湖上の血闘 ニ
「―――ッァアア!!」
短剣のはずなのに、とんでもない力で押し込んでくるカージナルの刃を、何とか弾き、大きく後方に飛ぶヨミヤ。
少年は、空中に数枚の結界を展開。その上に着地する。
「おぉ、近接はさっぱりかと思ったがそうでもないなぁ」
対するカージナルは、何食わぬ顔で水上に着地する。―――少しだけ驚く少年に、『この靴の『魔道具』なんだよ。便利だろ?』なんてふざけている。
ヨミヤは、以前にウラルーギが話していたことを思い出した。………が、すぐに目の前の敵へ意識を向ける。
「けれどまぁ………俺も散々お預け食らったんだ………そろそろ―――」
カージナルは口元から笑みを消し、姿勢を低く剣を構え―――
「殺させろォォォォォォォォォォ!!!!」
駆け出すカージナル。
迎撃しようと剣を構えるヨミヤ。
「………!?」
しかし、ヨミヤはカージナルの肉薄する速度に目を見張る。
―――さっきより………速い!?
そう、先ほどよりも明らかに速度が上がっているのだ。
「くっ―――そッ―――!!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハッ!! たくさん血を出せよォ!!!!」
間一髪でカージナルの攻撃を防ぐヨミヤ。けれど、その一撃でカージナルが止まるはずもなく、『魔道具』である靴の力を借りて、空中を自由自在に飛び回る。
「―――ッ!!」
少年は、それらの攻撃を、剣や、複数枚展開した結界で防いだりしている。そして、それらと並行して、目にも止まらぬ速さで動き回るカージナルへ熱線やら風弾を撃ちだすが、そのすべてが回避される。
「ホラホラホラァ!! ちゃんと俺を殺さねぇと!! 今度こそ大事な女共が死ぬぞ色男ォ!!」
「誰が………色、男だ………!!」
ひたすらスピードで翻弄されるヨミヤ。―――カージナルのスピードは時間が経つにつれて速さを増していた。
ほんの数十秒前まで結界や、魔法のおかげで被弾を避けていたヨミヤだが、今や、カージナルの短剣が徐々に少年の身体を刻み始めていた。
―――ダメだッ!! このままじゃ殺されるッ!! 攻撃を………一発だけでもいい………攻撃を当てろッ!?
ヨミヤは歯を食いしばり、痛みを堪えながら思考を切り替える。
―――もう魔法を『当てに』行くのはダメだ………多分、能力のせいで魔法を避けられる………なら、宿屋の時みたいに―――!!
「ハハハハハハ―――ッ!! いいよな!? もう殺してもいいんだよな!?」
「!?」
カージナルはヨミヤを切り刻みながら、声高に宣う。そして―――
「ここだろッ!!?」
ヨミヤは、心臓を貫かんとした短剣を結界でガード。
「ハッ―――!!」
そうして、カージナルの短剣を裏拳で大きく弾く。
「ッ!?」
「ㇵァァァァァァァァァァッ!!」
目を見開くカージナルを他所に、空気を切り裂く咆哮と共にヨミヤは剣を振り上げ―――勢いよく振り下ろした。
黒き剣はカージナルの胴体を切り裂こうとして、
「あめぇんだよぉッ!!」
しかし、その一撃はカージナルが真下から蹴り上げた脚によって大きく弾かれた。
「―――」
「終わりだクソガキ!! あの世で自分の非力を悔いてろッ!!」
口元を大きく歪め、カージナルは少年の首元めがけて短剣を突き出した―――
「フッ―――」
その時、ヨミヤの口元も微かに笑みを浮かべた。そして、
短剣は、ヨミヤの口の中を貫いた。
「なッ―――!!」
カージナルは今度こそ驚愕に表情を染めた。
対して、ヨミヤは未だに笑みを浮かべていた。
「………」
そう、確かに短剣は少年の口の中を貫いた。―――貫いた刃は、ヨミヤの口の中を通って右の頬から飛び出していた。
「ふぁかまへふぁ(捕まえた)」
刹那、ヨミヤは短剣を握っているカージナルの腕をしっかりと握った。
そして―――
「がッ―――!?」
幾筋の熱線がカージナルの身体を貫いた。
「こ、の………クソガキ………」
そうして、カージナルは湖に落ちていく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ………」
しかし、そんなカージナルの行方を目で追う余裕はヨミヤにはなかった。
力が抜けて倒れる寸前に結界を展開。紙一重で湖への落下を回避する。
―――血を………流しすぎた………
視界がぼやけ始め、限界が近いと感じたヨミヤは手をつき、何とか立ち上がる。
「マジで………回復、魔法………覚えよう………こんなことばっかしてたら………死ぬ………」
フラフラしながら、なんとか結界を階段状に展開して、一段、一段、ゆっくりと下りていく。
「………」
そんなとき、不意にヨミヤは背筋が泡立つ感覚を覚えた。
「………?」
しかし、周囲に変化はない。月も、湖も、遠くに見える街も何も変化はない。
―――だが、この予感をヨミヤは無視することが出来なかった。
「―――念のためだ」
呟き、そして、周囲を探知し―――
シュケリとヴェールとは別に、反応が一つだけあった。
「!?」
それは、ヨミヤが殺した男たちの遺体がある場所。
少年には、何となく予想が付いた。
「………ゾンビかよ」
視線を、反応のあった場所へ向け、ヨミヤは絶望と共に、口元を引きつらせた。
「クソガキぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 殺させろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そこには、ガージナルが居た。
不思議なことに、熱線で貫かれた血は、滴ることなく空中を浮遊している。
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
カージナルは甲高い悲鳴にもにた叫び声をあげながら、二つの遺体に手をかける。
次の瞬間、遺体から血が吸い上げられ、カージナル自身の血と混ざりあい、彼の頭上へ静止した。
「殺させろよクソガキぃ………」
「………やってみろよ輸血仮面」
ヨミヤは歯を食いしばり、刃をカージナルへ向けた。
閲覧いただきありがとうございます。
好きなマンガが本日めでたく完結しました。
完結させるって偉大ですよね…がんばろっ…