血だまりで笑う ニ
「オラァッ!! もっとだッ!! もっと、もっともっと、もっと血を出せェ!!」
シュケリとヴェールは、カージナルの仲間と思われる男たちに連れ去られた。
薄暗い部屋に残ったのは、凶弾に倒れたヨミヤと、そんなヨミヤを何度も踏みつけるカージナルのみだった。
「ㇵハハハハハハハハッ!! いいなぁ!! 血まみれだァ!!」
男は、『生きている』人間の血が好きなのだろう。すでに意識のないヨミヤの止めを刺さずに、少年の身体を何度も踏みつけ、返り血を浴びて絶叫している。
「………………」
「おいおいおいおいおい、いいのかよぉ!? 死んじまうぜぇ? ―――俺はもっと楽しみたいんだぁ、死ぬんじゃねぇぞ!!!」
そう言って、カージナルは、口元を盛大に歪めて―――ヨミヤの腹部に強烈な蹴りをいれる。
「がっ………」
そのとき、少年の意識が衝撃で覚醒する。
「お? 起きちまったかぁ~! おはよう!」
「がっ、かっはッ………」
次いで、ヨミヤの口から大量の吐血が起こり、木の床を鮮血で濡らす。
「はぁ………はぁ………はぁ………………シュケリさんは………どこだ………」
「教えてもらえると思ってんのかぁ? 救えねぇバカガキだなぁ!!」
見下すようにゲラゲラと笑い出すカージナル。しかし、彼は急に笑いを止めると、思い出したように人差し指をわざとらしく立てた。
「そうそう、一個だけ教えてやるよ。―――隣の部屋にいた魔族のガキ。あいつも貰った」
「は………?」
一瞬だけ時が止まるヨミヤ。
そして、すぐに少年の表情が怒り一色染まりだす。
「ふざけるな………っ! ヴェールは関係………ないだろ!!」
「そうなんだよなぁ………『関係ない』から殺そうぜって提案したんだけどよぉ………『魔族は保護すべきだ』なんてアイツらが言うからさぁ………仕方なく攫ったってわけ」
「こ………の………クズ、やろ………」
「ハハハハハッハハハ!! お前のその顔、サイコォだなぁ!!」
気分の高揚したカージナルは、高笑いを響かせ、再びヨミヤに暴力を振う。
―――クソ………落ち着け………最優先はシュケリさんの追跡………
ロクに動かない身体を必死に縮ませて、ダメージを押さえるヨミヤ。
―――追跡はできる………付与はしてある………ならやるべきことは………
朦朧とする意識で何とか考えをまとめると―――ヨミヤは動き出す。
「ッ………!!」
「なっ、なんだお前!!」
―――火球も、火球もダメだ。避けられる可能性がある。
ヨミヤはカージナルが腹部を狙った瞬間に、彼の脚を両腕で受け止め―――カージナルをその場に縫い付ける。
―――『倒す』のは後回し。………狙うのは『時間稼ぎ』………!!
そして、室内に烈風が吹き荒れた。
ヨミヤは室内に、外へ流れる風を生成。―――それは、容易に建物の壁を破壊するほどの突風。『嵐』が部屋の中に再現されたのだ。
「ぐォぉぉぉ………コイツ………ッ!!」
不可視で、部屋中に吹き荒れる『風』なら、万が一にも避けられることはない。
「吹き飛べェ!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
刹那、吹き荒れる風が、部屋の壁を破壊し、外へ流れ出る。―――巻き込まれたカージナルは、抵抗する間もなく、まるでロケットのように湖の方面へ飛ばされていった。
※ ※ ※
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ………」
ボロボロな身体を何とか起こし、壁にもたれかかるヨミヤは、近くにあった剣へ目をやった。
「………………この傷じゃ、まともに追えないな」
ハーディから回復の魔法を教わらなかったことを後悔するヨミヤは、そっと、銃創へ手を添えた。
「…………………………」
そして、長い躊躇を経て―――
「~~~~ッッッ!!」
その傷へ、勢いよく指を突っ込んだ。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
絶叫とは裏腹に、指は傷の中を探り続けて………
「あ”あ”ぁッッ!!」
傷口から、小さい金属片を―――弾丸を取り出した。
「ぐッ―――――!!」
そして、あまりの激痛に床を転げまわる。
「ッ………はぁ………はぁ………はぁ………」
続いて、震える指を掲げ、剣の切っ先に小さい熱線を照射する。
「………もっとだな」
ズグズグと痛みを訴える腹部を無視して、何とか起き上がると、剣を持ち上げて何度も剣先にレーザーを照射し―――
「………こんなもんかな」
出来上がったのは、真っ赤に赤熱した剣だった。
「………クソっ………ヤだなッ………」
弱音を吐くヨミヤは、けれど、生唾を呑み込み、赤熱した切っ先を銃創へ近づけ………
「~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!!」
血の流れる銃創を、焼いた。
閲覧いただきありがとうございます。
デカい傷は、焼くか、凍結させればいいと思ってるおバカは私です。
でも、多分あってない。