表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『口笛』  作者: kachan
31/42

#30 貴方には会わない

 二通目のメールを真夏に送った後、慌ただしく日常が過ぎて、あっという間に二週間が経った。

その間、僕は、仕事の合間になると、真夏からの返事が来ないことについて考え込んでしまっていた。たった二通目で、「会ってくれないか」だなんて、軽率だったのだろうか。


 11月も中旬を過ぎて、本格的な冬の気配が感じられるようになった早朝、気が付くと、携帯にメールの着信を知らせるLEDランプが点滅していた。

その真夏からのメールのタイトルには、『ごめんね』と書かれ、着信時刻は、5:15と表示されていた。


 僕は、通勤電車の中で、そのメールを読んだ。



『渡辺へ


メール読みました。


中学時代の私が知らないことが、沢山書かれていました。


色々、大変だったんだね。


私が傍にいたら、体を張って守ってあげたのに(苦笑)。


でも、そういうことを乗り越えて、渡辺の今がある。


そうだよね。


渡辺が、結婚して家庭を作り、立派に暮らしている。


素晴らしいね。


本当に良かった。


私は…、貴方と会う気は有りません。


貴方は、貴方の素晴らしい人生を歩んでいる。


私は、貴方とこうして再び言葉を交わせただけで、とても、とても、深い喜びに包まれているのです。


ごめんね、渡辺。


いつまでも、いつまでも、渡辺の活躍と、健康を祈っています。


さようなら。


                     沢井真夏 』


 僕は、真夏からのメールを二度読み返し、携帯を静かに閉じた。覚悟はしていたが、真夏は、再会を望んではいなかった。

 僕は、ひどく落胆し、その日の仕事は、手に着かなかった。人には、様々な事情があるだろう。ましてや、僕と真夏の人生は、20年以上前に分岐したまま、交わることがなくここまで来たのだから、再びうまく交わることが出来なくても不思議なことではない。


 僕は、そう、自分を納得させるしかなかった。真夏のことは、忘れよう。僕は、そう自分に言い聞かせる事にした。いや、そうするしかなかったのだ。


 12月に入り、赤坂の街も、クリスマスのイルミネーションに包まれていた。僕は、久しぶりに和也に呼び出され、いつものバーに向かった。和也には、まだ真夏とのやり取りを報告していなかったので、その件で呼び出されたのは見え見えだった。

バーに着くと、既に和也がカウンターに座っており、入口に現れた僕に手を挙げた。


「悪いな、遅くなった」


「あぁ、構わないよ」


 そう軽く挨拶を交わした後、和也は、早速、僕と真夏とのその後について聞いて来た。

僕は、真夏とのメールのやりとりについて話し、そのメールも和也に見せた。


「うーん。まあ、人にはそれぞれ事情があるんだろうが、お前、これで納得してるのかよ」


「そんなこと言ったって、納得するより仕方ないだろう」


 和也は、深く溜め息を着いた。


「お前が、そう言うなら仕方ないんだが・・・。

なぁ渡辺、この真夏からのメール、俺に転送してもらっていいか?」


「はっ?そんなことしてどうするんだよ。・・・まさかお前、真夏にメールを?」


「バカ言え、そんなことしないよ。ただ…ちょっと調べて見たいことがあるんだ。いいよな? 断じて沢井にメールを送ったりはしないから」


 そう言うと、和也は僕に、その場で直ぐに転送するように促した。和也が調べようとしたこととは一体何なのか、その時の僕は、何も気付いてはいなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ