表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『口笛』  作者: kachan
23/42

#22 これから僕たちは・・・

 熊谷や、よっちゃん、やまちゃん達のお陰で、ツッパリグループからの嫌がらせがなくなっても、僕は、熊谷と給食を一緒に食べることを続けていた。


 思えば、クラス内での孤立から救ってくれたのは彼女達であり、彼女達の好意に、僕は、必要以上に甘えていたように思う。


 そうして、僕が転校してきてから、ようやく穏やかな日々を迎えていた年度末のことだった。


 その日の授業が終わり、僕は自転車置き場に向かった。


 自転車に乗ろうとしたとき、フェンスの向こうで、同じ中学のツッパリが、こちらを指差していた。


 その向こう側には、何やら思い詰めたツッパリが一人と、仲間が数人いるのが見えた。制服の詰襟の校章が、自分と違っていたので、他校の生徒であることは直ぐに分かった。僕は嫌な予感がしてきていた。


「わたなべ言うんは、お前か。熊谷を知っとるじゃろ」


 僕は、訳が分からず、黙っていた。


「なんで、ワイがきたか、わかっとるじゃろうの?」


「わからん。なんでこげなことするんじゃ。なんか迷惑かけたかのう」


「知らんふりするんか」


 そいつは、思い詰めた表情で、僕に説明を始めた。要するに、付き合っている熊谷が最近冷たくなった原因が、僕にあるのだという。


 僕らが、毎日一緒に給食を食べているうちに、熊谷の自分に対する気持ちが冷めていったのだと言うのだ。僕は、濡れ衣だと思ったが、そいつは、もうそんな言訳を聞いてくれるような状態ではなかった。


 確かに、女子と給食を食べるなんて、普通じゃなかった。僕は、彼女達が僕と給食を食べようとした時、断ることも出来たはずだった。それを甘んじて受け入れたのが原因だとすれば、確かに僕に非があるようにも思えた。なぜか、そいつは半泣き状態になっていた。


「わしは、お前を一発殴らんと気がすまんのじゃ」


 なんて情けない啖呵を切るのか、と思った。ケンカもそれほど強そうに見えなかったし、悪い奴ではないように思えた。


「なんで、わしが殴られんといかんのじゃ。やっぱり納得出来んわ」


 僕は、改めて、理由を尋ねた。


「おまえ、田舎から出てきて、いじめられよったんじゃろ。被害者面して、同情かって、それで熊谷に助けてもろうて・・卑怯じゃと思わんのか」


 僕は、返す言葉が無かった。


「・・・殴りゃぁええが。俺はお前を殴る理由がないわ。お前に俺を殴る理由があるんなら、殴りゃええ」


 僕は、胸ぐらをつかまれたまま、力なく、彼の目を見つめた。格好を付けたかったのではない。


 彼の「卑怯じゃ」と言う、罵りが、結構堪えたのだ。彼は、僕の胸をつかみ、右手で拳を握り締め構えた。僕は、もう殴られる覚悟が出来ていた。


「さぁ」


 僕が、急かすようにつぶやいた。暫く僕の顔を睨んだ後、彼は、僕の胸を掴んだ手を離し、僕の足元に唾を吐いた。


「殴れ、ゆう相手を殴ったら、わしが卑怯もんになるがな。こんな状況じゃ、もう、殴れんわ」


 そういうと、周りに声をかけて、その場から去って行った。その直後、先生が飛び込んできた。


「どうしたが?わたなべ、ケンカか?隣町の中学の奴もおったんじゃろ、なんかやらかしたんか?」


「いえ、何でもありません。ちょっと、話し合いをしとっただけじゃけぇ、なんでもないが」


 そう僕が言うと、先生も拍子抜けしたのか、訝しそうにしながらも、自転車置き場からから出て行った。少し離れたところに、騒ぎを聞きつけた熊谷が申し訳なさそうに立っていた。


 僕は、熊谷に近づいて話をした。


「わしは、熊谷に本当に助けられた思うとる。本当に感謝しとるんじゃ。じゃけど…、甘えとったんじゃな。わし、最低じゃ。給食は、もう一緒には食べられん。これからは一人でも平気じゃけぇ。ほんまにごめん。今までありがとうな」


 僕は、本当に熊谷には心から感謝をしていた。僕のいじめや、嫌がらせが解消されたのは、よっちゃんとやまちゃんだけでなく、彼女達も協力してくれたおかげだったのだ。


 僕の言葉を聞いていた熊谷は、泣きながら黙って僕の言葉を聞くだけだった。僕は、少し落ち着いてから、真夏に手紙を書いた。



『真夏へ


こんにちは、元気ですか。


ソフトボールの練習はがんばってる?


こっちは、ちょっと残念と言うか、あまり気分が良くないことがあったんだ。


おれが、こっちに転校してきて、色んなことがあったんだけど、助けてくれたクラスメートを、少し傷つけるようなことをしてしまったみたいなんだ。


おれの不用意な行動が原因だったみたい。


少し、反省です。


でも、ようやくこの学校に馴染めたみたいで、友達も増えてきたよ。


今度、柔道の大会があるんだよ。


初めての大きな大会なので、少しでも勝てるようにがんばるよ。


真夏も怪我をしないように、ソフトボールがんばれ。


それではまた  


わたなべより』 


直ぐに真夏から返信があった。


『わたなべへ


こんにちは、元気ですか?


柔道、大会があるんだ?


去年始めたばかりなのに大会なんて大丈夫?


相手は強いのかな。


秋田で、ケンカで負けてたわたなべからは、相手を投げ飛ばすなんて想像もつかないよ。


ごめんごめん、毎日練習してるんだもんね。


がんばれ!


ところで、どんな人を傷つけちゃったのかな。


わたなべを助けてくれた人?


それは女の子?


なんか、言い方が中途半端だったので、そう思いました。


間違ってたらごめん。


助けてくれた女の子には優しくしてあげて。


やっぱり困っている人に手を差し伸べるなんて勇気がいるんだよ。


そういう人には感謝して、優しくしてあげないと。


でも、色々あるもんね。


ちょっと、難しいかな・・・。



それじゃ、またね。             


              真夏より』



 放課後の、あの事件から、僕は熊谷達と給食を食べるのを止めた。少し、よそよそしくなってしまったが、それは仕方がなかった。その代わり、僕とは稲山君が一緒に給食を食べてくれた。


 僕が、腕相撲で初めてよっちゃんと対決した後に、真っ先に声を掛けてくれた奴だった。僕はその後大きなトラブルもなく、仲良くクラスメートと付き合いをすることが出来るようになっていった。


 そして、秋田から岡山に転校してきて以来、真夏との再会も果たせぬまま、中三の春を迎えた。僕は、その頃から、毎日の様に、真夏とのこれからを考える様になっていた。



 僕達は、これからどうすれば良いのだろうか・・・。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ