小さな獅子の目覚め
世界征服したい。
妹の言葉に一瞬、思考が真っ白になる。
放心状態ののち、やっとのことで絞り出した思考は、『何考えてんだコイツ』である。
兄「なんでまた突然征服したいんだ」
妹「誰も成し遂げた事がないからに決まっておろう」
訳がわからない。
こうも自信満々に言われると自分が間違っているかと錯覚する。
だが相手は家族、ましてや妹だ。
兄として、道を正してやらねば。
兄「やめとけ、どうせ長続きしないだろお前」
妹「こ…今回は本気だぞ」
兄「ツチノコ探すとか言って飛び出して3日で諦めたのにか?」
妹「ぐ…」
そう、この妹は過去にUMAや珍獣にハマッた事があった…
…が
『ちょっとツチノコ探してくる』と一言残して家を飛び出し、家族全員大騒ぎになった。
…結局、三日間失踪した挙げ句、泥まみれで号泣しながら帰ってきたのだ。
妹「それは小学生の時の話だろう、今の私は中学生だぞ!?」
兄「お前去年の夏休みクラゲ触って泣いたろ」
妹「ぐぬぬ…」
クラゲに負ける世界征服。
世界征服だ、なんて世界中に放ったときの世間から白い目で見られる精神的ダメージに比べれば、クラゲなんて可愛いものだ。
妹「…意地悪!もう兄なんか知らない!」
目に涙を溜めながら妹はあっというまに部屋へと走り去ってしまった。
少し言い過ぎたか。
そんな事を考えながら私は冷めた夕食を冷蔵庫へと持っていった。
兄「…明日は妹の好物でも作るか」
あの妹のことだ、明日にはどうせケロッとしているだろう。
明日はゆっくり休む、そう心で復唱しながら時計を見る。
時刻は夜9時。
一切物音の無い妹の部屋に若干不気味さを感じつつ、私も自分の部屋へと戻った。
妹の部屋で何が行われているかも知らずに…。