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これでよかったんだ

第11話です。よろしくお願いします。

 次の日の朝、黒羽高では緊急朝礼が行われた。

 七時半からの朝講習をつぶし、慌ただしく体育館に集められた生徒たちは、ただならない学校の雰囲気に戸惑っている。

「おはよう」

「あ。おはよう、緋月くん。一体どうしたんだろうね?」

 三原が不安げに眉を寄せている。体育館にはまだ教師たちは来ていないため、生徒たちはそれぞれ好き勝手に話している。「さぁね」

「三年生だけじゃないよ。全校生徒が集められてるみたい」

「盗難……があったにしては、不自然だな」

 霧崎はその台詞を聞いて吹き出しそうになった。響の胸ポケットには、小さな盗聴器が仕込んである。そのデータは響の部屋の霧崎がつけているイヤホンに送られるようになっているのだ。

「学級委員は、各クラスの生徒を並ばせなさい!」

 女性教員が、甲高い声で怒鳴っている。響はツカツカと、生徒会長の立つ場所に歩いていった。三原も後から小走りに走ってくる。

「何があったんですか?」

「今から説明します!」

 やってきた他の教師たちも、どこかピリピリした雰囲気だ。響はいかにも何も知らないといったように、しかし自分の役割は果たさなければといった風を装って、教師に言った。「先生。各クラスごとに点呼を取らせましょう」

「そ、そうね。――各クラスごとに点呼しなさい! 全員揃ったら座りなさい」

 三年生はさすがに並ぶのも早く、ほとんどの学級委員が前の教師に報告に来た。しかし、やはり学校生活に慣れてきたばかりの一年生は、明らかに遅い。一年生たちが並ぶ頃には、自宅の霧崎は板チョコを一枚たいらげていた。

「みなさん」

 校長が前に立った。「今日は非常に残念なお知らせがあります」

 響は生徒たちの表情を注意深く観察していた。三年生のうち何人かに浮かぶ眠そうな顔。一年生のほとんどが浮かべる、早く終わればいいという表情。隣の者と視線を交わす二年生たち。


「本校教員の樋口先生が、昨晩お亡くなりになりました」


 痛いほどの沈黙が、体育館に流れた。さっきまで無関心だった生徒たちの表情は、すべてが驚愕に染まっている。

「マスコミから何か聞かれても、決して答えないようにすること。また、何か知っている者は私のところまで来なさい」

 そこで一礼する校長。隣の三原が目を見開いている。

「以上です。一年生から教室に戻りなさい」

「――樋口先生が死んだなんて、天罰が当たったのかもね」

「驚いたな」

 響は三原の表情に内心ほくそ笑んだ。これでいい、これで良かったんだ。樋口はやはり社会のごみであったと確信できた。

 生徒会長と副生徒会長は、立場上最後に体育館を出ることになる。ざわめきが嫌でも耳に入ってくる廊下を歩きながら、響たちは授業開始のチャイムを聞いた。

 教室に戻ると、野球部の男子たちが、大声で笑いあっていた。響が、どうかしたのか、といったように視線を送る。野球部メンバーが、大げさな身振りで騒ぎ出した。

「天罰だって、天罰! 緋月もそう思うだろ!」

「天罰……あぁ、樋口先生か」

「そ。学校の経費使い込んだやつなんて、死んで当然だろ!」

「しかもつぎ込む先が女だろ。救えねー!」

「まぁ、こんなありきたりな事件、マスコミも喜ばないよ。警察がすぐに犯人を見つけるさ」

「学校とか家とかに警察が来たら、かなり面白くね? 『重要参考人として、話を聞かせてくれたまえ』とかさ」

「お前、それだったらお前が犯人になるぞ」

「俺が犯人なわけないだろ。あー、なんか面白いことになればいいのになぁ」

 面白いこと、か。響は笑みを浮かべたままテキストを出す。今日の一時限目は数学だ。

 現場には誰もいなかった。霧崎が話すわけもない。樋口は即死だった。――自分が疑われる要素など、何もない。

 さぁ、次は誰を殺そうか。




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