シューリ・スライ
診断記録 シューリ・スライ
帝暦五九八年に起きた『魔法都市襲撃戦争』にて重傷。
脳への深刻なダメージによって、植物状態へ。
回復は―――不可能と診断。
帝暦六一八年、父親であるイアソン・スライに連れられ外出。
その後、行方不明となる。
※ ※ ※
「シュケリちゃんね、私の知り合いにそっくりって言ったでしょ?」
ヨミヤとハーディが魔法都市『メフェリト』へ向かう道中。
本来なら一日と少しかかる距離を、浮遊魔法の掛かったハーディの杖に跨り、一日もかからず到着する算段を付けたヨミヤ達だった。
しかし、出発したのが深夜だったことと、ヨミヤの直前の戦いもあり、二人は一度休憩がてら野営をして身体をできる限り休めていた。
そんな中、ヨミヤと同じ焚火を見つめるハーディは、不意にそんなことを言い出した。
「ランスリーニで別れるとき、そんなこと言ってましたね。………それがどうかしたんですか?」
パチパチと弾ける篝火を見つめながら、ハーディはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「その似てる子っていうのは―――例の手紙を送ってきた人の………娘なの」
「!? あの、『フォーラム』に関係があるかもしれない人の………!」
焚火の勢いが強まり、炎が一層大きく弾ける。
「ええ………書きかけだったけど、手紙にもその子を心配するようなところもあったし………」
「じゃ、じゃあ………シュケリさんがその人の………?」
シュケリが、ハーディに血の付いた手紙を送りつけた人の娘である可能性に言及しようとしたところで、ハーディは首を振る。
「分からないわ。髪の色も違うし―――何より、記憶の中にいるその子と、シュケリちゃんのイメージが違いすぎて………」
「そうですか………」
ハーディの言葉を聞いて、手がかりを得られなかったことに少し落胆するヨミヤだったが、そこでふと、思い直す。
「そうですね………ハーディさんと、その娘さんは一度会ってるんですもんね。―――本当にシュケリさんと同一人物なら、ハーディさんに気付かないわけがない」
「そう………ね………」
「………?」
歯切れの悪いハーディに、ヨミヤは少し首をかしげる。
「………どうしました?」
ハーディの様子に、当然の疑問を投げつけるヨミヤ。
だが、ハーディはすぐに首を振り、再び顔をヨミヤに向けた。
「何でもない。―――でも、その子にそっくりなシュケリちゃんが、『フォーラム』に追い掛け回されてるのは………何か裏があるはずよ」
「………そうですね」
ハーディの言葉に、ヨミヤも素直に頷く。
『フォーラム』を調べてほしいと血まみれの手紙を送りつけてきたハーディの知り合い。そんな知り合いの娘にそっくりな彼女―――シュケリが、例の『フォーラム』に追われている。
この事実達は、何かしらの因果関係があるはず。
そして、この真実を追い求めれば、必ずあの男―――『シルバー』と呼ばれたあの男が立ち塞がるはずだ。
「………」
燃え上がる火を見つめ、―――それからゆっくりと目を閉じる。
―――もう、負けられない。
胸の内に湧き上がるものを密かに押し込め、ヨミヤはハーディへ声をかけた。
「すいません、そろそろ休みます」
「分かったわ。見張りはしておくから―――しっかり休んで頂戴」
固い地面に寝転がり、大地の冷たさを噛みしめ、少年は眠りについた。
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今回から始まりました『無窮の記憶』編の後半。
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