1話
「よし、俺に任せろ」
「頼んだぞ! 俺の未来はお前にかかってる」
「絶対絶対当たるから!」
「ほんと〜?」
「「大丈夫。俺/私、ラッキーだから!!」」
「「え……?」」
これは、自称ラッキーボーイと自称ラッキーガールの 騒がしくも微笑ましい、青春物語。
☆
時は12月下旬某日。
クリスマス気分で飾り付けられたドンキの目の前。
そこには、年末ジャンボ宝くじ売り場があった。
俺はラッキーボーイだ。それは物心ついた時から何となく理解していた。
今までで一番のラッキーエピソードは小学生の時、家のケーキ屋を手伝っていたら俺の接客が話題となりかなり繁盛したことだ。子供が泣きそうな顔をしていたから家用に取っておいた分を出しただけだけど、両親にも褒められてとても嬉しかったことを覚えている。
ただ、今この瞬間だけは自分をラッキーボーイだとはとても思えない。
出会ったばかりの女の子に、上から下までジロジロと観察された挙げ句意味不明な勝負を持ちかけられているから。
「2人とも、いい? 買うのは1500円分5枚、当たり額は上限10万円まで! それ超えたら負け。大金貰っても後で困るんよ」
「も〜分かったって、双葉ちゃん。絶対超えないから!」
「なんかよく分からんけど頑張れよ、結斗。俺の金を頼んだ!」
確かに言ったさ、ラッキーボーイだと。でもそのせいで自称ラッキーガールに勝負ふっかけられるとは思わないじゃないか。
「あのさ、この勝負やめない? お互い好きなのを買おうよ」
「敵前逃亡だ! 進くん捕まえて!」
「おう! 逃さないぞー結斗」
可愛い女の子との出会いを粗末にするんじゃない、と囁かれ、途方に暮れる。俺の親友はすっかり相手側と打ち解けておしゃべりに夢中だ。
メンバーは自称ラッキーガールの丹羽ひまりちゃん、その友達の猫田双葉ちゃん、ついでに俺は角谷結斗でその親友は能勢進。どうやら2人は隣の中学の3年生で、俺達と同じように宝くじで一発当てに来たクチらしい。
「いい? 世界一のラッキーガールは私なの。でも結斗くん『俺ラッキーボーイなんだ』とかなんとか言ってたよね」
俺のモノマネに爆笑している進を小突いてからひまりちゃんに向き直る。よし、今しかない。なんとかこの無駄な争いを辞めさせるんだ。
何をどうしたって、どうせ俺が勝っちゃうんだから。
「言ったけど、別にそれは無しでいいよ。仲良くしよう」
「仲良くするのはいいけど! 勝負はする!」
「ごめんねぇ、ひまり一度決めたら止まらないんよ。付き合ってあげてくれん?」
お願い、と双葉ちゃんがひまりちゃんを押し出して、しばらくお互い見つめ合う。
どうにもこのキラキラした瞳でじっと見られると拒否できない。でも、負けたら負けたで泣いちゃいそうだよなぁ。
「わかった。でももう一回とかはなしだから」
「やったー!」
つい、受けてしまった。どうせ後悔するだけなのに。嬉しそうに買うくじを選ぶひまりちゃんを見ながら思考にふける。
俺は勝負が嫌いだ。何をやっても勝つから。ハラハラもドキドキも、どんでん返しも何もない。勝負をしたら勝つ。ただそれだけ。
ラッキーなことは良いことだ。そのおかげで今まで程々に楽しい人生を送ってきたし、感謝してる。
でもあいにく俺には闘争心というものがあったらしく、幼い頃からなにかにつけて勝負していた。かけっこも跳び箱も、テストでも、俺は本気で頑張った。そしたら勝った。すごく嬉しかったさ。でも段々違和感が出てきて。
一度、何もしなかったことがある。その日はかくれんぼをしていて、先に見つかったほうが負け。俺は鬼の真ん前に陣取って必ず負けるようにしてみた。
そしたら教師が飛んできて、不審者が現れたと緊急集会が始まった。俺がどうしても勝てない勝負は、勝負自体がなくなるようにできているのだと理解した。
俺のしてきた努力は全く勝負には関係なくて、ただラッキーだから勝つ、それだけのことだった。
勝負をすると虚しくなるから、それから人とはどんな小さなことでも争わないことにした。心に
潜む闘争心は漫画で抑え込んだ。自分以外なら、ワクワクした勝負ができる。とても羨ましかった。
「結斗くん?」
「……! な、なに」
いつの間にかひまりちゃんがそばにいた。
「私この5枚にする。結斗くんはどれ?」
「あ、うん。これにしようかな」
ひまりちゃんは女の子にしては身長がある方だ。だからか、俺の手元を覗き込むと顔が近くなってとても気まづい。
緩く巻かれた栗色の毛先が、そろりと手首を撫でた。
「じゃあねー! 元旦に会おう!」
「さいなら〜」
カンニングしちゃだめだよ、と言いながら2人は去っていった。通り雨のようなスピード感に思わず進と顔を見合わせる。
「……なあ、元旦ってドンキやってると思う?」
「やってないだろさすがに。というか、何時集合?」
なんで連絡先交換してないんだよ、とお互い責任をなすりつけ合う。
「ま、でも俺ら暇だし」
「進と一緒にされたくない」
「おい!」
ひまりちゃんのキラキラした瞳と赤い頬を思い出しながら、ふわふわとした気分で家へ帰った。
久しぶりの勝負、もう今さら何も感じないだろうけど、泣かせたくはないなぁ。