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複眼

作者: じく

人によっては不快に思われる表現が使われております。ご注意下さい。

(異形ネタ、いじめ等)


俺の眼は変だ。

産声をあげた時からずっと変だ。


俺には親がいる。

俺を産んだ母さんがいる。


母さんは俺を愛してくれた。

俺も母さんを愛していた。




脳味噌(ピンク)色した複眼()のかわいそうな子供◆




はじめて公園に行った日

胸がドキドキして興奮していた。


子供達が、その親達が俺を見るなり悲鳴を上げた。


「・・・なにあれ」

どこからか、ぼそりと呟かれた声が俺の耳に届いた。

母さんは俺を見て笑った。


「やっぱりその眼、気持ち悪いってさ」

どうして笑うの?




はじめての公園で遊ぶ事もなく家に帰り

俺は毛布に包まり泣いた。


それからすこし日が経って

すっかり口を閉ざした俺を母さんは呼んだ。


「あなたに新しい眼をあげる」

母さんがくれたのは、大きな一つ目が描かれた黒いバンダナ。


(あぁ、)


俺はそのバンダナで自分の眼を隠した。

あんなに沢山あった俺の眼は、

母さんを見つめる眼は、ひとつしかなくなった。






母さんとまたあの公園に行った。

母さんはほかの親達に紛れてお喋りしている。


ひとり、残された俺は公園の隅へと吸い込まれて

日向で笑いあう皆を見つめる。視線は地面に落ちた。



地面を歩く蟻を見つめていたら、いつのまにか

一人の知らない子供が俺を見下ろしていた。


「なぁ、なんで目ぇ隠してんの?」

どう答えていいか分からなかった。


沈黙を破ったのは別の子供の声

彼の後ろから、彼を呼ぶ声が聞こえた。


「なにやってんだよ!そいつに近づいちゃダメなんだぞ!」

「え?なんで?」

「そいつに近づくと病気がうつるって噂しらねーの?」

「噂ってアレか?こいつがそうなの!?うわ、」


(うわ、)


ちらりと俺を見る彼等の目は

気持ち悪いと笑っていた。


「逃げろー!!病気がうつるぞー!!」


遠くで子供達の笑い声が聞こえる。

俺に背を向けて走っていく子供達が笑っている。


泣くのをぎゅっと我慢した。






「もう、帰ろうか」

母さんと手を繋いで帰った。温かい、手。






夜、俺は母さんに訊ねた。

「どうして俺の眼は変なの?」


母さんに貰ったバンダナを握り締めて

ひとつじゃない、たくさんの眼で母さんを見つめる。


母さんが俺を見つめる。

ゆっくりと、薄ら笑う母さんがそこにいる。


「私がそう産んだからよ」


「どうして、」


(母さん)

(母さん母さんどうして笑うの母さん)

(眼は、この眼はなんのために)


「どうして俺をそう産んだの!?こんな眼!こんな眼!!」


母さんに縋り付けば、俺の涙で母の服が濡れていく。

感情が溢れてたくさんの眼をぎょろぎょろと光らせて泣く。


「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!!こんな眼嫌いだ!!

変だもん!ねぇ変だよこんなの!嫌だ嫌だ嫌だ!!」


(眼)


「母さん!どうして俺を産んだの!!ねぇ、ねぇ母さん!!」



「みんなと同じような眼がよかった?その眼は嫌い?」

こんな眼なんていらない、

みんなとも母さんとも違うこんな変な眼なんかいらない。


「悲しい?」


「かわいそう」


「わかってるよ、うん、かわいそうにね」


母さんはそう言って俺を抱きしめた。

母さんの匂いが温もりが気持ち良かった。


「かわいそうにね、私の子供、私の子、かわいそうな私の子」


かあさん


「かわいそうな子に産んでごめんね、私の子」


かあさん?


「ごめんね、ごめんね、愛してるのにね」



かあさん


かあさん


かあさん



「ごめんね」





母さんは俺が泣き疲れて眠っても抱きしめていてくれた。

朝になって目が覚めても抱きしめられていたから

きっとそうなんだと思う。


俺はみんなに嫌われてるけど

こんな気持ち悪い眼をしているけど


母は俺を抱きしめてくれる。

母は俺を愛してくれる。

母が俺を愛してくれる。

だから母さん、



母さん


母さん



母さん






母さん、愛してくれてありがとう。











◆◆***



(かわいそうな子供を愛している)

(私自身が満たされるためだけに)

(この子供はかわいそうなんだよ)


(ごめんね)


(最低な母はそういう物語が好きなだけなの)



ありがとうございました。

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