セントウカイシ
母さん・・あの時、俺が死ねば・・
母さんはまだ生きていたかもしれない。
俺なんかより母さんが幸せに生きてくれればよかったのに・・
この願いを叶えてくれるなら。。
俺は何だって・・
俺が放心状態でいる時、偽物の母さんが近づいてきた。
「あらら。
死んじゃったのかい。
残念だね。
大朔クン。
もしかして君の母親は死んだと思っているのかい?」
俺はこいつの言っている言葉に耳を傾けた。
”死んだと思っているのかい?”って・・
どういう意味だよ。
その言い方・・まるで母さんがまだ生きているみたいじゃないか。
俺は目を見開き、偽物の母さんを凝視した。
かすかな希望を持って。
「おぉ。いい反応だね。」
偽物の母さんは嬉しそうに言った。
何だよ・・
早く言えよ・・
母さんがまだ生きていると。
俺はじれったくてしょうがなかった。
目の前で起こった出来事が嘘であると、
誰かに言ってもらいたかったからだ。
「君のお母さんね」
早く・・言え。
心臓がバクバクする。
偽物は言った。
「”生きてるよ”」
ドクンッ・・・
心臓が一瞬破裂するかと思った。
母さんは・・まだ生きてる・・
俺はこの言葉がどんなにうれしかったか・・
言葉では表しきれない・・
一瞬で喉の奥がカラカラになった。
「・・よかった」
俺は思わず声に出して喜んでしまった。
ところが、
偽物の母さんはなぜか様子がおかしかった。
笑ってる。
それも、何かが嬉しくてたまらないような表情で。
偽物は言った。
これでもかってくらいの満面の笑みで・・
「お前さ・・バカだろ」
「はっ?」
思いもしなかった言葉に、俺は拍子抜けな声を出してしまった。
バカって・・何が。
俺今何もアホな事一切してないんだけど・・
偽物はクスクスと笑ってる。
なんで・・こいつ笑ってんの?
俺は理解できないこいつの言動にぽかんと口を開けていた。
「その面・・最高だね!アッハッハ!!
お前。俺が最初に言った事忘れてんだろ」
最初に言った事?
最初って・・
ここに来て、こいつがルール言って・・
戦って・・
・・意味わかんねぇ。
俺は頭が混乱して何が何だか分からなくなっていた。
それを見かねた偽物が、俺に言った。
「本当にお前はばかだね。大朔クン。
いいよ。
もう一度、俺がこの口で言ってあげるよ。ククク」
偽物は再度笑いをこらえるように口に手を当てていた。
そして、その口は耳まで裂けるようにニヤつき、俺をあざ笑うように言った。
「お前の母親はなぁ!!
生きてるよ!!
確かに生きてる!!
”身体だけな”!!
俺最初に言っただろ!?
心を連れてきてんだから、その心を壊してしまえば死んだも同然だってな!!
つ・ま・り!!
お前の母さんはなぁ!!
もうすぐ死ぬさ・・
心のない身体はすべてを拒むんだよ。
自分の命さえもな。
血を流れるのを拒否し、呼吸を拒否し、やがて心臓は止まる。
”自殺”と同じだね大朔クン。
君はかすかな希望を持っていたみたいだけど・・
とんだアホだね・・母親も。」
ピクッ・・
黙って聞いていた俺だったが、
こいつの言葉の一部に、気に食わない部分があった。
「俺の命令通り、大朔クンを殺していれば自分は死ななくて済んだのにね?
それを、自分で自分の事を刺すなんて・・
世の中の人々をみなよ。
生きたくても生きれない人がたくさんいるってのにさぁ。
失礼だと思わないかい?ククク」
・・・黙れよ。
「まぁ、そんなのどうでもいいんだけどね。」
それ以上喋るな。
「君の母さんって、自殺するほど病んでたの?
息子の前で自殺するなんてどうかしてるよねー
君に同情さえ芽生えてくるよ。アハハハ!!」
俺の脳裏にこいつの高笑いが焼き付く。
頭が割れるくらい焼き付いて離れない。
なんだか腹の奥底から何かがわき上がってくるようだ・・
「あれ?どうしたの?静かになって。
やっぱり君もおかしいと思うだろ?
心を連れてくる時も出来もしない抵抗なんてしちゃって・・
俺の腕を掴むんだから汚くて・・ねぇ。」
俺にわざと聞かせているのか・・
顔をグイッと近づかせてバカにする偽物。
俺の周りの空気が渦巻くのが分かる。
「むかつくなぁ。お前。」
「あ?」
俺が発した一言が気に食わない様子の偽物。
「むかつくっつたんだよ。カスが。」
俺はゆっくりと立ち上がる。
周りの空気はさらに渦巻き、俺を中心にとり囲むように空気が乱れる。
床に手をつき、足を立て、膝を伸ばし、背筋を伸ばした。
立ち上がった頃にはすでに周りの空気は淡い紅色を発していた。
モワモワとまとわりつくように渦巻く空気。
「母さんは俺が最も愛した人だ。
俺の中で最も偉大な人だ。
お前がこれ以上母さんをバカにするのなら俺も容赦しない。」
その紅い空気はやがて腕に集中して集まるようになり、
腕輪付近をユラユラし始めた。
「俺の母さんが自殺するわけがない。
・・アホなわけがない。
・・病んでるわけがない。
・・汚いわけがない!!」
俺は偽物の母さんの胸倉を掴んだ。
母さんの胸元の服が俺の手に集まる。
「お・・おい。
忘れたのか!?
この姿はお前の母さんの姿だぞ!?」
俺は顔をあげ、言った。
「だからどうした」
そして思いっきり、
偽物の母さんをぶん殴った。
「グ・・ハッ!!!!!」
偽物の口から大量の血が塊のように一気に出た。
驚愕の顔で俺を見る偽物。
「何かおかしい事があるか?
お前は母さんじゃない。ただの偽物だ。
俺の尊敬する人を操り、死に追いやった・・
そして、
罪なき獣までも操り、我が子を思う母犬の思いを踏みにじるその邪悪な魂・・
お前の罪・・死に値する。
この腕輪の力を持って、今。
”お前を排除する”
この言葉に二言はない。」
俺の意志と共鳴するように、
腕輪に宿った淡い紅色の空気が・・真っ赤に染まっていく。
「ちょ・・待てって!!
俺が獣に力を貸してやってたんだぜ?
勝手にこいつが・・」
今になって慌てる闇。
が、もはやそんな言い逃れができるほどの状況じゃなかった。
「・・俺が怖いか闇よ。
それとも腕輪が怖いか?
どちらにせよ、
最初に会った時のような恐ろしさは今はもう・・欠片も見当たらないな。
獣は今、闇の力を拒んでいる。
お前がもし”貸してやっている”のなら、
無理に力を貸す必要がどこある・・
言い逃れはできないよ。
己の罪の深さを知れ」
俺は闇を許さない。
こんな奴に操られ、死にゆく命はもう見たくない。
獣の命ももうわずか。
心が完全に闇に侵食されようとしているからだ。
すると、今まで黙っていた闇が口を開いた。
「俺が・・何を怖がってるって?
思いあがるのもいい加減にしろよ。
いいぜ。
闇は一筋縄ではいかない。
お前の方こそ死をもって俺に詫びろ!!」
闇は物凄い勢いで俺に向かってきた。
もう母の姿ではなく、闇本来の形で突進してきていた。
俺は信念を新しく書き換えることにした。
”闇を滅し、もう二度と犠牲者をださない
俺が生きている限り
闇が存在する限り
俺はこの腕輪とともに戦い続ける事を誓う”
これが俺の信念だ
ガキィィイイイ・・・・ン