表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
96/268

事件を追うもの ゴ

「あとは騎士団に任せてもらって大丈夫です。サバネ殿はタイガ殿達を合流を」


 帝都から大勢の騎士を転移させた茶羽は、連れてきた騎士の部隊長にそう言われ、タイガ達と合流した。




「大丈夫か茶羽?」


「う、うん………ちょっと大勢運んで………魔力を使いすぎただけ………」


 エイグリッヒ印の霊薬(エイグリッヒの残したレシピを元に茶羽が作ったもの)を飲みながら、茶羽はぐったりと加藤におんぶされていた。


 現在、タイガ達は湖のほとりを探索していた。


 というのも、宿屋の騒ぎから、虐殺事件までの出来事が繋がっていると仮定した一行は、宿屋を調べた。


 しかし目ぼしい手がかりがないことを悟った一行は、湖を直接調べることにしたのだ。


「ストップ」


 歩を進める一行は、タイガの言葉に立ち止まる。


「加藤。茶羽を下すんだ。―――アサヒは茶羽を頼む」


「了解」「わかった」


 タイガの視線の先に見えるものに気づいたアサヒと加藤は、彼の言葉に素直に従う。


 臨戦態勢に移るタイガの視界の先には―――


「あれは………『ウーズ』?」


 流動体のような、『動く液体』のような()()()居た。


「『ウーズ』………? 茶羽、知ってんのか?」


「うん―――魔獣の一種で、魔力を多分に含んだ汚水から生まれる魔獣。私達の認識で分かりやすく表現するなら………『スライム』だね」


 アサヒに肩を支えられている茶羽は、帝宮の図書館で見た情報を戦闘に生かしてもらうため言葉を紡ぐ。


「私が見た情報とは少し色合いが違うけど………理由はわかる」


 今もゆっくりと動いている『ウーズ』の色は赤。―――茶羽は近くの赤く染まった湖に目をやりながら言葉を続ける。


「『ウーズ』は餌を体液で溶かすか、丸呑みして捕食するから気を付けて。それと、『ウーズ』は液体の中心にコアがあるはず。それを壊すか取り出すかすれば倒せるハズ!」


「わかった。―――休んでろ」


 鉄の手甲(グローブ)を打ち鳴らし、構えを取るタイガ。


 加藤も鉄の脚甲(グリーヴ)を装着した足を踏みしめ、いつでも走り出せるよう構える。


「「「「!?」」」」


 ―――その時だった。


『ウーズ』は突如としてその形を変え―――やがて、人間の形をとった。


 体皮は変わらず赤。しかし、その内側は半透明で、中で血のような赤い液体が流れているのが見て取れる。


 そして、なにより目を引くのが、顔の位置にある、()()()()()()()()だ。


「………スライムって変身したっけ?」


「さぁな。ゲームだと雑魚だが………」


 『ウーズ』のまとう雰囲気が一変したのを感じ取り、下手に動くことのできないタイガと加藤。


「二人とも気を付けて! その『ウーズ』、何かおかしい!!」


 茶羽の叫びの直後、『ウーズ』はその腕の形を変形させ―――


「―――ッ!!」


 目にも止まらない速さでタイガに肉薄した『ウーズ』は、巨大な刃と化した腕で彼の首を狙う。


「………くっ!?」


 上半身だけを全力で後ろに倒し、紙一重で刃を回避するタイガ。―――彼はそのまま地面に手をつき、バク転で『ウーズ』から距離を取る。


「タイガ君!」


「平気だ加藤!」


 すぐに『ウーズ』を視界に捉えながら、タイガは叫ぶ。


「俺が正面からやる! 加藤、サイドからぶっ叩けッ!!」


「―――わかった!!」


 先ほどの『ウーズ』の動きに、加藤は迷いを見せるが、すぐに大きく声を返した。


「いくぞ!」


 タイガと加藤は同時に動き出す。


 タイガは真正面から『ウーズ』に向かう。


 『ウーズ』もタイガを向かい打つため、腕の刃を勢いよく横なぎする。


「動きがデカすぎだ!」


 タイガはその一撃を手甲で受け止め―――手甲と刃を擦過させながら『ウーズ』の懐に飛び込んだ。


「オラァッ!!」


 刃を受け止めた左腕とは反対の腕で『ウーズ』の腹へ一撃。


 赤い体皮は、結晶化しており、想定以上に硬度があったが………タイガには関係ない。


「まだまだァ!!」


 そこから左右の拳でのコンビネーションの連撃。


 しかし、『ウーズ』はそれでも動く。―――ゆっくりと刃を持ち上げ、


「させるかッ!!」


 刹那、加藤の蹴りが刃へ炸裂し、巨大な刃を粉々に砕いた。


「これでも―――っ!」


 加藤はそこから地面を蹴り、跳躍。


「喰らえッ!!」


 空中で身を捻った加藤は、上から全体重を乗せたつま先を『ウーズ』の顔面に落とした。


 あまりの威力に、『ウーズ』の顔面は爆発したように粉々になり、仮面が弾かれるように大地に転がった。



 ※ ※ ※



「まさか今の『ウーズ』が犯人?」


 タイガと加藤にケガがないかを調べながら、アサヒはたった今退治した『ウーズ』のことを全員に問いかけた。


「いや、あの程度の速さで千人以上の人間を殺すことは出来ねぇだろ………アレは犯人じゃない」


 言葉を返すのはタイガ。彼は右腕の手甲だけ外し、腰に吊るしながら自分の疑問も口にした。


「けど、今のヤツが変身したのは気になった。―――何か事件と関係あるんじゃないのか?」


「だね。俺もそう思った。―――『ウーズ』って普通は変身しないんだよね?」


 加藤はタイガに同意しながら、地面に足を広げて座り込む。


「うん、少なくとも、私が見た本にはそんなことは書いてなかった」


 茶羽は、加藤の言葉に頷きながら、魔力の回復した身体で、『ウーズ』が最初に居た地面を観察し始めた。


「じゃあ、疑問が増えただけで何も問題は解決してないワケね」


 戦闘した二人にケガがないことを確認すると、アサヒは立ち上がり、気だるげに背を伸ばした。


 そこでふと―――


「セーカ、何してんの?」


 アサヒは何かを調べていることに気が付き、彼女をのぞき込む。


「いや………さっきの『ウーズ』、この仮面をコアにしていたから、なんでだろって思って」


 普通の『ウーズ』は魔力が深く浸透した自然物をコアにすることが多い。そして、そのコアを取り除かない限りは無限に再生してくる。


 しかし、今の『ウーズ』は仮面が剥がれると、再生することなく沈黙した。


 故に、仮面がコアとなって『ウーズ』を形成していたことが考えられる。


「………………」


 考え込む茶羽。


 タイガも、加藤も、何か茶羽の考えが聞けるのかと、自然に彼女を囲むように輪が形成されていた。


「………えっ!?」


 そして、不意に我に返った茶羽は、自分が囲まれていることに気が付き、一人で慌てていた。


 三人はそんな茶羽の反応に笑うと、少し距離を取り彼女を解放してあげる。


「それで? 何かわかったセーカ?」


 アサヒが微笑みながら茶羽に問いかけると、彼女は少し目を伏せながら小さく頷いた。


「分かったっていうか………ただの憶測になるんだけど」


 そう前置きして、茶羽は声を出す。


「みんなは『魔剣』って知ってる?」


「「「魔剣?」」」


 突然の単語に首をかしげる三人。


 茶羽はまずは単語の説明から始める。


「魔剣はね、能力(ギフト)が武具に染み付いたものを差す言葉」


 端的に述べる茶羽は、続いて解説を挟む。


能力(ギフト)の仕組みはあまり解明されてはいないのだけど、最も有力な説は、人間の中にある『魔力の塊』じゃないかと言われてるの」


 茶羽は、タイガの手甲へ視線を送る。


「魔力の塊である能力(ギフト)に長期間晒されて、武具にその魔力が染み付く。そうしてできるのが魔剣なの。―――だから、魔剣は長期間使った人間の能力(ギフト)が使える武具」


 そこまで話して、茶羽は話を元に戻す。


「でね、この仮面には、ソレに似た感じで強い魔力を感じるの。―――それが『人間の血』である湖の水と結合して生まれたのが今の『ウーズ』。………多分、ここまでの予想は合ってると思うの」


 少し息を吐く茶羽は、やがて言葉を紡ぐ。


「―――ここから先は、本当に確証のない話」


 そう前提を置いて、彼女はゆっくりと語り出す。


能力(ギフト)はね、本人の記憶や体験なんかから形成される能力。それが染み付いた道具をコアとして『ウーズ』が形成されたなら―――その人と似た形態を『ウーズ』がとっても不思議じゃないと………私は思う」


「………なるほど、流体のような魔獣だからこそできる『擬態』みたいなもの」


 茶羽のいうことに素直に納得するアサヒ。タイガも、彼女の話に頷きながら何かを考えている。


 ちなみに加藤はあまり話を理解できていないような顔をしていた。


「………けどよ、そうだとしたら仮面の持ち主はどこ行ったんだ?」


 茶羽の推測に納得していたタイガは、そんな疑問を呈する。


「そうだね。―――だから、今の話を事実と仮定すると」


 茶羽はその辺の棒で地面へ文字を書く。


「騎士団の話からするに、『仮面の人物』は『魔法を使う』誰かと戦っていた」


 『仮面の人物』の犯行後の動向は大きく分けて二つ。


 一つは逃亡。


 一つは死亡。


「戦いの結果がどうあれ、結局はどちらかになると思う。―――仮に死亡していた場合はこの近辺のどこかに遺体があると思う。厄介なのは『逃亡』していた場合」


「だよな。―――俺らは警察じゃないし、仮面(コレ)だけじゃ追っかけられなくねぇか?」


 唯一の手掛かりが役に立たないと嘆くタイガだが、茶羽はそこでニヤリと笑った。


「大丈夫。―――この仮面、『追跡(サーチ)』の魔法が掛かってる」


「追跡の魔法? でもそれって術者本人が追えるだけであって、それだけじゃ意味なくない?」


 少しだけ魔法の勉強もしていたアサヒは、魔法の概要を思い出しながら茶羽にそんなことを言うが………


「そうだね。でも、多分………()()()できる」


「………へっ?」


 仮面を持ったまま、腰に差した魔導書を抜き、ページを開く。


 そこには紙の隅から隅までびっしりと書かれた『ルーン文字』があった。


「まずは付与されたものを浮き彫りにして、探知した形跡を探して………形跡を辿って相手の位置を割り出すために―――」


 ブツブツと何かを呟きながら、茶羽はルーン文字の中から抽出するものを選定し―――


「『形跡辿移(リバース・サーチ)』」


 魔法名を唱えた瞬間、仮面から、白く細い煙のようなものが立ち上がり、不自然な方向に折れ曲がった。


「出た! 距離が遠すぎて正確な位置は出せなかったけど………この煙の先に追跡の魔法をかけたやつがいる!」


「………なんでもアリね」


 なまじ魔法の知識があるだけに、茶羽の才能に脱帽するアサヒ。


 逆に魔法に詳しくないタイガは、不敵に笑みを浮かべた。


「なるほど、この先に居る奴が持ち主じゃなかったとしても、関係者の可能性は高いな」


「そうゆうことだね」


「じゃあ、旅の支度をして―――その煙の先に行きましょう」


 こうして、いつの間にか寝ていた加藤を起こして一行は一度『ランスリーニ』に戻った。

閲覧いただきありがとうございます。

三連休が終わったことに絶望しながら仕事してきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ