ニクシミ ハ ニクシミヲ・・・
何がいけなかったんだろう・・
俺の反応が遅かった事が悪かったのか?
それとも俺がここに居ること自体がおかしかったのか・・
分からない・・分からない・・
何で俺の手の中でヨウが血まみれで倒れているのかも・・ワカラナイ?
「・・・ぃ!!・・こ・・う!!」
何か聞こえる。
音のする方を見た。
・・アランが戦ってる。
「しっかりしろ!!小僧!!
お前のはそんなものか!!
こいつらを救いたいというのは口だけか!!」
ガッ!!
ガァアアアアァアア!!
アランが戦ってる。
何のために?
俺の信念?
救いたい?
アラン・・何をいってるんだ?
俺は家に帰ってる途中で・・
あれ?
ここどこだ?
それに・・この血・・
「・・ヨウ?何してんだよ。
何寝て・・」
その時、
喋るのも辛そうなヨウが眼を開けた。
ヨウは手を伸ばし、その手は俺の頬に触れた。
「愚か者が・・
何をしている。学習しない奴だ。
お前がすることはあいつを救うことだ。
そんな事も忘れたか!?」
あいつ・・
俺は”あいつ”を見た。
そうか。
俺・・こいつら救うんだったな。
そうか・・
この時、
俺は忘れていた何かを思い出した。
そして・・
「ヨウ。ありがとう。
大事なこと・・忘れてた・・
すぐに戻るから・・」
そういって、
俺はヨウをそっと壁側に寝かせた。
「大朔。自分を信じろ。
そうすればお前にも力が備わる・・
覚えておけ・・
自分を・・信じろ」
ヨウは眼を閉じた。
「自分を・・信じる・・
わかった。
少し・・休んでて。」
俺は立ち上がり、
アランと獣の方へ向けて歩き出した。
そして・・
「やめろ」
大朔はアランと獣が戦っているど真ん中で立ち止まった。
そして、獣と向き合った。
「やめろ・・とは、よく言ったものだ。
お前に何ができる・・
神獣の手を借りないと何もできないニンゲンが!!
どけ・・お前は弱いただの人間だ。
それとも、
この私を救おうなどと考えているのか?
ばかばかしい・・」
大朔は顔をあげた。
まっすぐに獣を見つめる。
「一つ問う。
俺は人間だ。だが、ヨウは人間ではない。
おそらく、何かしらの獣だろう・・
お前はそれを知っていて危害を加えた・・
なぜだ?
襲うなら俺を襲え・・!!」
「小僧・・その眼・・」
獣をまっすぐに見つめるその眼。
大朔の右眼は紅く、染まっていた。
「これは面白い・・
人間を超えた・・とでもいうのか・・フッ
人間!!私が襲ったのはあくまで人間。つまりお前だ!!
その女は私の計算外だ・・」
「そうか・・なら安心した」
「だが・・
邪魔するならその女も殺す。
私は私の信念のために・・
そう・・ニンゲンをコロスため・・」
その言葉に、ピクリと反応した大朔。
人間・・人間人間人間!!!!
世の中には酷い事をする人ばかりではないのに・・!!
「人間が憎い・・か」
「何をぼそぼそと・・
丁度いい。私が殺す最初の人間として、
お前を殺してやる。
貴様など・・噛み砕いてやるわ!!」
ガアァアアアアア・・!!!
物凄い雄叫びとともに獣が迫ってきた。
大朔は動かなかった。
「な・・!!あやつ・・死ぬ気か!?」
アランが慌てた時はすでに遅かった。
獣は大朔まで後数センチまで迫っていたからだ。
くっ・・!!
出遅れたか・・!!
さすがの私でも追いつかん!!
その時・・
ガッ・・・!!!!
「小僧!!!」
なかなか・・
痛いもんだな。
これが奴の憎しみか。
俺は右腕をあえて獣の口に突っ込んだ。
メリッ・・メリッ!!
骨がきしむ音がする。
でも、これでいいんだ。
「貴様・・バカか?
このまま食い破ることなんて容易いことなのだぞ・・」
「そうだな。
そうしたければ、そうするがいい・・
その前に教えてくれ。
なぜ喰らいついた瞬間にそうしなかった?
なぜ・・
あんたの眼から涙がこぼれている?」
獣の眼からは、
激しい憎悪とは別の・・
透明で澄みきった涙がこぼれていた。
「わかっているのだろう?
俺の腕の噛みついた時から・・
憎しみは何も満たしてくれない。
むしろ、新たな虚無感を生み出すだけだ・・と」
獣は動揺し、さらに力を強めた。
「違う!!チガウ・・!!
わたしは・・アァ・・
やめろ・・」
メリッ・・メリッ・・!!
「ぐッ!!
俺はあんたが何で苦しんでるのかも何もしらない!!
だけど!!
これだけは言える・・
憎しみは・・あんたのしてることはッ!!
自分を苦しめるだけなんだ・・
憎しみで身体を奪われ、心を奪われ!!
それでも新たに憎しみを増幅させる・・
そんなのは見たくないんだよ・・」
俺は・・
見たくない。
この館の真実も・・
何もかも。
急に恐ろしくなったんだ。
真実を知ることが。