表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
83/268

旅路:桜と変転

「グぇ………」


ガージナルに止めを刺し、湖上へ落ちる直前で、何とか義手で、上空に作り出した結界を掴むことができ、血水に触れることなくシュケリの居る湖畔へ戻ってきた。


 しかし、もうまともに着地をできる身体でもなく、ヨミヤは無様に顔面から地面に落っこちて、何度も大地を転がった。


「危なかった………」


 地面に大の字で寝ころびながら、直前の一幕を思い返すヨミヤ。


 極大の熱線に、呪文を詠唱して発動させた火球(レーザー)の最大威力を重ねることで威力を底上げしたヨミヤは、しかしそれでも、力の押し合いで勝てないと判断した。


 それに、少年は知っていた。―――魔法では、あの男は倒せないと。


 ゆえに、数えきれないほどやってきた自爆まがいの手法をとった。


 それが二重熱線と血水の渦槍の中を通ってガージナルに肉薄するというもの。


 しかし、今回は今までの自爆とは訳が違う。


 今までは、自分が死なない程度の自爆だったり、勇者を肉壁に使った自爆などではない。何の対策もせずに突っ込めば、間違いなく蒸発ないし、ひき肉にされてしまう程の渦中に身を投じる決断であった。


 なので、ヨミヤは、()()()()()()()()()()、熱線や血水の中に突っ込んだのだ。


―――まぁ、でもこんなことしてたら、いつか本当に死んじゃうな。


 ヨミヤの結界は完璧ではない。血水に飲み込まれたときもそうであったように、『密閉した結界』を作れないのだ。


 そのため、今回の無茶な行動の代償として、あちこちに火傷や裂傷が見られた。


「とにかく………ガージナル(あいつ)の仲間やら―――騎士団が来ても不味いし………離れないと………」


 ガージナルは言っていた。『目につく全員を殺してきた』と………


 立った一人の人間を殺すために、あの男はそこまでしたのだ。


 ―――自分のせいで見ず知らずの人間が巻き込まれた事実に、胸の痛みを隠せないヨミヤであった。


 しかし、現状が今、ここでゆっくりするのを許してはくれない。―――少年はそれを知っていた。


 剣を杖代わりに、立ち上がるヨミヤは痛みを無視して、シュケリとヴェールを結界で作ったベッドにのせてゆっくりと歩き出した。



「あちゃ~………遅かったかぁ………」



 そこへ、何の気配もなく、何の足音もさせず、何の存在感もなく、


 あたかも、最初からそこに居たかのように、一人の男がヨミヤの前に現れた。


「ガージナル………ずっと一緒にやってきたんだがなぁ………」


 男は、一九〇センチはある長身だった。天然パーマに、揃えられた短い顎鬚を蓄える中年の男性。


 黒のシャツとズボン、ブーツという、黒一色のシンプルな格好でありながら、背中には、身の丈以上もある長剣を背負っていた。


 口調から漂う柔和な雰囲気は、ヨミヤにはない落ち着いた大人のような印象を抱くが―――


「お前も、シュケリさんを狙ってきたのか」


 男の口から『ガージナル』という単語が聞こえ、ヨミヤは一気に警戒を高める。


「………『シュケリ』ってのは、俺達が『メインプラン』って呼んでる、その娘のことか?」


 一方、ヨミヤに問いかけられる長剣を背負う男は、不思議そうな顔を浮かべている。


「『メインプラン』………今まで襲ってきた奴らも言ってた………」


「ほぅ、ならそうだな。『メインプラン』―――シュケリを俺はもらいにきた」


 刹那、複数の熱線を男に向け、ヨミヤは発射する。


「おっと………」


 しかし、男は熱線を悠々と回避し―――


「報告通り、厄介な能力だな」


 ガージナルを上回る速度でヨミヤに肉薄した。


「ッ!!?」


「確かに、これは『抹殺』対象だな」


 次の瞬間、男は、背中の長剣を抜剣しながら、ヨミヤに斬りかかる。


「くッ―――!!?」


 何とか、剣で男の長剣を防ぐことに成功するヨミヤだったが、あまりの衝撃に何メートルも後方へ後退させられる。


「おぉ、意外と近接もできるんだな」


 驚く男は―――けれど、いつの間にかシュケリとヴェールを両肩に担いでいた。


―――いつの間に………ッ!!?


「二人を、返せッ!!」


 吠え、そしてすぐに駆け出そうとするヨミヤだが―――



「行かせるかクソガキィ!!」



 湖の中より、口の周りを血で濡らしたガージナルが現れ、少年を羽交い絞めに拘束した。


「おまっ………死んだハズじゃ―――!!」


「そうだ!! 俺ぁもうすぐ()()!! ―――だからクソガキッ!! 一緒に地獄に行こうやぁ!!」


 死の間際、最後の活力だと言わんばかりに、ガージナルはありえない力でヨミヤを押さえつける。


「シルバァ!! コイツはいいから、『メインプラン』を確実に本部へ届けろォ!!」


「ガージナル………―――任せろ」


 シルバーと呼ばれた男は、確かに頷くとシュケリとヴェールを抱え走り出す。


「待てッ!! ヴェールを―――シュケリを返せェェェェェェェェェェェェェェ!!」


 力の限り抵抗するヨミヤであったが、ガージナルの力には及ばず―――


「さぁ、クソガキ!! 最後だッ!!」


「クソ、クソクソクソッ!!!!」


「『人魔統合機構フォーラム』ッ!! バンザイ―――!!」



 月が照らす血の湖畔、鮮血の爆発が響き渡り―――そして、静寂が周囲を支配した。



閲覧いただきありがとうございます。

SAOのゲームにハマってます。レンとフカ次郎使ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ