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4話

 真のラッキーは自分だと言いたいのだろう。

 嬉しさが隠しきれていないニヨニヨ顔でこちらをチラチラうかがいながら、当たった宝くじを扇のようにしてあおいでいる。



 俺は、スマホで当選番号を確認した。


 そして自分の宝くじを確認する。


「01組159070、1等7億円」


「……え?」

「まさか結斗……それが当たって……!」


 衝撃で全員、息を呑んだ。去ったはずのタナカまで現れ一歩も動かない。

 そこで、ひまりちゃんが声を上げた。


「で、でも! 勝負は10万円までだよ!? 1等は……確かにすごいけど! この勝負は私の勝ちのはず!!」


 そうだね。俺もその条件、ちゃんと覚えてた。まあだからこれが当たったんだと思うけど。


「の、組違い賞04組159070、10万円」



 当たった宝くじを机に置く。


 最初から、当たるのは多分これだろうなとは思っていた。


 ひまりちゃんが想像以上に、いや、想像もつかないほどラッキーだったから驚いたけど、相手がどれだけラッキーだろうと俺のラッキーは止められない。必ず俺が勝つようになっている。


 5枚全てが当たったひまりちゃんは確かに凄いラッキーだけど、今回の勝負においては上限額10万円ぴったりで当てた俺の勝ちだろう。


 彼女ほどのラッキーガールでも、俺には勝てないのか。


 なまじいい勝負をしてしまったせいで辛さが倍だ。やっぱり、勝負なんてしなければよかったな。


「この勝負、俺の勝ちだね」

「うっ……! まさか私が負けるなんて……」


 ひまりちゃんが双葉ちゃんに抱きつきながらこちらを恨めしそうに目つめてきた。

 負けて悔しいよね。もしかして初めての敗北だったのかな。どんな感じになるの? どのくらい

辛い? ……必ず勝つことよりも、辛い?


「いや〜。どうなる事かと思ったけど、やっぱ結斗はラッキーだな! 組違い賞とかすっかり忘れてたよ」

「2人とも本当に当てるなんてね。ほらひまり、泣かんでよ。どっちもなかなか凄いじゃん」

「うぅ〜だって、私の、アイデンティティがぁ……!」

「ひまりちゃんも俺も、ちゃんとラッキーだったって事がわかって良かった。そんなにラッキーな子見たことないよ」


 何だかいたたまれなくてフォローしておく。思ったよりショックが大きそうだ。負けるって、そんなに悔しいんだ。

 さっき少し嫌な感情を向けてしまったから反省しないとな。ああ、本当に泣かせてしまった。あの時のキラキラした瞳が涙で見えなくなるのが悲しくて、思わず目を伏せる。




「うーん、2人ともごめんだけど、今日はこれで解散でいい〜? ちょっとひまりが再起不能だわ」

「あ、うん。大丈夫。その、ごめんね」

「気にせんで〜。あの子から突っかかったんだし」

「おーい丹羽ちゃん! 俺ら帰るわ! またね」

「…………うぅぅぅぅ……」


 うめき声が聞こえる。気まずげに顔を見合わせる俺たちを、双葉ちゃんとタナカが申し訳なさそうに微笑みながら見送ってくれた。


「じゃ、たまねおふたりさん」

「猫田ちゃんもまたね!」

「朝からお邪魔しました。それじゃあ」



 進と2人、家の方向へ歩いていく。


「結斗、まじで凄かったな! まさかほんとに当ててくれるなんて」

「ま、ラッキーボーイだからね」

「丹羽ちゃんも凄かったしな〜。全部当たるとか初めて見たわ」


 本当に。彼女は自信を無くしてしまったようだけど、そんな必要は無いくらいラッキーだと思う。なんかほんとに罪悪感がすごい……


「この宝くじ、いつ換金しに行く? 冬休み終わってからだっけか」

「始業式くらいだったはず」

「じゃあ帰りにドンキ寄るってことで。うわぁ〜楽しみだなぁパソコン」


 1人妄想に浸る進を小突いて聞いてみる。


「またあの2人に合ったらどうしようか」


 ありえないことでは無い。お互い最寄りみたいだし、あちらも換金はするだろう。


「ま、さすがにないんじゃね? こんな短期間で急に遭遇しすぎよ」

「それはそう」


 冬の8時は、まだまだ寒い。鼻を赤くしながら、早足で神社を通り過ぎる。


 後ろから吹いてくる風に、背を押された気がした。

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