#11 手紙
僕は、真夏を見送った日の夜、真夏から貰った、住所が記載されたメモを眺めながら、どんな手紙を書くべきなのか悩んでいた。
そもそも、女の子に手紙を書く事自体、初めての体験だったし、相手が何を書いたら喜ぶのかもさっぱり判らなかったのだ。それでも、あまり待たせては申し訳ないと思い、翌週には早速手紙を書く事にした。
『真夏へ
こんにちは。
元気ですか?
この間は、会いに来てくれてさんきゅう!
すげえ、うれしかったよ。
真夏に
「好きですか?」
って聞かれて、とてもびっくりした。
真夏が転校しちまって、もう、おれって忘れられるもんだと思ってたんだ。
だから、両想いだって言われて、とってもうれしかったんだよ。
真夏は、おれよりも背が大きくなってたな。
でも真夏が大きい、っていうよりは、おれが小さいのかも。
俺は、母ちゃんからは、チビで骨と筋だけなので、骨川筋衛門って呼ばれてんだ。
そういえば、もうすぐ、野球の夏の大会があるよ。
これに優勝すれば県大会に進めるんだけど、負けると六年生は引退なんで、すげえ気合いが入っています。
ところで、真夏は、どうしておれのことが好きになったの?
それが、今のおれにとって一番知りたいことです。
それでは、返事待っています。
ばいびー
わたなべより』
僕は、手紙を書き終え、意外にあっさり書けた事、思いのほか、素直に気持ちが吐露出来る事に驚いていた。その手紙を投函した後は、今までしたことも無かった郵便受けのチェックが僕の日課となった。
家に入ると、母が手紙を先に受け取っていないか、テーブルや棚の上のチェックもしていた。素直に「手紙来てない?」と聞けば良いようなものだが、それも気恥ずかしかった。しばらくは、そんな日々が続いたが、十日経っても返事は来なかった。
(手紙くれって言ってたのに、返事来ないじゃん)
毎日、妙な行動を母に怪訝な顔で見られていた僕は、少しイライラしだしていた。と同時に、何か気に触る事を書いてしまったのではないかと、心配になってきてもいた。
(なんで俺の事が好きか、なんて聞いちゃまずかったかな)
そして、二週間を過ぎた頃、学校から帰ると、テーブルの上の真ん中に、一通の手紙がおいてあった。
「おぉっ」
と思わず声を上げると、洗面所で洗濯をしていた母が、大声で叫んでいた。
「あんたに手紙来てるよ。東京から」
ぼくは、ぶっきらぼうに「あぁ」と応えて、手紙をつかみ、二階の自分の机に向かい、急いで封を開けた。
『わたなべへ
手紙有り難う。
そして返事が遅くなってごめん。
ソフトボールの合宿とかあって、なかなかゆっくり書く時間が無かったんだよ。
ゴメンね。
野球、最後なんだね。
かんばって。
東京で応援してるから。
この間は、会えてよかった。
ほんとは、突然行って、いなかったらどうしよう、って、とっても不安だったんだ。
それに…、好きだ、って言ってもらえて、とてもうれしかった。
キーホールダーありがとう。
大事にするよ。
いつも私の机の真ん中に飾ってあるからね。
↓私の秘密大公開
<わたなべの好きな所>
・笑わせてくれる所
・頭の良い所
・ケンカが弱いのに下がってろ、って気を使ってくれた所
・水カマキリや、沢ガニを上手にとれる所
・海でピンチの時に助けてくれた、やさしい所
・一生忘れない素敵な夕日を見せてくれた所
まだまだ一杯あるよ。グラウンドで遭難する、おっちょこちょいな所とか!
今度は、わたなべが、私のどんな所が好きなのか教えて下さい。
それでは、お返事待ってます。
さようなら!
真夏』
僕は、真夏からもらった手紙を、何度も何度も読み返した。読み返す度に幸せな気分になった。
ただ、それから数日、最初に自分からした質問ではあったが、改めて「私の好きなところを教えて下さい。」と聞かれて僕は、どう答えるべきか困っていた。
僕は恐らく、真夏が転校して来て、初めて僕たちの前に現れた時から、好意を抱いていたから、好きな理由なんて、考えた事がなかった。
それをどう言葉で伝えれば良いのか僕には良く判らなかったのだ。
それでも、僕は一生懸命言葉を探し、選んで、伝えようとした。