表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Liminal  作者: くちびる
第2章_バイタルルーム編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/17

第6話_深淵

田中はベッドの横で膝をついたまま、しばらく動けなかった。

モニターの断続的な電子音と、蛍光灯のジーという耳障りな響きが、頭の奥で交互に反響している。

耳の奥で心臓の鼓動が混ざり合い、不規則なリズムを刻み始める。

それはまるで、この部屋そのものが田中の鼓動を吸い上げているようだった。


「……ここは、刑務所……いや、病院か?」


かすれた声が空気を震わせるが、すぐに無機質な壁に吸い込まれた。

深く息を吸い込むと、空気は冷たく湿り、肺の奥に重く沈み込んでいく。

呼吸が浅くなり、喉の奥がひりついた。


「くそっ……意味わからねぇよ……さっきまでプールみたいな場所にいたのに……」


声を若干荒げ、ゆっくりと膝に力を込めて立ち上がる。

視線の端には、鉄枠のベッドがぽつんと置かれ、そこだけがやけに整って見えた。


(……少し休むか……?)


そう思った瞬間、全身に警鐘が走る。

――ここで横になれば、二度と目覚められない。

田中は首を強く振り、視線を逸らした。


「……というか、寒い……これだけ貰うか」


湿ったジャケットを脱ぎ、肩に掛け直す。

ベッドに手を伸ばし、薄い毛布を引き寄せ、体を覆うように羽織った。

その瞬間、指先に触れた布の冷たさと微かなカビ臭さが、さらに不安を募らせる。


足元の床は異様に滑らかで、冷たさが靴底越しにじわりと染み込む。

ドアノブに手を掛けると、あまりの冷たさに声が漏れそうになった。

息を呑み、ゆっくりと捻る。

金属が軋む鈍い音が響く。


押し開けた先には、機械的に等間隔で並ぶドアの列。

天井には、ちかちかと不規則に点滅する蛍光灯が並び、奥行きを歪めていた。

廊下はまるで深淵のように口を開け、真っ直ぐ続いているはずなのに、その果てが霞んで見えない。


田中は喉を鳴らし、一歩踏み出した。

足音が、長い廊下の奥へ奥へと吸い込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ