課題
第14話です。よろしくお願いします。
すでに、響たち『クラッシャー』による被害者は、10人を越えている。刺殺、撲殺、原因不明の自殺。被害者らの死に、共通性は何もない。さらに恐ろしいことに、容疑者が見つからない殺人事件は、自動的にクラッシャーの仕業にされるほどだった。
「霧崎」
響は部屋に帰るなり、上機嫌の顔で言った。「面白いことになった」
「杏里とかいう女のことか?」
「あぁ」
鞄をベッドの脇に置き、返事もそこそこにパソコンを立ち上げる。ブックマークしてあるサイトを開くと、霧崎がのそのそと移動した。――アイスの練乳が、手の甲に落ちる。
「どれだ?」
「ほら、ティッシュ。――これだよ」
響が画面の写真を見せた。下に書いてあるのは名前だろうか。画面いっぱいに並ぶ英語に、霧崎は顔をしかめる。
「読めないわけじゃないだろ。まぁ、霧崎は盗聴器からでしか、会話を聞けなかったから、ピンと来なくても仕方ないな。――ここに載ってる女は、今日の『林杏里』だ」
「は?」
そこに出ているのは、明らかにその女のプロフィールだった。「国籍不明。年齢不明。職業は私立探偵……私立探偵?」
「国籍不明、年齢不明。だけどまぁ、十分高校生で通る。変装の可能性も否めないけどね」
「そんな話じゃないだろ。どうしてアメリカの私立探偵が俺らのところに――」
「落ち着けよ、霧崎」
そう言う響の顔に、焦りは微塵もない。想定内。そんな顔だ。「彼女が解決した事件は、なかなか難しいものばかりなんだ。世間には公表されていないけど、かなり有能なはずだ」
「どうして日本に?」
「決まってるだろ」
『クラッシャー』さ。
「は……?」
「クラッシャーの事件を、調べに来たんだ」
「なら、何故黒羽高に……」
「忘れたのか? クラッシャーの最初の被害者は樋口だ」
つながった。響はうなずいて、霧崎からアイスを引ったくる。「おい……」
「お前はずっと涼しい室内にいるからいいけどな。外はそろそろ夏だ。暑いんだよ!」
「ちっ……」
「とにかく今の課題は、あの女の捜査の進行具合を探ることだ」
霧崎は今、長い髪の毛をポニーテールにしている。響はそれを片手で弄びながら、パソコンをシャットダウンした。
「モア、ミルクティー」
杏里――いや、コヨーテの両の手は、せわしなくパソコンのキーボードを叩いている。その状態でどうやって飲むのかしらと疑問に思いながら、モアはコヨーテお気に入りの茶葉で紅茶を作る。「はい、コヨーテ」
「ありがと。……あ、手が1本足りない」
気が付かなかったらしい言い方に、モアは苦笑してストローを差す。右手だけでキーボードを叩きながら、コヨーテは肩をすくめた。「すごいね」
「何が?」
「今回の事件。犯人に、『クラッシャー』って呼び名まで付いてる」
「どうやって捜査するの? アメリカと違って、日本ではあなたの名前そんなに知れてないでしょ」
「うん。だから、自分で犯人をあげる。もちろん警察の協力も必要だから、警部にコッソリ話を通してもらうよ」
コヨーテの言う警部は、アメリカ警察で働く、コヨーテのよき友人でもある人物のことだ。友人といっても、30歳以上年は開いているが。
「あ、ねぇ、モア」
「なに?」
ミルクティーのおかわりだろうか。空になっているカップを見て、モアは新しく作る準備をする。
「学校で、どっさり課題が出たんだよね。代わりにやってくれない?」