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Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
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小話ニ:エルフと二人の弟子

 エルフは昔から虐げられてきた。


 人間側の種族として、共に人間と魔王の支配に抗ったこともある。


 しかし、魔王の支配が弱まると、人はエルフを『人よりはるかに寿命の長い化物』と認識し、迫害し始めた。


 エルフからしてみれば、共通の敵が居なくなった途端に裏切られたようなものだ。―――同族の中には、裏切られたことに怒り、魔族と手を組む者もいる始末だ。


 私も、他のエルフと同じように人間に怒り、人間を恨んだ時期もあった。


 しかし―――


「………」


「「………」」


 ある日、エルフ以外立ち入りを禁じられている里に、二人の子どもが迷い込んできた。


 魔法研究に使用する材料の調達中、森の入り口で偶然見つけてしまった。―――というか、『バッタリと顔を合わせてしまった』という表現が正しいのだろう。


 お互い、どうすればいいかわからない沈黙の中、私は見た。


 幼い男児二人、着ている服はボロボロ、至る所に生傷を作り、随分とやせ細っていた。森の中だというのに、男児たちは靴すら履いていない。


 ちなみに、森の外の近くに人間の村や町はない。


 すぐに、目の前の子どもたちが何か事情を抱えていることを理解した。


「………とりあえず、傷の手当てをしてやる。コッチに来い」


 いくら人間とはいえ、幼く、傷ついた子を無下にする気は起きなかった。


「………」


 すると、警戒心を持ったまま、一人の少年が私の元に近づいてくる。


 警戒したままの態度といい、もう一人の少年が慌てている様子といい、エルフへの偏見はしっかり持っているように見え受けられる。


 それなのに近づいてくる少年の胆力に、少しだけ感心していると、少年が私の目の前までやってきた。


「ホラ、手を出せ」


「―――れが」


「ん?」


 私の元まで来て、うつむく少年が何かを呟いているのをきいて、思わずのぞき込むのだが―――


「誰がエルフの世話になるかぁー!!」


「うがぁ!!?」


 そんな私の額に、容赦なく少年の頭頂部が激突してきた。


 思わずのけぞる私に、少年は言葉をぶつける。


「魔族に襲われてたまたま迷っただけだ!! すぐに出て行ってやる!!」


「え、エーイ………や、やばくない………?」


「知るか! エルフなんて―――」


 少年はすぐに私の前から立ち去ろうとする。


「オイ」


 しかし、私は親切にしたエルフに頭突きをするクソガキを見逃すほど甘いエルフではない。


「………っ!!」


 殺気を感じた少年は、すぐに逃げ出そうとするが―――


「こンの―――クソガキがぁ!!」


 少年の手を掴み、乱暴に引き寄せて………少年の頭に頭突きを返した。



 ※ ※ ※



「私はハーディ。ハーディ・ペルション。―――お前らは?」


 結局、こっそりと里に少年たちを招きいれた私は、自分の部屋で二人と自己紹介をしあっていた。


「ぼ、僕はイアソン・スライっていいます………」


「………」


 おずおずと自己紹介したイアソンの頭を、私はわしゃわしゃと撫でまわした。


「おーおー、イアソンは正直者で、いい子だなぁ! ()()()違ってなぁ!!」


「うぁ………ちょっと………やめてくださいぃ………」


「フン………誰がお前なんかに名乗るか!!」


「ほう、しつけがなってないなぁ、クソガキぃ」


「いででででででっ!?」


 あまりにも、あんまりな態度に、ついつい、少年の両方の頬を引っ張りまわしてしまう。


「え、えいぐりっひ!!」


「ほう」


 頬っぺたを引っ張られながらも、名乗る気配があることを察した私は、すぐに少年の頬を放してやる。


 すると、少年は頬をさすりながら大変不服そうに名乗り始めた。


「………エイグリッヒ・ベイルリッテ」


「へぇ」


「………なんだよ」


「いや、賢そうで………いい名前だと思っただけだよ」


「………そーかよ!」


 それから私は、二人にスープを振舞いながら、森に迷い込んだ経緯を聞いた。


 なんでも、村が魔族の襲撃に会い、友達同士の二人は、お互いに協力しながら逃げていたそうだ。


 森の付近で、追っ手の魔族に襲われ、『魔族も手を出さない』ことで有名なエルフの住むこの森に入ったそうだ。


「………まぁ、気が済むまでここに居ればいいさ」


 二人の境遇を聞いた私は、なんの気まぐれか、そんなことを言ってしまった。


 二人の少年も、その言葉にホッとしたのだろう。―――少年たちの安堵したあの表情は生涯、忘れることはない。


「………ま、まぁ、アンタの提案に乗ってやらないことも………ないな………」


 エイグリッヒはすぐに、そんな虚勢を張っていたが。


 そんな経緯もあり、エルフと人間の奇妙な共同生活が始まった。


 里のエルフには、二人のことを秘密にしているため、昼間は外出を控えてもらった。


 遊び盛りの子どもに申し訳ないとも思ったが―――以外にも、二人は大人しくしていた。


 その理由は簡単。


 少年たちは私の部屋に置いてあった魔導書を、夢中になって読んでいたからだ。


「ハーディ、ここのルーン文字ってどう解釈するんだ?」


「ハーディさん、この図形って………」


 そんな風に無邪気に魔法を追い求める子ども達に、いつのまにか私も魔法を教えていた。


 そんな日々が一年半続いたある日。



「ハーディ・ペルション。お前を里から追放する」



 人間の隠匿がバレた私は、里長からそんなことを言われた。


 二人の存在がバレた理由は、私が眠りについた夜中、二人が魔法の材料の収集に向かい、それを他のエルフに目撃された為だった。


 最初は、二人を森の外へ返せば、里への在住を許された。


 しかし、二人は最早、森の外に帰る場所など存在しない。―――森の外へ帰したとして、子ども二人で生きていくことを余儀なくされるだけだ。


 だから、私は決断した。


「今まで、お世話になりました」


 里長にそれだけ告げて、私は二人を引きつれ森を出た。


「ごめんハーディ………俺が勝手なことしたせいで………」


「僕も、エーイを止めるどころか、一緒になって外に出ちゃった………」


 私の後をついて歩く少年たちは、今にも死んでしまいそうな表情をしていた。―――その理由が、私への申し訳なさだというのは簡単に想像がつく。


「いいのよ。アナタ達が申し訳なく思ってるなら、ここまで世話した甲斐があるわ。―――出会った頃は礼儀の『れ』の字すらなかったんだからね」


 出会った頃のエイグリッヒの態度を引き合いに出して、心の底から笑う。


 そして、私のもう一つの気持ちも、素直に二人に伝える。


「正直、里での魔法研究には―――限界を感じてたの。あそこにいても、新しいインシュピレーションは浮かんでこない。あそこにいても、得られる知識はない」


 毎日同じ風景、毎日同じエルフと関わっていても、新しい発見はない。魔法に重要な『イメージ』を呼び起こすには、色々なものを見て、聞いて、感じる必要がある。


 それに、里にある魔導書はほとんど読みつくしてしまった。―――術式の解釈を広げるには、まったく違う価値観を持つ人間が構築した術式を理解するしかない。


 私は振り返って、もはや『弟子』となった二人の少年の頭を撫でる。


「これからは、今まで以上に魔法の研究………手伝ってね?」


「ああ!」「もちろんです!!」



 ※ ※ ※



 それから何年、旅を続けただろう。


 魔族に襲われた街をみたり、奈落のような谷に掛かる大橋をみたり、人間が見たこともないくらい大勢住む街をみたり―――


 色々な経験をした。


 私がエルフという理由で、酷い迫害も受けた。時には、奴隷商に捕まって売り飛ばされそうにもなった。


 人間やエルフの何十倍も大きい魔獣にも追い掛け回された。


 時には、とんでもなく強い魔獣を討伐して、町を挙げて英雄扱いも受けた。


 それらの経験は、確実に私の中に積み重なり、私の大切な一部になっていた。


 気が付けば小さかった弟子が、今や二十台後半。立派に育っていた。


「俺、帝国の魔導士として働いて―――少しでも魔族の侵攻によって犠牲になる人たちを………助けたい」


 エイグリッヒはそんな立派な目標を私とイアソンに話してくれた。


「………なら、そろそろ旅をやめて、腰を落ち着けましょうか」


「そうですね」


「ごめん………いや、ありがとう師匠………イアソン」


 帝宮魔導士の試験を受けるために、私たちは帝都に家を購入した。


 エイグリッヒはこれまでの魔法修業が功を奏したのだろう。帝宮魔導士の試験に一発で合格していた。


 なんでも、最初の試験で帝宮魔導士になるのはエイグリッヒが史上初らしい。―――普通なら、そこである程度の成績しか取れず、一般の魔導士として雇われるらしい(もちろん、成績が悪ければ雇われもしない)。


 帝宮魔導士としてエイグリッヒが働く中、私とイアソンは、帝都の街中で『魔道具店』をして、生計を立てていた。


 帝宮魔導士として働くエイグリッヒは毎日、私達のいる家までわざわざ帰ってきていて、お金も十分にあったが、私も、イアソンも、エイグリッヒにただ世話になるのを嫌がったのだ。


「すごいだろうエイグリッヒ」


「………まさか魔法で空間まで弄り始めるなんて」


 何なら、家の地下まで魔法で改造し、エイグリッヒが魔法の修練に勤しめる空間まで作ってやって、エイグリッヒを変わらず世話してやったぐらいだ。


 そんな暮らしが何年か続くと、やがて、イアソンにも嫁が出来た。


 魔道具店に買いものに来た女とくっつきやがった。


 可愛い愛弟子が、変な女にひっかかるのも嫌なので、厳しめに接してやったが、エルフ差別もない自分の意志のハッキリした良い女だった。


 ………腹立たしい。


 嫁は独り身で、家族も居ないらしく、結婚すると甲斐甲斐しく魔道具店の手伝いまでしてくれた。


 一年も経つ頃には、女の子も生まれた。


 赤ん坊が生まれた日には、私もエイグリッヒも大いに喜んだ。嬉しさのあまり、お酒を浴びるほど飲んで、イアソンに『嫁の身体に障るから』と怒られたのをよく覚えている。


 赤ん坊の名は『シューリ』。


 元気いっぱいの女の子で、両親の名前より早く私の名前を呼んだので、大変可愛がった(もちろん、イアソンも、イアソンの奥さんも残念がってたけどね)。


 そんな『シューリ』が、たどたどしく言葉を発し始めるころだった。


「この魔道具は素晴らしい………!」


 魔法都市『メフェリト』から来たという男性が、私とイアソンの作った魔道具を見て、私たちにとある提案をしてきた。


「ぜひ『メフェリト』で魔道具の開発を致しませんか?」


 男は『メフェリト』の貴族で、私やイアソンに『メフェリト』で魔道具の研究をしてほしいらしい。


「魔法は確かに魔族との戦いに有用。しかし、魔道具の発展は『戦い』ではなく、『日常』に有用。人類がさらなる発展を遂げるためには、『日常』に有用な魔道具こそが大切だと思うのですよ」


 自分の思いの丈を述べた貴族は、返事が決まったら帝宮まで来てほしいと告げて、その日は帰った。


「結論から言えば、その貴族に怪しいところはない」


 すぐさま裏がないか怪しんだ私は、帝宮に勤めるエイグリッヒにその貴族を調べてもらった。


 エイグリッヒによれば、昨今の貴族の腐敗が問題視されており、統治する貴族が腐敗している地域は治安が悪いらしい。


 そんな現状の中で、その『メフェリト』の貴族は不正や横領もなく、魔法都市と呼ばれるまで発展した『メフェリト』は帝国内でも治安のいい街として有名らしい。


「なるほど、勧誘自体は怪しいところはない訳か………」


 私はそう結論づける。


「イアソン。―――どうしたい?」


 エイグリッヒから話を聞いたその夜。


 イアソンの書斎にて、私とイアソンは一対一で話をしていた。


「私は正直、魔法の研究はできるならどこでもいい」


 私は以前より、『イアソンの決定に従う』と伝えていた。


「………僕は」


 一方のイアソンは、うつむいて言葉を濁していた。


 この頃のイアソンは、悩みがあった。


 それは、幼馴染のエイグリッヒが、宮廷魔導士として働き始め、頭角を現している中………『自分はどうしたいのか』がわからないというものだった。


 同じく魔法の研究をして過ごしたにも関わらず、イアソンには魔法に関する能力(ギフト)が全く発現していなかった。


 私は、イアソン本来の臆病で優しい性格が原因だと冷静に考えていた。


 しかし、当の本人は『才能』の差だと捉えていた。


 自分には才能がない。ゆえに、先に行くエイグリッヒを見て焦りが募っていたのだ。


 きっと、イアソンにとって、この誘いはまたとないチャンスだろう。しかし―――


「妻も………子どももいる。―――二人に負担をかけるわけには………」


 もう、自分一人で勝手にしていい身ではない。


 そんな想いが、イアソンを帝都に縛り付けていた。


「………はぁ」


 だから私はため息をつきながらイアソンに言葉を伝えた。



「なら、二人に直接聞いてみりゃいいのに」



 そういって、私はイアソンの書斎の扉を、魔法で開けて見せた。


「「うわわっ」」


 扉の向こうから、似たような仕草でつんのめる母娘が現れる。


「ヒューナ、シューリ………」


「ご、ごめんなさい。夕食が出来たので、お声掛けしようと―――」


「パパ、ごはん!」


 申し訳なさそうにする妻・ヒューナに、無邪気な娘・シューリ。


 そんな二人に、私はストレートに問いかけた。


「ヒューナ、シューリ。イアソンはやりたいことがあって、魔法都市『メフェリト』に引っ越したいそうだ。―――二人はどう思う?」


「ちょっ―――師匠!」


 キョトンとした顔で、ヒューナとシューリは顔を合わせて―――


「迷惑じゃなければ―――どこまでもついて行きます」


 フフッと上品に笑うヒューナ。


「パパがいくならシューリもいく!」


 シューリは無邪気に笑顔を見せた。


「………無理はしなくていいんだ。―――今みたいに聞かれたら、気を使って『行く』としか言えないですよ師匠」


「無理をしてるかどうかねぇ………なら、ヒューナにちゃんと聞くんだ。『無理はしてるか?』って」


「ダメですよ。そんなこと言葉にした時点で、相手は気を遣う。………ヒューナに負担をかけるだけだ」


「………ダメだこりゃ」


 諦めたように首を振るイアソンに、私は肩をすくめて呆れかえる。


「………ヒューナ。あとは頼むよ」


「………?」


 なんのことか理解していないヒューナであった。


「………あぁ」


 すぐに今までの話の流れを理解した彼女は、椅子に腰かけるイアソンの前にしゃがんで、彼の顔を見つめた。


「イアソン。ハーディ様がおっしゃっているのは『気を遣う』『気を使わない』の話ではないのよ?」


「………」


 ヒューナはそっと彼の両手を自分の手で包み、持ち上げる。


「イアソンは、私に今の話をしてくれたことはあった?」


「………ない。どっちにしろ、君に負担をかけることは目に見えていたからね」


「そうね。………そこまで大切にしてもらえて私は嬉しいわ」


 包み込み、持ち上げた手に、ヒューナは少しだけ力を入れる。


「でもね、『二人で生きていく』と決めたなら。私の気持ちを無視しないで?」


「………」


「お互い、納得のいくまで話合いましょう?」


「………」


「意見の食い違いがあってもいい。―――私にも、イアソンにも、譲れないことはあるかもしれない。それでも、そんな『違い』も受け入れて………一緒に歩いて行きましょう?」


「………うん」


 ゆっくりと顔を上げて、今度はイアソンがヒューナの手を握る。


「………僕は、君とシューリに負担をかけたくないと思っている。―――だから今回の話は断るべきだと思っている。………君はどうだい?」


「私は、孤独だった私に幸せをくれた貴方に………イアソン・スライに恩を返したい。貴方のやりたいことを手伝いたい。―――そのためのことだったら………何も負担じゃない」


 変わらず笑みを作るヒューナは、そっとイアソンへ問いかける。


「貴方は………何がやりたいの?」


 ヒューナとシューリに掛かる負担を考えず、イアソンのしたい事を問いかけるヒューナ。


「僕は………………やりたい」


 ゆっくりと、心の奥にある気持ちを、イアソンはゆっくり吐き出しているようだった。


 私も、ヒューナも、イアソンの言葉を黙って聞く。


「僕も、エイグリッヒのように、『誰か』のために働きたい。故郷で殺された家族に顔向けできるような仕事がしたい」


「………貴方ならできるわ。『メフェリト』へ行けば、貴方の望むことができるのでしょう?」


「………ああ」


「なら、悩む必要なんていらないわ。―――どこまでも貴方について行きます」


「………」


 ヒューナのその言葉を皮切りに、イアソンは嗚咽を漏らす。


「パパないてるの? じゃあシューリもおててぎゅっとしてあげる!!」


「いい子ねシューリ」


 変わらず笑みを讃えるヒューナは、娘の手も巻き込み三人で手をつなぐ。


「私も混ぜろっ!」


 私も、微笑ましい光景に気分を押さえられなくなり、三人にまとめて抱き着いた。


「あらあらあら」


「ハーディ、くるしいよぉ」


 こうして、私と、イアソン一家の『メフェリト』への移住が決定した。



「師匠、コレを」


 乗合商業馬車(キャラバン)の待合所にて、見送りに来てくれたエイグリッヒがあるものを私に手渡した。


「エイグリッヒ? 私達これから馬車に乗るんですけど? そもそも別れ際に鳩って………」


 そう、エイグリッヒは金の鳥かごに入った鳩を手渡してきたのだ。


「鳩じゃなくて、一応魔獣ですよ師匠」


「もっとダメじゃん!」


「最後まで話を聞いてくださいよ………」


 なんでも、小型の飛行魔獣を調教したらしく、荷物を鳥の背中に掛かっているバッグに入れると、エイグリッヒの元に運んでくれるらしい。


「何かあれば、この子で手紙のやり取りをしましょう」


「あー………なるほどね」


「『めんどくさい』とか思ったでしょ?」


「………………そんなことありませんーだ!」


 エイグリッヒに盛大にため息をつかれた。


「イアソン、師匠を頼むよ」


「うん。手紙は僕が定期的に出すよ」


「よろしく頼む」


 そうやって、向かい合った二人は何を言わずとも、互いの手を握りあった。


「別れを惜しみはしない。―――イアソン。帝都までお前の名前が聞こえるのを待ってる」


「ああ。―――エイグリッヒ。お前の心配はしないよ」



 ※ ※ ※



 そうして、意識は暗闇へと落ちる。


 深い深い闇へと。


 やがて、意識は闇の表層を捉えて。


「………ん」


 気が付けば、馬車の中でアタシは目を覚ました。


「おや、ハーディ様。お目覚めですか?」


 アタシに声をかけるのは、桜色の髪の女の子―――シュケリちゃん。


「フフっ」


「………? どうされたのですか?」


「んー? なんだか懐かしくなっちゃって」


 なんだか懐かしい面影と彼女がかぶってしまい、アタシはシュケリちゃんの頭を撫でまわした。


「そうですか………私も、なんだか悪い気はしません」


 眠ってしまったヴェールちゃんに膝枕をしながら、シュケリちゃんは大人しくアタシに撫でられ続けた。


「ちょっ、ハーディさん。魔法教えてる最中に寝ないでくださいよ………」


 向かいに座るヨミヤ君が、一生懸命魔導書と向かい合ってる姿が、これまた昔を思い出せる光景で、()が思わず笑ってしまったのは秘密。

閲覧いただきありがとうございます。

とっても長くなってしまいました………

二話に分けることも考えましたが、分けるほどの内容でもないなぁって………

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