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これから、君に重要なことを話す

 透と薫はHRを終え、二人で帰路に着いていた。透はあの後薫にボコボコにされたので、歩き方が変になっているが、そこは気にしないでいいだろう。

 白波中学校の部活は、他の中学校より数が多いのだが、二人はその部活には入っていない。


 薫にも透にもちょっとした事情があるのだ。


 薫の家は合気道と双刀剣術(二刀剣法と同義)の道場を開いており、その道場の会長の一人娘が薫なのである。


 薫は小さいころからこの二つを習っており、中学生になった今でも続けている。なので、薫は部活に入らず、毎日毎日家に帰って、道場で稽古に励んでいる。その成果もあり合気道は全国大会でもベスト八に入る実力者であり、双刀剣術では世界ランキング五位らしい。もともと競技人口が少ないとはいえ、男女共通で大人も混じった状態でその順位を出せるのだから、それはとても凄いといっていいだろう。

 要するに薫は最強なのである。


 透は、頭がよく運動神経も抜群なのだが、家庭事情により学校の許可をもらい、ちょっとしたバイトをしている。


 いつも、二人は一緒に帰っていて他愛も無い話をしたり、ゲームセンターへ向かったり、ショッピングセンターで買い物をしたりしていたが、今日は二人ともその気にはなれず、無言で歩いていた。しかし、透は何も話しかけてこない薫に感謝をしていた。そして透は、今から一年前に起きた〝ある出来事〟を思い出していた。

 今を思えば、あの日から透たちの生活はかわってしまった。もちろんそれは良い事ではない。だが、その出来事は透たちを強くした。

(………親父………母さん……)

 








 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 〝ある出来事〟が起きたのは今からちょうど一年前。

 


 その日の朝は、平凡という代名詞がよく似合うくらい普通の朝だった。外では幼稚園くらいの子供がお母さんとウキウキと歩いていたり、中年の男性が仕事に行くために駅を目指して歩いていたりしている。何もない普通の日である。



 

 そして、透もいつも通りの普通の朝を迎えていた。

 

「…………」


 透は自分の部屋で幸せな睡眠の時間を過ごしていた。透にとって睡眠とは、友達と過ごすことの次に楽しい事であるので、妹の梓が、下の階から大声で「兄貴、飯!」と言っても無視して寝ることを続行している。 

 増渕家は二階建てで普通の家より少し大きいのだが現在は父、母、梓、そして透の四人で過ごしているので使わない部屋がでてきている。ちなみに透の部屋は二階にある。

 

 透が妹の声を無視し続け幸せな時間を過ごしていると、どこからか顔面に水がビシャッとかかった。それもバケツ一杯分くらいのかなり大量な水が降ってきたので、透は驚いて目をつぶりながら飛び起きた。そして濡れた顔を手で拭い、周りを見渡した。

 そこには、バケツを持って不満そうに仁王立ちしている梓がいた。



「兄貴……。飯いらないなら、起きなくていいけど……」

「え……あの、すいません梓さん。それだけは勘弁してください」

「じゃあ、さっさと起きて」


 梓はそれだけ言うと、下に降りてしまった。 透はしょうがないので、水浸しになった洋服を脱ぎ、制服に着替えた。水にぬれていて、一見おねしょしたみたいになっている布団をほったらかしにして透は下へ急いだ。


 


 リビングに行くと二人分の飯が用意されていて、すでに梓が目玉焼きを食べているところだった。それを見た透は首を傾げた。


「……梓、親父たちは?」

「一昨日から仕事だってさ。兄貴、お父さんたちの話聞いてないでしょ」

  

 透はそれを聞いた後少し考え込み、「そういえば、そんなことがあったな」などと言い、自分の飯が用意されている場所に座った。

 

「なぁ。小学校楽しいか?」

 透が卵のふりかけをご飯にパッパッとかけながら梓に聞いた。彼女は現在小学五年生であるが、見た目からしてもう少し大人に見える。


「思春期の娘をもった父親みたいな発言しないでよ。気持ち悪い」

「うるせーな。俺だってもっとお前のこと知りたいんだよ」

 

 透はにやにやしながら言った。その様子をみて飽きれた梓はさっきより小さな声でつぶやいた。

「……私に求婚してんの?薫ちゃんに泣かれるよ」

「なんか言ったか?」

 幸い、透には聞こえなかったようだ。梓は汚いものを見るような目をして「なんでもないわよ」と呟き、茶碗の中に残っていた一口分のご飯を箸でつかもうとしたが、それは中断されることになった。




 プルルルルルル…………プルルルルルル…………プルルルルルル




 突然、増渕家に電話の音が鳴り響いた。透はその音を聞くとすぐに立ち上がり電話のあるところまで歩いた。 電話を見ると非通知からだったが、しょうがないので受話器をとった。


「はい、もしもし増渕ですけど」

 透は少し語を丁寧にしながら声をだした。


 …………しかし、相手からの返事は無かった。


 おかしいと思い、もう一度声をかけたがまたも返事は返ってこない。 いたずら電話かと思いながら透は受話器を戻そうと思ったその時に受話器から声が聞こえたのがわかった。

 さっきのでは聞き取れなかったので、もう一度。と言うと、とても疲れ切った男の息の切れた音が聞こえた。そして、その男はたった一言こう呟いた。




──────生きろよ。




 ゾワッ……


 何故か、鳥肌が立った。そして相手に何か言おうとすると、相手の電話が切れた。男の声は、どっかで聞き覚えのあるような声だった。しかし思い出せない。透はこの鳥肌の意味と相手の言葉の意味。そして電話の相手が誰か。それを考えたが、答えは出なかった。そして、ふと梓の方を見ると、梓はこちらを心配そうに見ていた。


「どうした?兄貴」

 梓は少し心配そうに聞いた。

「い、いや。ただのイタズラ電話だったわ。気にするな」

 透はひきつった笑顔で梓に言った。梓は少し気になるようだが、すぐに飯に目を向け最後のご飯を口に入れた。


 透には答えを導き出すことができなかった。しかし透は一つだけ感じたことがあった。それは透が自分で考え出したのではなく、根拠もなく理由もないが直感的に感じた。



(…………嫌な予感がする)











 透のその予感は的中してしまう。


 電話がきた三十分後、学校へ行く準備を終え、少し時間が余ったので二人はソファーに座ってテレビを見ていた。朝はニュースしかやっていないので、面白みは無いがちょっとした暇つぶしにはなる。二人は無言で見ていた。

 

 すると、いきなり視界が九十度傾いた。いや、正確にはソファーに倒れこんで視界が傾いたのだ。いきなりのことで驚いたが、ふと周りを見てみると棚の中の食器が大きく揺れ、さっきまで見ていたテレビもかなり大きく揺れていて、テレビの中では生放送中のアナウンサーがキョロキョロと周りを見て、放送されているのにも関わらず、動揺を隠せない様子だった。


 つまり、何が起きたかというと地震が起きたのである。それもとても大きい地震が。


 梓もソファーに倒れこんでいて、涙目になりながらこちらを見つめていた。いつも落ち着いている梓だが、こういう時に怖がるのはやはり女の子なのであろう。



「あ、兄貴……」

「大丈夫だ。俺がいるから安心しろ」



 透はそう言い、今にも泣きそうな梓を抱きしめた。地震はまだ続いていたので一瞬よろけそうになったが、なんとか体勢を立て直し、その状態を保つことができた。

 梓は抱きしめられたことを嫌がることなくそのまま透を抱き返した。その腕に少し力が入っていたのは、少しでも怖さを紛らわせるためだろう。



 二人の時間は地震が終わったあとでも続いた。








 二人の時間を中断させたのは、透の携帯電話の着信音であった。


 

 その音に二人はピクッと同時に体を震わせ、慌てて抱きしめあっていた二人は慌てて腕を離した。そして透は少し顔を赤くしながら、何事もないように音が鳴っている方向へ歩いて行った。そして誰からの着信かと確認してみると、幼馴染の逢坂薫からだった。

 透はすぐさま携帯電話を耳に当てて喋り始めた。


「…………貴方様のおかけになった番号は、現在使われていない番号か……」

『透!? 無事なの!?』

 透が機械のような声で言おうとすると、それを遮るように薫の心配するような、少し大きな声が聞こえた。状況を察するに、よほど心配していたようだ。



「あ、ああ。こちらは大丈夫だ。お前はどうなんだ?」

『よかった・・・。透が無事で・・・。』

 透が聞くも、薫は後半の話を無視して、泣きそうな声で呟いている。


「……おい、薫。 俺のことを心配するのはありがたいけど、お前はどうなんだ?」

『えっ!? あ………私は大丈夫よ…………っていうかあんたの心配なんかしてないわよ!?』


 薫はそういうと、「誰があんたのことなんか……」と言って黙り込んだ。透は薫の無事を確認し、安心して「切るぞ」と言うと、薫は慌てた声で「待って」と呼び止めた。


『それだけの為に電話するわけないでしょ? 実は学校の方から連絡が合って今日、学校は無いらしいわ。理由は地震で道が動けないんだって』


 地震が起こって、まだ全然時間がたっていないのに、学校側の対応が早いのは素晴らしい事である。


「そうか……。まぁ確かにこんな地震があった後じゃ学校も行けねえか。というか、なんでお前の家に学校から電話がかかってくるんだ?」

『私の家は、学校の中で権力をもった家なのよ』


 薫が意味わからないことを言ったので、透は苦笑いをした。電話の中からもフフッっという声が聞こえた。薫も同じようなことになっているようだ。


『まぁ無事ならよかったわ、今日は家でゆっくりしていなさい。……間違えても、私の家にはこないでよ?」

「……俺は、自ら地獄にいくほど自殺志願者じゃねーよ」

『ふーん。じゃあ、今から透の家行って、地獄を見させましょうか?』

「家でゆっくりしておけって言ったのはお前だろ。まぁ無事ならいい……じゃあな」



 透はそう言うと電話を切った。そして、薫以外の親友たちの無事が気になったが、真央の家は豪邸だし、翔輝の家も新築なので、大丈夫だろうと判断し確認の電話はかけなかった。

 地震の影響で、皿が散乱しているリビングを見ると、座りながらこちらを見ている梓がいた。梓と目が合うと梓は少し顔を赤くしながらプイッと顔をそらした。透はその行動に首を傾げながら、ソファーまで歩いて梓の隣に座った。


「兄貴も学校無いの?」

 なんとか無事だったテレビをつけて、無言で地震速報のニュースを見ていると梓が話しかけてきた。

「俺は無いが……梓のとこも無いのか?」

 梓は無言で頷いた。


「兄貴の携帯の着信が鳴ったすぐ後に私の携帯にも着信がきたの。友達からかかってきたんだけど、結構、地震の被害がこの町でもひどいらしいわ。友達の家は大丈夫だったらしいけど、向かいの家が崩れちゃったらしいし。」

「俺たちは家どころか、家具も全然壊れてないし幸せなものだな。……そういえば、薫は無事だそうだ。お前も友達に電話かけてみたらどうだ。」

「私もそうしたいのは山々なんだけどね……。いろいろ込み合ってて電話が通じないのよ。」

 梓はハァとため息を吐いた。



 透は梓の様子を見ながら、起きていながら一時間くらいしか経っていないのに色々とありすぎる日だと、なんとなく考えていた。朝一に顔面に水をぶっかけられて起こされたり、妹に変な目で見られたり、知らない男から変な電話が────





 ────電話?






 ゾクッ…………


 透はそれを思い出した瞬間(トキ)、自分の心臓の鼓動がドクンと大きく弾み、全身に寒気が襲ったのがわかった。顔はひどく深刻な顔をしている。


 ありえない…………。そうありえないのだ。普通の日常に、普通では無いことが二回もおきるのは。


 透は、地震が起きる前の電話のことを思い出していた。電話が来て、自分が声をかけたが返事は無く、もう一度こちらから声をかけても返事は無かった。これ以上待っても時間の無駄と判断したので切ろうとすると、とても小さく、力強い男の声が聞こえた。その男は一言こう言った。


 生きろよ。と


 そして、その後すぐにとても地震が起きた。普通では起きないような強い地震だ。

 単純に考えれば、電話の相手が地震を予知して生きろと言った。そして地震が起きた。こう考えればなぜ地震を予知できたかが一つの謎になるが、こう考えるのが普通だろう。

 しかし、透は嫌な予感がしてならなかった。地震を予知するというよりも、もっと重要で嫌な予感が。


 男から電話がきた時のように考え込んでいる透に梓は声をかけなかった。いや、かけれなかった。透はそれほど考え込んでいた。




 その時、透の携帯の着信が鳴った。透の携帯の着信が鳴るのは二回目。男の電話を入れると三回目の電話である。透の傍に携帯があったので驚く間もなくそれを手にした。



 携帯を開くと、そこには透の父親からの電話を示す画面があった。

「もしもし」

『……透君だね?』

 相手は父親ではなかった。声は少し若々しの声だが、先ほどの男の声とも違った。そしてこの声には聞き覚えがあったので、声を聞くなり相手が誰なのかがすぐわかった。


「…………蓮崎(レンザキ)さんですか?」

『覚えてくれたのかい。それは光栄だ』

 蓮崎という男は、父親と母親の上司でとても偉くて凄い人だと透は聞いたことがある。透は顔は見たことないが、電話で何回か話したことがあるので覚えている。


「なんで蓮崎さんが父親の携帯から…………」

『透君。これから君にとって重要なことを話す。少し聞いてくれないか?』

 蓮崎は透の語に被せるように早口で喋った。この様子から急用であることがうかがえる。透は小さな声で「わかりました」と答えた。



 蓮崎はその返答を聞くと息を吐いたのが分かった。そして何かを決心するように咳払いをしたあと、小さくて力強い声で言った。












『君の父親の遺体が発見された』






見ている人いるか分からないけど、事情があり更新が遅れてしまいました。すいません><

これから、しっかり更新していくのでお願いします。


★誤字・脱字などがありましたらお申し付けください。感想とかくれると作者は喜びます★

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