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天使の住まう宿

 オークに(かつ)がれたままの未来は『ドタドタ』と全速力で客室まで連れて行かれた。廊下の豪華(ごうか)絨毯(じゅうたん)を上下に揺れながら見続けた未来は酔っていた。

 オーク2「勇者ミラクル、こちらがあなたの客室です。くれぐれも他の客や従業員の迷惑は書けないように!」

 未来「大丈夫だって。ここまで担がれて他の皆がどこの部屋かも分からん。それにオーク酔い?したからのんびりするよ。」

 未来・心の声(それにずっと担がれていたから受付まで戻れるかも疑問だ!困ったもんだ。)

 オーク1「では、三十分後に昼食の用意が出来るので別のものが時間になればこちらに迎えに来ます。」

 オーク達はまた『ドタドタ』と大きな音を立てながら戻っていった。未来は振り返って扉を見た。

 未来「え?鍵とかないの?」

 少し考え扉の前で固まったが案内されたので取り合えず扉に手を掛け、ゆっくりとノブを回した。『キィー』と小さな音がして開いた。

 ??「おかえりなさいませ。勇者ミラクル殿。」

 未来「うわぁ~。」

 未来は叫びながら派手に尻餅(しりもち)をついた。高級宿の客室に(すで)に誰か居るとは思いもしなかった。未来は「いってぇ。」と言いながら腰を(さす)り、声の主を見た。

 未来「はぁ?でっけぇ緑色の鼠(ねずみ)~!」

 緑色の鼠「あぁ~、すみませんねぇ。客室の案内のズーネってもんです。案内が終わったら出るんで。」

 ズーネは未来に手を出してくれた。きっと悪い奴じゃないのだと心に言い聞かせながらその手を(つか)んだ。ズーネに引っ張られ無事起き上がることが出来た。

 未来「いや、あんたデカすぎだろ。」

 ズーネは未来の肩くらいの高さがあった。

 ズーネ「いやぁ、この宿に初めて来られる方達は皆同じ反応するんですよ。稀に剣とか杖とか爪なんかを向けて来るんですよ。殺されかけたことが何度ある事か……。でもあんたみたいな反応が楽しみで辞められないんだがな。」

 と緑色の大きな鼠は愉快(ゆかい)に笑いながら話していた。そして当初の目的である部屋の案内をしてもらった。

 この部屋はまるでスイートルームだ、さすが王様だ……と未来は感心をした。部屋の内容はルームサービス全て無料。机の上にある水晶は手を当てると宿の人が来てくれる仕組みらしい。部屋の鍵も水晶の横に置かれていた。めちゃくちゃでっかいベット(大型の方も泊まるからとのこと)を触ってみたが、まるで雲の上にいるようにふわふわだ。風呂は小さな大浴場だ。このサイズが他の部屋にもあるのか……。

 ズーネの説明が一通り終わり最後に質問はないかと聞かれたので、受付までの道のりを聞くとベットの枕元にあるランプを二回叩くらしい。するとこの宿の地図が出現する仕組みだった。近未来的な投影で壁に移されるのだが理屈が分からない。未来は首を傾げていると、説明も終わったから、とズーネは部屋から出て行った。


 未来は一先ず宿の地図を見た。どうやらこの部屋は受付の奥にある廊下の突当(つきあ)たりみたいだ。近くには厨房と露天風呂があるみたいだ(部屋にある風呂で困らないが……。)。パーティの他のメンバー居場所は分からないので一先(ひとま)ず放置しておこう。

 未来「ステータスオープン」

 未来は自分のステータスをしっかり見ていなかったのを思い出し、見返してみた。魔法勇者だけあってMPは高いがそれ以外の能力が低すぎた。チートスキルがあってほしい、先程はスキルの説明なんか見る時間なんて全くなかったから。

 ・速雷(そくらい) 雷魔法。威力は弱いが速度は速い。たまに相手を痺れさせ、数秒固まる。((ただ)し相手能力により時間は変化する。)

 ・ヒール(弱) 回復魔法。HPを少し回復する。

 ・アイテムボックス(小) アイテムを異空間に収納できる。入れる大きさが決まっている。25個まで収納可能。

 ・器用貧乏(きようびんぼう) なんでも(そつ)なくこなす。加護が無い武器を使用できる。しかし全体の成長が遅くなる。

 ・魔法非耐性(まほうひたいせい) 魔法に耐性が無い。魔法使用時にMPが1.5倍必要になる。魔法攻撃に弱い。※体に魔法を貯められない。


 未来・心の声(うん、絶対戦力外じゃん。これで基礎ステータスも低いし、魔法勇者なのに魔法に耐性ないとか(くそ)スキルじゃん。しかも米印(こめじるし)で体に魔法を貯めれないとかどうゆうこと?)

 未来は自分のステータスと(にら)めっこをしていると、『コンコンッ』と扉を叩く音が聞こえた。

 ズーネ「勇者ミラクル、ご飯です。」

 ステータスといくら睨めっこしても能力は変わらないので、諦めて机の上にある鍵を取って部屋を出た。

 ズーネの後をついて行くとさっき地図で見た厨房の横に食べる場所があった。ズーネは鼠だからか気を使って中には入ろうとせず「どうぞ」と中を指さして何処かへ歩いて行った。

 未来・心の声(鼠だから食べ物のある場所には近づかないのか?)

 未来は不思議に思いつつ中に入ると明らかに雰囲気の違うテーブルが一つあった。もちろん勇者パーティの残りの三人だ。そのテーブルだけ周りがキラキラと輝いて見え、未来は思わず立ち止まってしまった。

 未来・心の声(これはあそこに行くべきか?それともまだ、まともにしゃべったこともないからしれっと別のテーブルに着くのが正解なのか?)

 悩む未来をよそに、王様の前では全く存在のなかった丸眼鏡妖精(ようせい)さんが「あっ。」と未来に気付き、声を出したが(うつむ)いてしまった。すると丸眼鏡妖精さんの反対にいた二人がその挙動(きょどう)に気付き振り返った。

 銀髪エルフの騎士様「ミラクルさん、こちらへ!貴方(あなた)が来ないとご飯が来ないのです。」

 先程の凛々(りり)しい感じ……とは打って変わってご飯が来ないのことが耐えられないみたいだ。さすがにこの場所では鎧ではなく、なんと予想外の純白のドレスだ!そして銀髪エルフにとても似合っているので皆見惚(みと)れているはずだ。

 ツインお団子ヘアーのチャイナ服「早く、早く。腹ペコなのだ。」

 こちらは無邪気(むじゃき)に手招きしてくれている。

 未来・心の声(幸せだ。これこそ異世界ハーレムだ。)

 未来は三人の元へ行き唯一(ゆいいつ)開いている丸眼鏡妖精さんの横に座った。すると待っていましたとばかりにデカい肉の塊が『ドンッ』と置かれた。目の前の二人は待っていましたとばかりにナイフとフォークを手に取りこんがり焼けた肉を食べだした。

 未来・心の声(これは果して何肉なんだ?食べても大丈夫なのか不安だ。)そんな未来の思いをよそに二人はどんどん食べていく。横を見ると丸眼鏡妖精さんもあっけにとられていた。

 未来「あの……妖精さんは肉ってたべるんですか?」恐る恐る聞いたら「ぽそぽそっ」っと小声で何か話しながら首を振った。

 未来・心の声(声小せぇ。でも首振ってるから食べれはするんだ!でも俺寝起きからこんなヘビィなの食べたくないんだけど、朝パン派だし。)

 そんな未来の思いとは裏腹にグツグツと煮込まれた何かが運ばれてきた。その煮込まれた赤色のスープの中から群青色(ぐんじょういろ)の丸い物体が頭を(のぞ)かせた。

 料理人「こちらこの宿名物、生きたコバルトオクトの赤色煮だ!辛くて上手いぞ!こいつまだ生きてるから汁飛ばされないようにしろよ。」

 料理人の言葉に勇者パーティは全員固まる。すると赤色のスープから覗かせていた群青色の丸い物体の頭が全部出てきた。生きたコバルトオクトやらの顔は……未来の方を向いていた。

 未来・心の声(濃い青色のタコやん。こんな熱湯の中でなんで生きてんの? てか意外とキュートじゃん。)

 思ったより可愛い顔に未来は思わずニヤニヤした。するとタコが急に『ブーー』と赤色の液体を未来に飛ばし、そのまま回転した。

 勇者パーティ全員「ギャーアァー。」

 未来「いてぇ。目に入ったー。」

 勇者パーティ全員が叫ぶ横で料理人は持っていた板でしっかりガードしている。未来が涙目で前を見ると、目の前の銀髪エルフの騎士様がフッと我に戻り純白のドレスに視線を落とした。ドレスは見事に真っ赤のラインが出来ており、じっくりとみた。そしてゆっくりと顔を上げると目には生気が無く、元の美しい顔とは程遠い鬼の形相(ぎょうそう)に変わっていた。ドレスを汚された怒りで両の手に持っていたナイフとフォークを構え、次の瞬間。

 銀髪エルフの騎士様「ぶっ殺す。」

 タコは危険を察したのか赤色の液体に再び漬かろうとしたが頭にフォークが突き刺さった。そのままフォークでタコを持ち上げナイフで小刻みに切り刻んだ。勇者パーティは固まり未来はこの人には悪戯(いじわる)とかしたら命がいくつあっても足らないだろうと思った。そして悪戯はしないと心に誓ったのだ。

 そんな固まっている勇者パーティをよそに料理人は拍手をした。

 料理人「ナートぉ、仕事だー。」

 ナート「はーい。」と返事があり、入り口から小さい天使が飛んできた。中性的(ちゅうせいてき)で男か女か分からないが流石天使、容姿は整っている。

 ナート「浄化。これで綺麗になったよ。うちの名物料理こんなですけど、めっちゃうまいですよ。」

 みんなに付いた赤い液体は綺麗に取れた。もちろん銀髪エルフの騎士様のドレスも元通りの純白だ。ナートは皆に汚れが残って無いか見てから戻っていった。

 未来・心の声(良いこと思いついた。後でナート君?さん?に確認しようっと。)

 銀髪エルフの騎士様は本当にドレスが純白に戻ったか丁寧(ていねい)に確認してから席に着いた。

 料理人「さっきの騒動で汁が少なくなったので足しますね~。」

 と右手に持った花瓶みたいなものから追加の赤いスープを入れた。しかし、未来は見逃さなかった。料理人が体で左手に持つ別の皿を隠しながらで目の前にそっと置いたのだ。蓋をされているので中身は分からなかった。右手で赤いスープを並々入れ終わった後、しれっと左手で蓋を取った。皿の上には緑の葉っぱの上に(うごめく)くものが……。

 未来「へいっ、ストップ!無理。返品。」

 未来が騒いだので前の二人が新しく置かれた皿の上を見て顔が青ざめていく。蠢くものが何か気付いた二人が叫んだ。そう、いろんな色の芋虫だ。料理人が振り返ったタイミングで未来の左からフォークが伸びて来て芋虫を一つ取っていった。

 丸眼鏡妖精さん「うん、美味しい。これ全部もらうよ。」

 未来も思わず顔が引きつった。

 未来・心の声(うげっ、芋虫食べてるよ。いろんな色あるけど黄色とか紫って……毒とかないのか?)


 他に料理は出て来そうにないので未来は消去法でタコに手を出した。

 未来「えっ、これめっちゃうまいじゃん。ピリ辛だけど意外と味もあっさりで寝起きでも食えるわ。タコも新鮮でコリコリして、サイコー。」

 その言葉に前の二人も恐る恐る食べて「美味しい」と笑顔になって食べだした。途中からは肉を赤色の汁につけて食べると味変が出来て食が更に進むらしい。皆お腹一杯になったところを見計らって、ナートがしれっと横に来た。

 ナート「この後別室で皆さんお話されてはどーでしょうか?」

 そういえば王様の前と言い、ついさっきまでご飯を前に誰も自己紹介すらしていなかったのだ。未来が最初に頷き、他の三人も目を合わせて続いて頷いてくれたので未来は内心ホッと胸を撫でおろした。

 未来・心の声(勇者パーティの勇者なのにいきなり男一人放置プレイになるかと思った。)

 別部屋へ移動中きいたのだが、ナート(いわ)く勇者パーティが来たときはいつもこの流れなのだそうだ。

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