#26 それでも僕は・・・
ライブハウスでの、真夏との劇的な再会に微かな期待を抱いていた僕だったが、そんなに事は巧く行くハズがった。真夏を見つけられず、ライブハウスから引き上げてきた僕は、赤坂の行き付けのバーで、一服つけていた。
ライブハウスでタバコを吸いすぎたせいか、まだ、胸焼けがあり、火を着けたばかりのラークマイルドを二回ほど吸っただけで、灰皿に押し付けた。
和也にどう報告すべきか。そう思い悩み、カウンターに置いた携帯電話に視線を移すと、まるで、僕の視線をキャッチしたかのように、着信を知らせるランプが点滅し、振動を始めた。案の定、和也からだ。
「もしもし、俺だ、和也。今、大丈夫か?」
なぜか、小声でささやいている。
「あぁ、分かってるよ。大丈夫も何も、今、いつもの赤坂のバーにいる」
「一人か?」
「一人じゃないとしたら誰といるんだ?」
「焦らすなよ、真夏と会えたのか?」
僕は、矢継ぎ早に繰り出される和也の言葉に、少し苛立ちを覚えた。
「会えてないよ。今一人だ」
なんだ、そうか、と、いかにもがっかりした風に、溜め息が聞こえた。
和也は、これからそっちに行く、と僕に伝えて、電話を切った。
僕は、ライブハウスの出口で、目の前を通り過ぎた女性達の顔を、一人一人思い出していた。
年齢が明らかに違う、中学の時に聞いていた身長と比べて明らかに小さい、顔の輪郭が全然違う…何度思い出しても、真夏はいなかったように思えた。
不意に、和也が僕の肩を叩いた。
「本当に一人だったんだな。俺は、また勿体つけてるのか、とも思ったんだけど…予想が外れて、がっかりだな・・・あっ、がっかりしてるのはお前の方か…」
苦笑いを浮かべた和也は、バーボンを頼み、僕のラークマイルドを箱から取りだし、口にくわえた。
「多分、来てなかった、そう思うよ。出口で見てたけど、それらしい女性はいなかった。
でもな、見逃してる可能性もあるな。なんてったって、生の真夏を、俺は26年見てないんだ」
「もう、ライブは、終わっちまった。これからどうする? 渡辺…」
僕も、これからどうすべきか、考えてはいた。
「俺は、ライブで、真夏を見つけることは出来なかった。あと手がかりはひとつしかないよ」
「『○△ミュージック』の編集部だよな。今調べて来たんだ。お茶の水にある」
僕は、相づちを打つように、頷いた。
「和也。俺っておかしくないか?もう結婚して家庭も持ってる。誰よりも家族を大事に思ってる。裏切るつもりなんて、毛頭無い。
今、真夏に会わなきゃならない理由なんてどこにも無いんだよ。でも・・・」
それでも、僕は、一目でいいから、会いたい、そう思っていたんだ。