奈落 サン
「…………ッ！！」
骸骨が迫っていた。薄汚れた防具と錆びた剣で武装した骸骨だ。それが四体。―――前から二体、左右から一体ずつ。
即座に火球を前方に飛ばし、骨を爆発四散させる。続いて、火球を左右に展開。いつもより出力の高いレーザーで頭部に巨大な穴をあけて沈黙させる。
安堵したのも束の間、今度は前方から岩の塊が飛来し、横に跳ぶ。
左足の骨折のせいで受け身を取ることもできないまま、それでもオレは岩を投げた犯人―――紫色のガスのような敵に火球を送り返し、爆発でガスを四散させた。
『ガルアア！！！！』
そんなオレのスキを狙っていたかのように、今度は岩のトカゲが後方より、飛びかかるかのように襲来。
間抜けにも開けている大口に火球をぶち込んでもよかったが、そのままのしかかられでもしたら死ぬことは明白だったため、ありったけの魔力をこめた特大の火種を用意する。
「飛んでけッ！！！！」
それを他よりも柔らかい腹部に直撃させる。同時にオレは地面に顔をうずめ、精一杯爆炎から逃れる。
トカゲは、腹に特大の穴をあけて絶命。腹部を空に向けながら遥か遠くの地面に飛んでいった。
「ハッ………ハッ………ハッ………」
度重なる遭遇、一歩あるくごとに激痛を伝える身体、減っていく魔力、どこを歩いているかもわからない現状。
それらすべてが精神を削り、ヨミヤを苛んでいた。
最早どれだけ時間がたったのかもわからない。
空腹はとうに峠を越えて、何も感じなくなっていた。
「アサヒ………アサヒ………アサヒ………アサヒ………」
それでも、少年は少女の名を呼び、ただ歩く。
そんなとき、ソレは現れた。
「ぁ………………？」
気づけば、少年の前に一匹の生き物がいた。
否。
それは、『生き物』と呼ぶにはあまりに無機質過ぎた。
具体的に言えば、トカゲのような形の鉄の塊だった。
「なんだ、これ………」
眠気で朦朧としていたヨミヤは、その生き物―――鉄の塊のおかげで再び意識をハッキリさせた。
のだが―――
「！？」
次の瞬間、頭部と思わしき箇所から、鉄の槍が高速で飛び出した。
ヨミヤは、心臓を違わず狙ってきた槍を、身を捻って回避しようと試みるが、寸でのところで、穂先が右肩に的中する。
「ぐッ………………！！！！」
普通なら、もだえ苦しむ激痛。それを、『敵前』という理由だけで、なんとか抑えるヨミヤ。―――彼は奈落の底で経験したのだ。隙を見せたらその瞬間に『死ぬ』弱肉強食の世界を。
そんなヨミヤの肩に突き刺さった槍は、しかし、今度はトカゲの元に戻るようにして引っ張られ、少年の肉をかき回す音を奏でて主人の懐へ帰っていく。
そして、槍は何事もなかったかのようにトカゲに吸収された。
「クソ野郎………人の貴重な血をさらに枯渇させやがって………」
止まらない肩口の血を、押さえることも叶わないまま、ヨミヤは鉄のトカゲをにらみつける。
特殊強化魔獣 『鉄踊り』ロックリザード
閲覧いただきありがとうございます。
どうでもいいですが、子ども達が毎日夏休みを楽しそうに過ごしていて羨ましい限りです。
