ヤミノシンショク
「ん・・ここどこだ?」
俺は真っ暗な本当に暗くて何も見えない場所に一人ポツンと立っていた。
俺しかいない。
無駄に自分の声が響く。
「誰かいないか!!
おーい!!
ここはどこなのか教えてくれー!!」
・・・
返事は帰ってこなかった。
「あれ?」
俺は自分の傷が消えていることに気がついた。
なんで・・
俺は確かに噛まれて酷い傷が・・
その時声がした。
「ここは今あなたが救おうとしている獣の中です」
「なっ!!誰だ!!」
すると、目の前に大きな白い犬が現れた。
「狼?・・いや犬か?」
すると白い犬はクスっと笑った。
「おや。すみません。
あまりにキョトンとしていたものですから。」
キョトンて・・
俺そんなにあほ面してたか?
「っ!!そんなことより!!
ここがあの獣の中ってどういう事だよ!!」
すると、
さっきまで笑っていた犬は急にまじめな顔になった。
「単刀直入に申し上げます。
あの子を・・この闇に魂まで喰われようとしている我が息子を・・
助けて下さい」
我が子?
それじゃあ、この犬があいつの母親か?
闇に魂を喰われる?
どういうことだよ。
犬は続けて話した。
「ここはあの子の中。
つまり、意識の中と言えるでしょう。
あの子は今、闇と格闘しています。
闇は言いました。
”力を貸してやる。ついてこい”と」
「闇ってのはなんだ?」
「それはここの創設者の事です。創造者ともいえますが・・
今闇は力をつけようとしています。
そして、強い復讐心をもった息子に目を付けました。
闇は魂を喰らいます。
思いが強くなればなるほど、好都合なのです。
その強い思いを喰らうことで闇は力を得ると聞きます。」
そんなのがこの館にいたのか。
魂を喰らうって・・まさか。
「もうお気づきでしょうが・・
ここの霊達は、この館に居ることで憎しみが蓄積されます。
そして・・膨れ上がってしまったその思念はやがて闇に吸収されてしまいます。
ようは”餌”なのです。
力を与えるといい、迷える魂を集め、自らの餌にしてしまう・・
吸収された魂は二度と戻って来ることはできないのです。
この館にいる霊達は・・」
「もう・・言わなくていいよ
・・言わなくて・・いい」
俺はこの母犬の言葉を遮った。
聞きたくない。聞きたくない。
闇は何を考えている!?
生き物は物じゃないんだよ・・
酷い・・
こんなの酷すぎる。
利用するだけしといて、食べごろになったら喰う。
まるで家畜扱いだ・・
皆だまされている。
力は与えられても、絶対に彼らの思いは遂げられることはない。
死んでもなお報われない人生を送らなきゃならないのか・・?
「ここはあの子の中・・」
母犬は歩き出した。
暗い空間を。
「ここが暗いのは闇に侵食されている証拠。
でもまだ無事なところがある。
ここです。」
そういって案内してくれたのは闇の中で少しだけ・・
ほんの少しだけ光っている記憶の一欠片だった。
「他はもう侵食されてしまった・・
ここだけがこの子にとって唯一意識があるところ・・」
その記憶は、幼い頃母と暮らした思い出だった。
無邪気に遊ぶ子犬。
走り回る子犬。
母のすぐ横で安心して眠る子犬。
すべてがこの母犬との記憶だった。
「この記憶だけはこいつが守りたかった場所。
もう・・こんなに小さくなって・・」
俺はその記憶を持ちあげた。
それはもろく、確かに少しづつ闇に侵食されていた。
「わたしはずっとこの子の中にいた。
闇に侵食されるのをずっと見てきた。
私にはどうすることもできない。
あなたにしかできない・・
なにも・・なにもできないことがどんなに辛いか・・」
母犬は涙をながした・・
自分の子供が苦しんでいるのを、
目の前で見ていながら何もできない。
親にとって何より辛いことだろう・・
聞いたかい?
あんたの母親はけっして見放してなんかいなかったよ・・
むしろ、
どんな親よりお前のことを愛している。
これが・・”愛”だよ。
お前はもう分かっているじゃないか。
こんなに会いたかった母親はお前の中にいる・・
中にいるんだよ・・
もう分かっただろ?
こんなに暖かいものなんだよ。
この闇が邪魔してるんだな・・
分かってる。
今助けてやるから・・
俺は聞こえているか分からないが、
心の中で獣に語りかけた。
「おねがい!!!
この子をもう苦しませないで!!」
その時・・わずかだった記憶の欠片が音を立てて崩れた・・
「・・!!
記憶の欠片が!!」
闇の空間が崩壊し始めた。
すると母犬はこの時がわかっていたようだった。
妙に冷静にしていた感じがした。
「もう・・時間がありません。
このままではあなたが闇に飲み込まれてしまう・・
さあ・・行って!!
あなたには待っている者たちがいる!!
そして・・息子を助けてください・・
息子の名前は・・・・・・」
その時!!
闇の空間が一気に乱れた!!
「なっ!!」
こんな暗闇・・どこに出口が・・!!
(こっちです・・)
姿はないが、さっきまでいた母犬の声がした。
見ると、闇の中に小さな光が・・!!
「そこか!!くそっ!
間に合うか・・!!」
俺は無我夢中で走った!!
背中に暗くおぞましい闇が迫っているのを感じながら、
とにかく走った。
そして・・
(息子を・・お願いします・・・)
一気に光が差し込んだ・・・
子犬の・・名前・・
母犬は言った
”ネア”と