事件を追うもの サン
『ランスリーニ』南門。
「静かだな………」
『ランスリーニ』の有名スポット、『ランスリーニ湖』とは反対側の街の入り口に『転移』してきたタイガ達は、最初に街の異様な静かさに違和感を覚えた。
「『ランスリーニ』はすぐ隣の『ランスリーニ湖』が有名な街で、魔法都市『メフェリト』へのアクセスが良く、帝国の中でも大きい方の街に入るはず、です………が………」
街に訪れる馬車も、今は極端に少ない。
こうして会話しているタイガ達の声が、嫌に響いているような気がするほどだ。
「………とにかく中に入ろう。言われた通り騎士団支部で話を聞いた方が早そう」
抑揚の少ない声でそう提案するアサヒは、タイガ達の言葉も待たずに街へ歩を進める。
「………だな」
タイガもアサヒの意見に同意し、彼女の後に続く。
「「………」」
茶羽と加藤も、互いに頷き、『ランスリーニ』の街へ足を踏み入れた。
「………酷いわね」
南門から湖へ真っすぐ続く道と、東西の門を繋ぐ道が交差するメインストリート。石畳の街の中心で、アサヒはすっかり動きの乏しくなった顔をしかめた。
「………っ」
「これは………」
「事件ってより………テロだな………」
美しい湖によく映えるであろう白い建物の数々は、何か大きな物で崩されたかのような破壊痕があり、大小さまざまな瓦礫がそこらに転がっている。
が、本当に酷いのは破壊された建物などではない。
「………ダメ。もう―――」
街の至る所に、人間の死体が転がっているのだ。
アサヒは、近くに横たわる人の首元に手を当てるが、脈はなく、その人がすでに意思なき肉塊であることを鮮明に伝えてくる。
「………」
眉をひそめ、アサヒはそれでも遺体をよく観察する。
―――遺体がミイラみたいになっている………?
街中に転がる死体は致命傷に至るような傷がどれも見受けられる。―――そして、どの死体も一様に『血』を抜き取られ異様な姿になっていた。
「………うっ」
「大丈夫かセイカ?」
そこで、こういった光景に慣れていない茶羽が口元を押さえ蹲り出した。
「セーカ………」
そんな茶羽の反応をみて、アサヒは自分がこの光景を冷静に俯瞰できている自分に気が付く。
「ちょっと待って………今、気分の落ち着く魔法かけるから」
「ああ………頼む真道………」
加藤にお願いされ、茶羽に精神安定の魔法をかける中、アサヒは思いを巡らせる。
―――もうきっと、私は『普通』の人間じゃないなぁ。
『帝都決戦』で負傷した騎士や魔法使いを多く治療した。
しかし、その中には救えなかった命も当然ある。
これまでアサヒは自分のことで精一杯だった為、気づくのが遅くなった。―――自分が『死』に慣れてしまったことに。
「―――大丈夫。直に落ち着くと思う」
「………ありがとうアサちゃん」
「気にしないで」
茶羽に手を貸し、共に立ち上がる。
すぐに加藤が手を貸してくれた為、アサヒは彼に茶羽を任せる。
「タイガ、三人で先に騎士団支部に行ってもらえる?」
「それは構わねぇけど………お前はどうすんだ?」
「私は………生存者がいないか探してくる」
閲覧いただきありがとうございます。
今回は文字数少なめです。最初はこれぐらいの文字数でやってたのになぁ笑




