく伝令役」
手を差し出される。私は迷いなくその手を握った。
「言ったと思うけど、伝令役のクラモチハルキ。ハルキでよろしく」
「あぁ、そういやそんな名前だった」
覚えてなかったんかい! あ、だからずっと役職名で呼んでたの!?
その夜遅く、私はベッドに潜り込むとあっと言う間に眠りに落ちた。
流石に異世界に来て二日目では疲れがあったらしい。
ちなみにお風呂はノックスに誘われたが、傷痕が云々の件を話したら、何かを察したように先に行ってくれた。さらには私が入っている間の見張りまでしてくれたので、若干心苦しい。なんとか理由つけて、ノックスを見張りの苦行から解き放たなければ。
そこまで考えて、完全に意識がなくなった。