2話
寝坊した。終わった……と思いながらスマホを見ると進からの“やばいねぼえしたまじごめ”の文字と6時40分の表示が見え、ホッと息を吐きながら適当にLINEを返した。
中学で仲良くなった進とは毎年2人で初詣に行っている。星空が綺麗な5時頃に行くのがこだわりだったけど、3年目ともなると揃って大寝坊だ。
リビングに下りると姉の屍を発見。年を越してもしばらく騒いでいたので、どうやらそのまま寝落ちしたようだ。踏まないように注意しながら(髪が長くてちらばっているので歩きにくい)姉ゾーンを抜けると、親ゾーンが見えた。酒臭いが、とりあえずこれも無視。
チラッと鏡を確認して、コートとマフラーをひっつかんで家を出る。7時すぎには神社に着けそうだ。
「進、あけおめ」
「おー。おめおめ」
少し待たせてしまったらしい。寒そうにしながらすいすいと歩いていく進の後を追いながら、去年と違う神社の様子に目を取られる。
日の出後の、朝焼け。人もまばらに居て、話し声が聞こえる。星に見守られながらする静かな参拝もいいけれど、人や太陽がそばに居るとお正月って感じだ。来年も7時でもいいかもしれない。
気を取られて見失ってしまった進を見つけると、傍に女の子が2人居た。ひまりちゃんと双葉ちゃんだ。まさか最寄りの神社まで一緒だったとは。
とりあえず新年の挨拶をして、進に小声で話しかける。
「コレもしかして、寝坊して良かった系?」
「な。これで1日ドンキを張らなくてすむ」
なるほどこれはラッキー。さすが俺。さすがラッキーボーイ。
そうと決まればまずはお参りだ。2人に軽く声をかけて、列に並ぶ。案外進みは速く、あまり待たせずに合流できそうだ。
お参りを終えあたりを見渡す。
「2人、どこだろ。1回鳥居のとこ行くか」
「お〜。丹羽ちゃんはいいけど、猫田ちゃんは埋もれそう。だいじょぶかね?」
「そこまでじゃないだろ」
適当なことしか言わない進は放っておいて赤いコートを探す。たしかひまりちゃんは大人びた、俺の姉とかが着てそうな赤コートを着ていたはずだ。
「おふたりさん、こっちだよ〜」
「あれ、猫田ちゃん服変わった?」
「うちが近いもんですから。何だったら、うち来ます? 勝負つけるんよね?」
「え!」
鳥居のそばにさっきより少し寒そうな服装に変わった双葉ちゃんと、記憶通り赤いコートのひまりちゃんがいた。あ、でも髪型が変わってる。
それはそうと、
「さすがに迷惑じゃない?正月なのに」
「いえいえ〜。元々ひまりが来ることになってたんで2人増えてもあんま変わりませんって」
「双葉ちゃん家、すぐそこだよ!」
ひまりちゃんはともかく、ほぼ初対面の俺らが押しかけるのはどうなんだろうか。まあ、こんな勝負してる時点で既におかしいんだけど。
「大丈夫なら、ありがたいけど。進も良い?」
「俺はぜんぜん! 寒いから嬉しいわ〜」
双葉ちゃんのお言葉に甘えて、お邪魔することにした。
勝負はもうすぐそこ。泣かせたく、ないなぁ。