誓う
おひさしぶりです!
か、かつてないほどのお気に入り件数にビビっております。しかし、嬉しい! お気に入りしてくださった方々、ありがとうございます!
恐らく今後も、リアルで多くの受験生と戦わねばならないので、定期的に更新することは難しくなります。
それでもどうか、おつきあいください!
なぜ、こうなった。
「ハァルキー、お前さあ、棒術が得意って言ってたよなぁ? 刃先なくていーわけ?」
「あ、まあ……」
ふーんと呟きながらランセルが武器庫の中に戻っていく。
白金天使顔と、戦うことになりました。
得物は自分の得意なもの。相手が戦闘不能になるか、降参したら終了。
いやいやいや、待って、おかしい。本人の意思をまるっと無視して事が進んでいる。
「アルベルト・グリーンは新兵だが、剣筋は今年のやつらの中ではずば抜けている。おそらく、古参兵にも奴に勝てない者がいるだろうな」
レオンが後ろで腕をくんで柱にもたれている。
「はぁ、そう」
正直に言おう。ちっとも気乗りしないです。
…………どうする。力いれないで戦って、負けてしまおうか。
だって、まだ、入る覚悟すらしてない。
それに、ついうっかりついてきちゃったけど、私はまだ、レオンを信じたわけじゃない。
昨日の今日で、自分を捕らえようとした奴を信じられるほど呑気な神経は、流石にしていない。
…………いや、ついてきちゃったけど。つっこまれたらおしまいだけど!
私は、一人だ。
強く拳を握る。
だから、苦手でも、考えなくちゃ。何をどうすれば生きていけるか、考えなくちゃ。
ランセルは、レオンがやられたと聞いて大笑いしてた。
それは簡単にやられたことをからかってのことなのか、それとも、本気でざまあみろと思ってのことか。
…………なんだか、前者のような気がする。でも、後者だったときの場合に備えなきゃだし。
突然、レオンに強く頭を掴まれた。
「んえ!?」
「お前、手を抜こうなんぞと考えてるだろう」
なぜわかった!
私の驚愕した顔に、レオンがこいつあほだと言いたげな顔をする。
なんだこの野郎。バカにすんな!
「お前、カマにかけられやすい上に顔に出やすいな。バカなのか」
「はあん!? むっかつく! 素直だとか、もっと言いようがあるだろーが!」
私の怒りで歪んだ顔に、レオンが顔をしかめた。
「どこの悪人よりも悪人らしい顔をするな」
「うるせーよ、この冷血デリカシー無男――」
頭を掴んだままだった男の手が、グギリと私の顎を無理矢理持ち上げた。
痛い! そして危ない! 舌噛むかと思ったじゃん!
「なんだよ!」
いちいち顎を掴むな! 小さいとか思ってんのね!? 下向くと首疲れるとか思ってんのね!? むっかつく!
「何を迷う必要がある? お前の望むものなら、ここで手に入るはずだろう」
そう。こいつの言う通り、私の欲しいものはきっと手に入る。
仲間が。この世界で、なんの見返りもなく助けてくれる仲間が、私はほしい。
でも。
「あんたが、信用できない。見返りもなくこんな場所教えてくれるなんて、裏があるんじゃないの?」
強気に見えるように笑いながら言い返すと、レオンはフンと鼻を鳴らした。
「なるほどな。真っ当な疑問だ」
私から手を離してレオンは再び柱にもたれた。
それすら絵になるのがむかつくのよねー。
「俺は、お前がほしい」
「はぁ!?」
ちょ、こいつっ、何言ってんの!?
グワッと一気に顔が熱くなる。
「勘違いするな、そういう意味じゃない。お前の力のことだ」
「あーそー!」
悪かったな勘違いして! でも、紛らわしい言い方したあんたも悪い!
「力って、その、魔法が効かない云々の?」
「そうだ。お前の力は、良くも悪くも異質だ。どこかのバカに利用されるくらいなら、俺の手元に置く」
レオンが自分の掌を見つめ、ゆっくりと握る。
「お前は仕事と住処、俺は魔法の効かない便利な駒を手にいれる。悪くない話だ」
「悪いわ! 俺ばっか負担でけえじゃねえか!」
怒鳴り返した私を無視して、レオンが武器庫から出てきたランセルから棒を受け取る。長さは大体180センチ。
「お前が、俺の部下になるのなら、俺はお前を裏切らない。俺の部下である以上、誰にも利用させたりしない。必ず守ると誓う」
ドキリと心臓が跳ねた。
珍しいくらい真面目な顔でレオンが私を見つめている。
守るという言葉に顔が熱くなった。
「ん、な……」
レオンが棒を私に差し出した。
「だから、俺の手を掴め、俺についてこい」
ゆっくりとレオンが笑む。
「俺を選べ、ハルキ」
ここまで、自信満々で傲岸不遜な奴を初めて見た。
あぁ、ずるい。ここで、名前を呼ぶなんて。
そして、初めて下の名を呼ばれたことに気づいてしまった私が憎い。
どうしてだろう。ランセルやロイの時には、何も感じなかったのに。―――呼ばれたことが少し嬉しいだなんて。
私は、レオンから棒を奪い取った。
「―――言ったからな。約束だぞ」
「あぁ。約束だ」
―――決着は、意外にも早くついた。
「始め!」
その声と共に、アルベルトが打ち込んできた。
棒で受け止めて弾き返す。
速いし、キレがある。
何度か打ち合ってから、アルベルトが距離をとった。
そして、剣を持っていない方の手を真横に一閃する。
青い炎がいくつも出現した。
私はぎょっとして突っ込もうとしていた足が鈍る。
でも。
そのまま走りながら、私は大きく息を吸い叫ぶ。
「解除!」
私の声が響くと同時にいくつもあった青い炎が一瞬で消えた。
「なっ―――」
顔を驚愕に染めたアルベルトが、突っ込んできた私の突きを避け、持っていた剣を棒に振り抜く。
パンと竹を割ったような音がして棒が折れた。
「んげっ!?」
「もらった!」
そのまま返しで私に振り抜こうとしていた剣を、屈むことで避ける。そして地面に手をつき、足を振り上げアルベルトの手を蹴った。
一瞬の、静寂。
カランと高い音をたてて、アルベルトの剣が遠くに落ちた。
一拍遅れて反応したアルベルトよりも早く、私はアルベルトの足を折れてしまった棒で払う。
「―――っ!」
体を倒したアルベルトの上に跨がって膝で両肩を抑え、喉元に折れた棒を突きつけた。
「そこまで! 勝者、クラモチハルキ!」
ロイの声が響く。
ざわりとざわつきが広まる場の中心で、アルベルトからどいて手を差しのばした。
いや、ほら。やっぱり礼儀は大切にしないと!
「……なんのつもりだ」
「いや、良い戦いだったと思わねえ? ありがとな!」
ニコニコ笑って言うと、不機嫌そうだった顔を唖然とした表情に変える。
ん、何?
「別に」
やんわりと手を押しどけ、アルベルトは一人で立ち上がり、そのまま人だかりの中へと戻っていった。
「宣言通り、クラモチハルキをカエンベルク隊長の伝令役として任命する!」
そのロイの言葉聞きながら、レオンの隣に行くと、レオンは満足げに片頬を上げて笑って。
「―――よくやった、ハルキ」
「うるせーな」
ポンポンと、軽く頭を叩いた。