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勇者と前勇者と魔王様

 力こそが絶対──

 力ある者が頂点へと立つことができ、絶対的支配権を得ることができる。

 これこそが、多種多様な外見と能力を秘めた魔族を率いる魔王の確固たる条件。そして、一流の魔族であることの証明。


「こう、ドーンズバーンと魔王を倒した後浮かべていたあの笑み……正直、思い出しただけで濡れて「わーわーわーっ!」なんじゃ、良いところで」

「バカかっ! よく自分の言ったこと思い出して」

「いった……? 何じゃ、入れたいのであれば「わーわー! だからバカ野郎ッ!」


 なんだこいつ!

 折角最初に導入した説明文が完全に無駄足になっちまった感が半端ない……いや、もうこうなることを狙っているとしか思えない。

 なんだよ濡れるって。男の気持ちを狙い打ってきやがる。ていうか、ドーンズバーンって肝心な戦闘シーンを適当に流してるくせに自分の気持ちは存分に表現しようとしやがる。

 ここまでくると、魔王じゃなくてサキュバスとしか……あ、そういえばサキュバスに師事していたって言ってたな、こいつ。何時だったか忘れたが。

 あーあー。勇者顔真っ赤にしやがって……ここまで来る間に絶対周りの三人と何か(・・)して仲良くなったに違いないってのに。いや、これは完全に俺の八つ当たりにも似た感情から来るものだから真実はどうだか分からないが。

 前勇者だった俺がこんな感情を抱くんだら、前の俺の状況を考えて欲しい。まぁ、今でこそリーシャという少しどころかかなり可笑しい奴を妻にできたが。


「うぬ……ではどう表現すれば良いのだ」

「バカかっ! いやもうホントにバカ! …………可愛いけど」

「そんなぼそっと言わなくても良いではないか。もっと大きな声で言ってはどうだ? んん?」

「か、かわ、って違ぇ!」


 そんな不満そうな顔したって無駄だ!

 寸前に気付けたが、もしここに他に誰も居なかったらそのままリーシャと『完全なる世界』に二人でダイブ・インするところだったよ!もう少しでも周りの状況考えやがれってんだ。


「えーっと、何の話ししてたんだっけ?」

「前魔王のことです」

「おおっ!」


 つい、最初の適当な表現を忘れるところだったが、そんなもので躍起になって戦闘したその全貌を理解できる奴がいるとは思えない。て言うかいて欲しくない。

 俺的に、結構な戦闘になったと思っているし、あの時俺の仲間としていてくれたあいつらだって、あいつらだって……


「いや、無いな」

「ん? どうしたんじゃ?」

「あ、いや、なんでもない」


 そんなこと無いな。

 確かに俺が戦った魔王は強かった。それこそ、目の前の勇者たちが全員で奇襲をかけたとしても勝てないだろう強さを持っていた。

 ただ、今まで俺が話してきたような残念な魔族の性癖を、奴は持っていた。いや、もう奴がこの魔界をこんな残念な世界観にしてしまったのではないかと思わないでもない。

 やはり奴もドMだったのだ。


『喰らいやがれぇぇぇぇぇぇっ!』

『ぐふぅぁぁっ! ……っは、はははハハハハハッ!』


 なんて格好良く決めていたつもりだろうが、後からリーシャの話しを聞いたら俺の攻撃が効いてなかった訳じゃなく、俺ほどの攻撃力を秘めた奴が攻撃してきたのが遠い昔のことで嬉しくて。との事らしい。

 今更だが、思い出すと大変素晴らしい記憶である。

 ただ俺はこの世界に魔王を喜ばせるためだけの呼び出されたのかと思ったほどだからな!

 まぁ、そんなことは人間からすると全くわからない話であり、ただただ魔王を倒したという話題だけが持ち上がり、俺は魔王を倒し、世界を救った英雄として民貴族の間で大いに話題のネタとして使われたらしい。

 と言うのも、ここ最近になって魔族が活発化してきたと噂されるようになった前の話だ。

 全部リーシャから……本当はその側近を務めていたセリカから全貌を聞いたのだが、やはりドMな魔族が活発に罰を求めて動き始めたらしい。

 それを影にして魔王を引きずり落とそうとしている新たな勢力が魔族の中に誕生しつつあるというのもセリカから聞いた。それらはこちらで対応しているので、存分に楽しんでくださいとも。

 ……折角魔族と仲良くなりつつあったという時の事だったので、さすがに『俺にも手伝わさせてくれ』と言い返してやったんだが。


『それでは私の楽しみが減ってしまいますので』


 と、真顔で言われたときにははいすいませんとしか返すことはできなかった。真正のドSの発言だった。もう、俺には何もできなかったね。ただただ甘えてくるリーシャとニャンニャンするしかなかった。

 今でこそそいつ等がどうなってるのか気になってはいるが、さすがにセリカに聞くのは怖いし、その話しはまたその話題が沸き上がって来たときに備えて俺が準備している。

 そう、心の準備をだ。


「あ、あの!」

「ん?」

「前の魔王はどんな感じだったんですか?」

「まあ、そうだな……一言でいうなら化け物だった」

「……」

「今のお前等じゃぁ、到底叶わないだろうレベルだ」

「そ、そんなことはない!」


 勇者御一行の誰もが黙りこくってしまった中、勇者ただ一人が声を荒げた。しかも、彼はこの世界に呼び出された、言わば右も左も分からない戦場に叩き出された哀れな犠牲者。そんな彼でも声を張り上げられるのだ。


 なんて、勇者を祭り上げるだろう。今の、俺の時から王宮にいる奴らが変わっていなければ。

 別に俺は何とも思わん。ただ事実を述べているだけ。

 普段から俺はリーシャに対してどこか甘くなるところはあるが、それ以外の奴に対しては基本冷たい。世話になってもない、しかもリーシャを倒すためにここまでやってきてくれた勇者に甘くしようとは思わんのだよ。


「そんなことない、なんて言ってくれるが、何を根拠に言っているんだ?」

「え?」

「何も無し、か? それじゃあ無理だ、無駄だ。奴は決して根性論で倒せるような奴ではない。ましてや、自分がこの世界における主人公だと考えているならそれは勘違いだ……何故なら」

「何故なら……?」

「……いや、この話は忘れてくれ。それと、今のお前等じゃ前の魔王どころかこいつ(リーシャ)にだって勝てないだろうよ」


 何気なく俺の隣にいるが、リーシャだってかなりのポテンシャルを秘めている。前魔王はそれなりの年月を魔界で過ごしてきたからこそあれほど強大な力を持っていた。

 しかし、それでも奴は魔法を自在に操ることはできなかった。

 だがリーシャは違う。

 父が持っていた戦闘に関するセンス。そして母であるシェルが修めた魔法に関する深い知識は、完全にリーシャに引き継がれている。

 つまり、近接戦闘から遠距離におけるロングレンジの戦闘まで幅広いレンジで相手を圧倒することができる万能魔王なのだ。

 まぁ、それでも前魔王に至にまで実力が伸びていないと言うのが夫としての切実なる心情だが。


 そんな俺の軽い言葉がいけなかったのだろうか。


「くくく……ちょうど退屈していたところだ。存分に掛かって来るが良い」

「くっ……舐めやがって! 今に後悔させてやる!」


 気づいたらこんな状況になっていた。別に俺に被害が及ばないから問題ないんだが。


 それにしてもリーシャよ。退屈って……今まで散々俺の太股なで回しておいてよく言うよ。

 その顔、完全に楽しんだ後だって表だってのは長い付き合いの中で分かっているぞ。できることならそのまま飼い猫と戯れる感覚で戦いを終わらせてくれ。俺が焚きつけた感じになってなんか凄く罪悪感感じてるから。


「行く「ファイア!」え?」

「って早!」


 確かに戦いには明確な始まりの鐘は無いけど。

 確かに俺は速く戦いを済ませて欲しいと思っていたけど。

 けど、勇者と魔王の対面にしちゃぁそれなりに和気藹々と話し合いができたなと。いや、こいつが実際に喋ったのはほんの少しだけで、俺が魔族について誤解を解くために話していただけ、なのか……?

 だとしても、これは非常に……いや、でもまぁ良いのか?


「どうじゃっ!」

「…………え?」


 勇者のいる場所、そこから大体1メートル右を魔力の固まりが通り過ぎ、着弾点となった壁には大きな窪みができていた。

 勿論ただのファイアには物理的に影響をもたらすような威力は無い。だがリーシャのファイアは、弾速が通常よりも速いことに加え、炎の温度が異常なほどに高い。

 一般的なファイアが赤い固まりで、こいつのは青白い輝きを見せている。


「まぁ、いっか」


 まさか、得意とする炎系統の魔法とは言え、頭が残念な感じのするリーシャが初級魔法で終わらせようとするなんて……今までのリーシャからは感じられることのなかった知性が見て取れる。

 いつもからこれぐらいの知性を持っていても、


『だって、大魔法だと覚えるのめんどいんじゃもん』


 あ、ダメだ。

 端から期待しちゃならん分野だった。

 魔族特有の残虐性と、夫である俺と何年も一緒に過ごしてきた事で生まれた優しさ(すまん、惚気だ)はこいつの得意分野だが、それ以外……特に知能──と言ったら言い方は悪いが、良く言おうとしても壊滅的だ。

 それこそ、残虐性が見て取れる。

 教わる方は何もかもがチンプンカンプン。

 教える方は教わる方の残念さに頭を抱えてうずくまる。

 ……実際のところ、魔王という存在というだけあってそのスペックはかなり高い。しっかりと魔法の勉強をすれば魔族一の魔法使いになれるだろう。もしかしたら俺が現役の時一緒にいたカンナよりも……いや、あいつの魔法は大陸最高峰だったしなぁ。

 良くて魔法の撃ち合いができるくらいか?ちなみに、魔法に関する知識が深いと言ったが、こいつは技術とか魔法の手順とか、そんなものは一切考えてない。

 理論ではなく感性で魔力を扱い魔法を使う。王都の魔法研究員供が聞いたら発狂するだろう。まぁ、そんなこともあり、理論を理解できているが感覚的に納得できてない。だから自分の思うように魔法を使っているのだ。

 ……ん?俺?俺はバリバリの前衛型だからそんなに魔法は覚えてないな。自分の獲物で敵を斬る……その瞬間がたまらなく好きだったし、追いつめられたときの焦燥感も、今思い出すと良い思い出だ。

 ただ、ここに来てからは野宿が多かったから、生活に役立つような魔法は多めに教わった。例えば魔法で水を出したり薪に点ける火を出したり。それはそれで日常を彩る重要な要素になって楽しかった。


「ところで、勇者君はまだ続けるのか?」

「……え?」

「何時まで固まってるのか知らんが、そのままだとまた魔法をぶっ放されるぞ」

「え、あ、ももも申し訳ありませんでしたっ!!」


 腕を組んで仰け反る魔王と、この世界には存在しない真の謝罪『DOGEZA』を繰り出す勇者。いやぁ、この世界は面白いなぁ。勇者御一行が可愛そうな人を見る目で勇者君を見ているし。

 勇者が来るなんて聞いたときはどうなることやらと思ったが、今回の騒動は緩ーく楽しく過ぎそうだ。

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