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勇者と前勇者とその仲間

 土下座している勇者と仁王立ちで勇者を見下ろす魔王。


 こんな光景を見たら全人類が世界の終わりだと絶望すること間違いなしだ。御一行よ、呆れた目で見てないで土下座をしてる勇者を立ち上がらせてやらんと色々と可愛そうだぞ。


「それにしても、リーシャさんですらこんなに凄いのに、前の魔王を倒したショージさんはどれぐらいの強さなんですか?」

「うん? 俺、というか、その時のメンバーがかなり面白かったからなぁ。バランス的には問題無かったんだが」

「もう、ドーンズバーンと」

「それはもういいっ!!」


 スパーンッと小気味良い音を響かせるようにリーシャの頭を叩く。

 まったく痛がってる様子を見せないのは単に耐久値が高いだけ。こいつの頭が弱くなってるのは叩いてる俺のせいではない。


「ちなみに、その時のメンバーって教えてもらっても……?」

「ん? そうだなぁ。でかい両手剣使ってた俺だろ。一番最初に会ったのはレオだな。知らない間に契約云々まで話が進んでてカンナに呆れられたなぁ」

「契約って、もしかして使い魔ですか!?」

「あー……やっぱり驚くのか? けど、あんまり使い魔なんて言わないでくれ。あいつは俺の大事な相棒だからな」

「ご、ごめんなさい」


 慣れてるから別に構わないんだが、さすがにな。

 まぁ、魔法使い風の女の子が初めてこんなに大きな声を出したんだ。確かに使い魔がいるというのは珍しいことなのだ。……俺の場合はカンナに教えてもらってやっと理解したわけだが。妙に盗賊共が数で攻め掛かってきたり、王宮の連中に目を付けられるわけだ。

 それもこの世界での醍醐味と言っちゃぁそうだとしか言えないし、あの奇襲紛いの攻撃に張り巡らされた権謀術数と言ったら……

 あ、思い出したら腹立ってきた。


「俺がこっちに戻ってきてから結構経つんだが、まだ会ってないなぁ。猫みたいな奴で、俺がここにいるってわかったらすっ飛んで来そうなんだが」

「へぇ……かなり信頼されてるんですね」

「まぁなぁ。お互い珍しい者同士、気があったんだろ」

「珍しい……?」

「可愛い奴だとしか思ってないからよくカンナの話を聞いちゃいなかったが、確か……そうだ! 幻獣族だ!」

「え?って、ええっ!?」


 出会ったときから異常に懐かれてたし、その時は50センチくらいだったから何とも思っちゃいなかったんだが、少しずつ成長していって2メートルにもなってな。

 その時点で何かしら考えるべきだったんだが、この世界の常識も何も知らない俺にそんな事を考えるなんてできるわけもなく。面倒だったから考えなかったとも言うが。


「そ、そんな大陸にいるかどうかもわかってなかったのに……物語の中の話だと」

「はははっ! 毛並みが白くてフワフワしててな、本当に可愛い奴なんだよ!」

「え~と、その、カンナって人は」

「ん? あぁ、そいつが魔法使いだ。レオの事を教えてくれたのもカンナだし、俺に魔法を教えてくれたのもカンナ。あいつが居なかったら正直面倒だったからなぁ……野宿が」


 火起こしたり水出したり。

 何とかして身を清める魔法を創ろうとしたり、生活上必要な魔法をどんどん創って楽しよう的な考えしかない俺を手助けしてくれたカンナには感謝だな。

 ……今何歳だっけ?

 あの時聞けなかったが、結構長いこと山に籠もってたって言ってたし。自分の魔力と魔法を生かして若さを保つ魔法具や魔法を創ってたからな。

 見た目と年齢が一致しない。それどころか反比例していく勢いだ。どこまで若く若くあろうとしているのやら……

 だからと言って俺を襲おうとするのは止めて欲しかった。俺にはロリ属性なんて無いし、いくら若返る魔法薬を作るためと言われても。カンナの魔法に関する造詣が深いことと老成した喋り方がなければ、普通に子供がじゃれついてきているとしか見えなかったし。

 フレンドリーにスキンシップは取れても準犯罪にあたるだろう行為をするわけにはいかんのだよ。


「取りあえずメンバー言ってくか。俺と同じ前衛で剣士のディル、ディアル・タイラン。魔法使いのカンナ・ダルクソンだろ。商人だか錬金術師だか忘れたが、名前が面白いし愉快犯だったピエール・ザ・シェンラ。相棒のレオで全員だな」


 勇者一人ただ聞いているだけになっているが、他の大陸の常識を持っている御一行は唖然とした表情で俺を見つめてくる。

 残念だが、俺にはリーシャがいるからな。


「タイランって、ハザール国のタイラン!? しかも、ディアルと言えば現当主で適う者が居ないってぐらい剣技に優れてるって……」

「ダルクソンはディクトル王国でも有数の魔法使いを輩出してきたライマール魔法学院で主席だった人……優れた魔法使いが魔王撃退の一員として活躍したって噂だったけど、まさかショージさんと一緒に魔王を倒していたなんて」

「ピエールって、あのアルケミストの……? 今でもどこにいるのか分からないって噂になってる」


 あれー?何か結構有名人なんだけど。

 そこら辺は意識して接してなかったからなぁ。身元不明の奴が仲間で気にならないのかなんて、異世界人の俺が言う台詞じゃないし。

 何も考えずにヘイカモン!って魔族相手に暴れ回ってただけだし。

 あの頃は若かったから、自分とその周りさえ楽しければオッケー!とさへ思ってた節があるし。


 だが、思い返してみると結構ディープな出会い方をしたりディープな戦闘に巻き込まれたり。それこそ物語として出来上がってる人生が、って勇者だったらイヤでも物語にはなるか。

 でもまぁ、ディルだけでも壮健でやってるって分かって良かった。他の連中は黙ってても元気にやってるだろ。


「そうだ、君達の名前を教えてくれ。何時までもお前とか君とかだと呼びにくいからな」

「そうですね……では私から。ディクトル王国出身のララ・クリスティです。クロノブ様と一緒に旅をすることになった僧侶です」

「私はセラ……セラ・ランディ・セライド。ディクトル出身。魔法が得意で、クロと一緒にここまで来た」

「あたしはツェル・チェルシー。魔族とやり合ってるときにクロノブに会って一緒に来ることになったんだ。ハザール出身だよ」


 ああ……なんか、こうやって見てるとホントに良い子たちだなぁ。勇者、くろのぶって言ったか。回復役としての僧侶と魔法使いによるサポートに、前線で身を投げ出して戦う戦士に皆に勇気を与える勇者。

 土下座している姿を見る限り、戦う姿を全く想像できないんだが、魔王が居座っている(ここ)までやってきたんだ。チームワークや絆も深まっていることだろう。


 だが、それだけだ。


「ララとセラは、勇者とはどこで会ったんだ?」

「クロノブ様は魔法学院でこの世界に召喚され、そのお供として私とセラが任命されたのです」


 羨ましい。


 俺なんてこの世界にいきなり投げ出されたってのに。

 しかも何日も野宿する羽目になってたし。獣に襲われそうになってそこら辺に落ちてる石を投げてヤったり、そのまま糧食にしてやろうとして体毛を毟る作業を強いられるわ。火も自分で起こしたし。

 それだけじゃ栄養分が偏るから木の実を取って食べたりして腹下したり。魚は捕ってそのまま焼くけど全然取れないし。

 仕舞いにゃ周辺に誰も居なくて孤独感と不安に苛まれる感覚に日々脅かされるようになって……

 やっとのことで出会ったのがレオだ。

 今思えば最初から懐いてきた理由がわからんのだが、それが無かったらレオにヤられていただろう。もうその時の俺に何も考える気力もなく、ただただ誰かと話したい、一緒に居たいって感覚しか自分の中に無かった。


 後で教えられたのだが、俺が現れるはずだったのはくろのぶと同じディクトル王国だったらしく、何らかの手違いで俺が飛ばされたのは人類が暮らしていないと言っても過言ではないレーランという島だ。

 島、というには広い面積で、ここに人が暮らしていてそれを統治する王様が存在していれば王国と呼ばれていただろう。


 だが、そんな島に人が住まない、移住してこない理由もちゃんとある。

 そこには人類以外の種族が暮らしているのだ。俺は全く知らなかったし気にもしてなかったんだが、人類からは好まれていないらしい。

 故に、何らかの理由か俺のような原因がなければ島の存在さえ知らない人が多いだろう。ちなみに、島にはエルフやドワーフ、獣人族や竜人、幻獣族など、多種多様の種族が和気藹々と生活を送っていた。

 所詮ドMの魔族は、一部の交戦派を除いてその島で暮らしていた。だから俺はそこまで魔族に対して悪い感情は抱いてなかった。

 なんて話、さすがにどこの王国でも王宮でも王様に対して言うことはできない。そんな事してしまえば人類と敵対する気かっ!とあらぬ噂をされてしまうだろう。


「……羨ましいっ!!」

「あ痛ぁっ!?」


 確かこんな技が存在していた気がする。誰かが使っていたような気がする。けどそんなの関係無い。

 いつまで土下座してるのか分からないが、憂さ晴らしにクロノブの頭を平手で上から叩き落とした。

 ……いや、実際に落ちたりはしないぞ?さすがにそこまで力は込めない。しかし、不意打ちで叩いたこともあり、鈍い音が床から響いてきた。


「うむ……さすがに今のは痛いな。許せ。俺は気にしない」

「気にしてくださいっ! かなり痛かったです!」

「なら後ろに控えているララかツェルに癒してもらいな! あんなにも素晴らしいモノを身につけているのだからっ!」

「え、うぇっ!?」


 後ろの女の子3人だけではなく、勇者まで顔を赤く染めやがった。

 こいつ、こんな反応ができるなんて、完全に主人公体質じゃないか!


「なんだ、その女の子みたいな反応……そんなに初々しい反応ができるからお前さんは可愛い女の子を3人も仲間にできたってか? ……くっ! こんな時だけ自分の突っ込み能力が疎ましい……っ!」

「そうじゃな。確かにショージの突っ込み能力は素晴らしいものがある。あんなにも突っ込ま「てめぇっ! そこまで話を掘り下げるんじゃねぇ! しかもそこまで言ってねぇし!」ぬぅぅ……」


 危ない。油断なんてできたもんじゃない。

 今回は完全に俺が悪いんだが、それでも、魔王だとしても女の子であることには変わりないのだからもう少しお淑やかさを、


「のうショージ……今度は、いつ妾を可愛がってくれるのじゃ?」

「ぐはぁぁっ!?」


 ぐぬぅっ!予想以上の可愛さで攻めてくるとはやりおる!

 しかし、今此処でダイブしてしまいたいが周りには御一行の目が……!正直、こいつらがいなかったら今にでも飛んでいた。隠しきれない俺の溢れるパトスが!


「……一体これはどういう状況なのでしょうか?」


 土下座の形で頭を抱えている勇者に、上目遣いで生死を見つめるリーシャ。そんなリーシャに身悶えている生死とそれをポカンとした表情で見つめている御一行の姿に、今入ってきたセリカは理解することができなかった。

 そしてその時間は、生死が悶えから現実世界に戻ってくるまでの間ずっと続いているのであった。

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