人魔統合機構フォーラム
「今、ここで我らは再確認する必要がある」
薄暗い長方形の部屋。
中央に置かれた楕円の巨大な机に座る影が四つ。楕円の頂点に座る男は立ち上がり、机に両手をついてその場の全員に告げた。
「我ら、人魔統合機構フォーラムの………宿願を」
強く、はっきりとそう言う男………その見た目は初老に差し掛かった男性だ。
少しだけシワの刻まれた男性は、白髪の紙をオールバックにしていて、縁のない眼鏡や白いスーツのおかげで、『老紳士』という印象を受ける。
『人魔統合機構フォーラム』の総合指令責任者―――アルドワーズ・ネーロ。
「我らの目的は、『人類と魔族の共存』」
白い眉を深く曲げ、まっすぐな瞳でアルドワーズは全員を見渡す。
「今の帝国と魔国はダメだ」
アルドワーズは大げさに両手を広げる。
「互いを潰しあうことしか考えず、いつ終わるとも知れない戦争を繰り返している。―――それではダメだ」
広げた両手を徐々に前方に持って行き―――アルドワーズはギュッと両手を握りこんだ。
「『受容』が足りない。圧倒的な、他者を包み、他者を受け入れ、他者と共存する『受容』が―――故に滅ぼす」
「………」
その場の全員が、男の言葉に傾聴している。
「帝国も、魔国も、一度滅ぼす。―――その後、『フォーラム』を母体とした新国家を築き、魔族との共存を目指す」
握っていた手を緩め、アルドワーズは再び両手をテーブルに置いた。
「その為の重要な手駒………『メインプラン』が先ほど到着した。―――セラドン」
「はい」
黒のスウェットの上から白衣を着たような格好の男は、名を呼ばれ、ゆっくりと立ち上がった。
白衣の男の顔は整っていた。艶の良い緑髪も相まって『イケメン』という評価が似合う男。―――しかし、白縁眼鏡の奥の瞳は鋭く、『威圧感』を同時に与えてしまう。
『フォーラム』第四の軸『リサーチャー』責任者―――セラドン・グラス。
「『メインプラン』に大きな損傷なし。『自我』が施設脱走時よりも強く見受けられますが、誤差の範疇です。―――あと一日もあれば計画も実行に移せるでしょう」
セラドンは用意した資料へ視線を落としながらそれだけ告げると、再び席に着く。
「ありがとう―――報告の通りだ。かねてより予定していた作戦が近々動く。どの『軸』も準備を怠るな」
アルドワーズの言葉に全員が頷く。
「じゃあ、俺からもその作戦に関わることで一つ」
そこで、天然のパーマに短い顎髭の男が手を挙げる。
『フォーラム』第一の軸『ヒュニマニズム』責任者―――シルバー・パール。
「『メインプラン』の奪取時、『アサシド』責任者―――ガージナルが殺された」
シルバーの言葉に、アルドワーズは静かに空いている席に視線を送り―――やがて続けて報告するようにシルバーに目を合わせて続きを催促する。
「殺したのは『メインプラン』を保護していた少年」
シルバーは手元にある新聞をテーブルの中央に置き、続ける。
「帝宮に潜入している『ヒュニマニズム』構成員からの報告で、この少年は先日『勇者暗殺未遂事件』を起こした指名手配犯だと報告があった。正体は、帝国に召喚された勇者の一人―――センマ・ヨミヤだと思われる」
手を組むシルバーは、少しだけ困ったような顔を浮かべた。
「ガージナルがコイツを巻き込んで最後自爆した。死んだと思いたいが、死体を確認してない―――計画実行中にコイツの妨害が入るかもしれないことを頭に入れておいてくれ」
セラドンの不服そうな顔を確認しながら席に着くシルバー。
そんなシルバーに続くように、青い獣の耳を生やした女性が口を開いた。
「今の報告に関連して、私からも一つ」
『フォーラム』第二の軸『デモノイド』責任者―――アザー・ホリゾン。
「先ほどのガージナルとセンマ・ヨミヤとの戦いで、ガージナルが暴走。『ランスリーニ』に重大な人的被害を出したみたい。―――具体的な被害者数は死者だけで約一二五〇名程」
アザーの報告に、アルドワーズは目を細める。
「死者一二五〇人………『フォーラム』始まって以来の被害………」
アルドワーズは、ため息をつき―――そして、自分の言葉を聞いていたアザーに先を促した。
「ガージナルの暴走に巻き込まれ、『フォーラム』の人員も犠牲になり、隠ぺいに失敗。―――正確に言えば、隠ぺいが間に合わず、帝国にこの事件が報告された」
「いいことばかりではない………が」
計画の進行に伴い、妨げの存在が明るみに出て、アルドワーズは少しだけ目を伏せるが―――すぐに視線を前に向けた。
「計画は最終段階だ。―――ここさえ凌げば、目的地はすぐそこだ」
組織の軸である四人の幹部に目をやり、アルドワーズは指示を出した。
「セラドン。計画実行に備え、入念に『メインプラン』を調整しろ。―――それと、例の『兵器』を調整しておけ」
「はい」
「アザー。配下の魔族を武装させ、敵に備えさせろ―――同時に、街に入ってきた人間に『センマ・ヨミヤ』が居ないか調べるんだ」
「了解」
「シルバー、お前は帝都の工作員と連絡を取り、『センマ・ヨミヤ』と他の勇者の外見的特徴を調べろ」
「………あいよ」
『他の勇者』も調査対象に入っていることに疑問を覚えたシルバーだったが、それでもすぐにアルドワーズの言葉に頷いた。
※ ※ ※
水面下で動き続けてきた者達。
争えば、必ず潰されると息を潜めていた者たちは、圧倒的な力を手に入れるため、表舞台へ躍り出る。
ショーはすでに開かれた。幕は切っておろされ、役者たちは己の役を必死に全うする。
―――その先に何が待ち受けているか、今は誰も知りはしない。
閲覧いただきありがとうございます。
眠気MAXのウトウトでございます。