第5話:夜に震える声
その夜、雨が静かに降っていた。窓ガラスに落ちる水滴が、麻衣の部屋を淡く揺らす光で彩る。
麻衣はヘッドホンをつけ、マイクの前で息を整えた。
「こんばんは、深夜の声です――」
いつも通りの雑談を始める。だが、チャットに流れる文字はいつもより焦燥感に満ちていた。
「もう誰にも話せない……助けて」
「私、消えてしまいたい」
麻衣の胸がぎゅっと締め付けられる。画面越しでも、言葉の重みが現実のように響いた。
「理沙、瑠衣……これ、ただ事じゃないかもしれない」
瑠衣がギターを抱えたままうなずく。
「そうだね……急いで対応しないと」
理沙はメモ帳に書き込みながら冷静に言った。
「共鳴が強くなると、予測不能な影響を及ぼす。昨夜の小さな現象より、大きな揺らぎが起こる可能性がある」
麻衣は覚悟を決める。
――私は、この声で誰かを救う。たとえ怖くても、目を背けられない。
三人は放課後に集合し、相談を重ねた。
「直接会える範囲の人には、こちらから接触する」理沙が言う。
「でも、画面越しでもできることはあるはず」瑠衣が言い、麻衣の肩に手を置く。
「麻衣さんの声があれば、大丈夫だよ」
夜。麻衣はマイクの前に座り、深呼吸する。
「こんばんは、深夜の声です……今夜は、特に切実な気持ちを抱えた人に話しかけます」
チャットに文字が流れる。
「助けて……」
麻衣は静かに語りかける。
「大丈夫、ここで一緒にいていい。無理に動かなくてもいいんだよ」
瑠衣と理沙も、チャットの流れに応じて支援の言葉を送る。画面越しの文字が、まるで温かな光のように揺らめく。
その瞬間、麻衣の心に小さな違和感が走る。
――これは、私だけじゃない。誰かの心の痛みが、私の胸に重なる。
翌日、学校で共鳴の影響が明確になった。クラスの一角で、小さな紙屑が舞い、落ち着かない雰囲気を作る生徒たち。昨日の配信で、複数の心が少しずつ揺れ動いたのだ。
麻衣は深呼吸し、心を落ち着ける。
「共鳴は怖いけれど……でも、諦めたら誰も救えない」
瑠衣が笑顔で言った。
「だから私たちは、深夜相談部なんだよ!」
理沙も頷く。
「データと感情を組み合わせれば、最善の支援ができる」
麻衣は小さく微笑む。胸の奥の不安はまだ完全に消えてはいない。でも、仲間と一緒なら、少しずつでも前に進める――そう思えた。
夜、再び配信を開始する。
「こんばんは、深夜の声です――」
画面には、まだ見ぬ誰かの叫びが浮かんでいた。麻衣はマイクに向かって静かに語りかける。
――怖くても、届くまで諦めない。あなたの声を、私は受け止める。
深夜相談部の活動は、困難と小さな奇跡を繰り返しながら、確かに未来へとつながっていった。




