#29 真夏に会いたい
深夜2時、自宅で近々ある裁判の資料の整理をしていたとき、携帯の着信音が鳴った。
携帯のサブウインドウには、真夏のメールアドレスが、表示されていた。
僕は、書斎の椅子に腰掛け、深呼吸をしながら、携帯を開いた。21年振りの、真夏からのメッセージに、僕は、異様な胸の高鳴りを抑えられずにいた。
メールのタイトルは、『貴方の姿』。
『渡辺へ
お元気ですか?
お返事、遅くなってごめんなさい。
貴方が編集部を訪れたこと、板倉編集長から聞いて、ひっくり返りそうなくらいビックリしたよ。
最初は、何かの間違いじゃないかと思ったくらいです。
でも、貴方の様子や、貴方が話したことなどを伝え聞き、渡辺だと確信出来ました。
本当に嬉しく思います。
貴方は、私の想像通り、立派な大人になったんだね。
凄いよ、渡辺。
今、私がいる部屋から、貴方が働いている、赤坂のタワービルディングが、見えるんだよ。
そこで、貴方は、バリバリ働いているんだね。
なぜだか、二十年以上も会っていない貴方の姿が目に浮かびます。
そう、貴方は小学校時代から、全く変わっていない、そんな感じです。
今、私は、とても心地良く、穏やかな気分に包まれてるよ。
私に気付いてくれて、本当にありがとう。
沢井真夏 』
真夏からのメールには、窓から僕が働く赤坂のタワービルディングが見える景色が撮影された写真が添付されていた。僕は、真夏からのメッセージを読み終え、嬉しさと共に、なぜだろうか、少しの違和感を感じていた。
僕は、翌朝、赤坂の事務所に出勤した後、真夏が見ているであろう方向を眺め、溜め息をついた。真夏に会いたい、その気持ちを、どう伝えたらいいのか。
少なくとも、昨夜届いたメールには、再会を望む気配は感じられなかった。確かに、お互い歳を取り、今さら会うことに、二の足を踏むのは、当然かも知れない。
真夏は、再会を望んでいないのだろうか。いくら考えても、正しい推測が、成立しそうになかった僕は、素直に今の気持ちを伝えるしかないと感じた。
僕は、次のメールで、最初のメールに書かなかった中学時代の思い出や、近況について書いた後、
「一度、会えないだろうか?」
そう、単刀直入に書き、送信した。
それから、二週間もの間、真夏からの返事はなかった。僕は、真夏に苦悩を強いてしまったのだろうか。