表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Odd :Abyss Revengers  作者: 珠積 シオ
無窮の記憶編
75/268

血だまりで笑う イチ

 男の仮面は、口元だけが不自然に割れていた。


 おかげで、無精ひげを生やした汚らしい口だけハッキリと視認できていた。


「さぁてぇぇぇ………ここまで来たってことは、俺の出番だなぁ………」


 男は、屋根の上で、下劣に笑う。―――その眼下には、宿の室内で、何かを話し合う少年少女の姿が見える。


「へへ………男の方は殺してもいいもんなぁ………」


 月光を背に立ち上がる男。足元に血まみれで転がる部下のことなど、欠片も気にもしてない。


「さぁ………お楽しみの時間だぁ………」



 ※ ※ ※



「殺させろォ! クソガキィ!!」


 突如として割られた窓の、その向こうからやってきたのは、口元以外を仮面で覆う暗殺者。赤いタイツの上から、鮮血色の法衣のような衣装を着た男は、涎をまき散らす。


「下がってシュケリさんッ!!」


「は、はい………!!」


 すぐにシュケリを立たせて、自分の背後に誘導し、窓から離れるヨミヤ。


―――他の奴らと様子が違う………ッ!!


 乱入者であり、侵入者の男の恰好や雰囲気から、何かを察したヨミヤは、男に向け、熱線を発射。


「こんなの当たるかボケぇ!!」


 しかし、男はその熱線を首を逸らすだけで回避。


「………じゃあこれをくれてやるよ!!」


 続く、ヨミヤの攻撃は、熱線や風弾の嵐。―――乱入者の男ただ一人に向けて、魔法の波を放つ。


「ハッハッぁ!! なんだこれ斬新だなぁ!!」


 男は、自身を害さんと迫る魔法を―――そのすべてを()()して見せた。


「ッ………化け物かよ………」


 『領域』内にて、四方八方から飛んでくる魔法を避けることは『不可能』に近い。―――過去に、『領域』と戦った宮廷魔導士・ザバルとフェリアですら、対抗することは『できない』と判断し、『領域』外からの魔法の物量でヨミヤを倒そうとした。


 だが、目の前の仮面の男はどうだろうか。


 『領域』内にて、魔法の脅威に晒され尚、下卑た笑みを崩さない。


「しゃッはぁーッ!!」


 肉薄されたヨミヤに迫る側頭蹴り。


「ッ!!!!」


 咄嗟に頭部をガードするヨミヤ。


「飛んでけッ!!!!」


「っ――――――」


 しかし、その力はヨミヤを遥かに凌ぐ。―――たまらず少年は部屋の壁に飛ばされ、激突した。


「がッ―――」


「ヨミヤ様ッ!!」


 衝突した威力がヨミヤの身体を介して壁に伝わり、石造りの壁は網目状の罅を作る。


「いいねぇ弱くて。簡単に殺せる。―――が、先に仕事しねぇとなぁ」


 頭部から血を流すヨミヤを確認した男は、首を回しながら―――シュケリへ顔を向けた。


「っ………!!」


 少女の顔が青ざめる。


 その時だった。


「っと………!」


 男とシュケリを遮るように、男の頭上から四本の熱線が降り注ぐ。


 それを、男は当たり前のように一歩下がることで回避する。


「どいつもこいつも、『負けた』だの、『弱い』だの勝手なこと言いやがって………」


 少年は、頭から流れる血を整髪料に髪をかき上げる。


「………」


「はっ………」


 そして、壁に立てかけてあった剣を手に取り、無造作に鞘から引き抜く。


「まだ『負けてない』から」


「チッ………だりぃガキだな」


 予想外の少年の復帰に、舌打ちを隠さない侵入者。そして―――


「なら、『負けさせて』やるよクソガキ」


 男は、次の瞬間、ヨミヤに一足で肉薄する。今度は、踵をヨミヤの頭に落とす気だ。


「やれるもんなら」


 ヨミヤは、その踵を、半身をずらすことで避けて、拳を握る。


爆発(イクス)


 握った拳は()()。―――爆発で加速した拳が男の顔面を捉えた。


「ッッッ!!!」


 今度は、仮面の男が反対側の壁まで飛んでいき、壁に亀裂を入れる。


「………」


 そして、男は沈黙する。


「大丈夫? シュケリさん?」


「私は平気です。それよりヨミヤ様が―――」


「オレはいいの。()()()()()()()()()()


「そ、それは………」


 再び顔を引きつらせるシュケリを、再び自身の後ろに避難させる。



「ああああああああああああああぁぁぁぁぁ………」



 刹那、盛大なため息が部屋に響き渡る。


「殺すの面倒なタイプかよぉ………基本的にお前しか殺せないのに………ツイてねぇ………」


 むくりと起き上がる男。


「拳が当たる瞬間、首を後ろに回すことでダメージを最小限に抑えた………強い」


 剣崎が真正面から迫ってくる『城塞』のような敵だとするなら、目の前の男はさしずめ『霧』。捉えどころがなく、攻撃がまともに当たらない敵。


 今まで戦ったことのない脅威に、ヨミヤは苦虫を嚙みつぶしたような表情になる。


 その時だった。


「お客様………? どうかされましたか?」


 戦いの衝撃で壊れたドアから、宿の店主と思わしき人物がやってくる。


「な、なんですかこれは………!!」


 そして、部屋の惨状を見て絶句する。


「………すいません。弁償なら後でいくらでも。―――だからどうか今は逃げてください」


 店主に目もくれず、要注意人物である仮面の男に視線を集中させるヨミヤ。


 それが良くなかった。


「いえ、それは出来ませんとも」


 パァン………


 そんな音と共に、ヨミヤの横腹に()()()()()


「………ぇ?」


 状況の理解が追い付かない少年は、されど、異常をきたした身体は正直に地面に崩れ落ちる。


「ヨミヤ様ぁ!!?」


 血だまりを作るヨミヤを、すぐさま助けようとするシュケリだが―――


「おっと」


 人間の物とは思えぬ力で引っ張られた彼女は、あっさりとヨミヤの傍から引きはがされる。


「お前はこっちだ」


「っ!? う、ウソ………!?」


 シュケリを掴んだのは、頭部に角を生やした種族―――悪魔族(デーモン)だった。


「頼みますよ。肝心の『メインプラン』。くれぐれも丁重に」


「わぁーてるよ。すぐに馬車に押し込んでアジトに戻る。―――それでいいですかカージナル様?」


「おうおう、さっさと連れてけ。―――あとは俺が()る」


 『カージナル』と呼ばれた仮面の男は、プラプラと手を振る。


「ま、魔族と、人間が………!? そ、そんな馬鹿な………」


「おい、行くぞ『メインプラン』。さっさと歩け」


「い、嫌です………!! よ、ヨミヤ様の治療を………!!」


 腕を引っ張られるシュケリは必死に抵抗する。―――少年の元に駆けつけようとあがく。しかし。


「おや、『メインプラン』。あまり暴れるのは得策ではないですよ?」


 宿の店主と思われた男は、懐から()()を取り出す。


「これは、『銃』といってね。『魔工具』技術で作られた最新の武器さ。―――これは、素人でも、簡単に生き物を殺すことができる―――愛しのクソガキが殺されるのを見てただろ?」


 確かに、シュケリは目撃していた。用途のわからない筒状のものから、『何か』が発射され、少年の身体を貫くところを。だが―――


「………それで、私を殺すと? そうなれば、『メインプラン』は破綻しますよ?」


「ははっ、ご冗談を」


 シュケリの言葉を宿の店主だった男は否定する。


「もちろん、そんなことはしませんとも。―――こんな武器で貴女が死ぬとも思えませんがね?」


「………っ」


 男は、拳銃をわざとらしく見せびらかし、魔族の男が抱えていた()()()()()()()に銃を向けた。


「あなたが暴れれば、殺すのは、この『魔族』の少女ですとも」


 そこには、長いグラデーションの髪を露わにしたヴェールが居た。


「ヴェールっ!?」


「なんの能力(ギフト)を持たぬ私でも、魔族を殺すことができる。―――技術とは素晴らしいですな」


「『メインプラン』。大人しくついてくる気になったか?」


「ッ………!!」


 まさかの事態に、シュケリは歯噛みする。


「ヨミヤ様………、ヴェール………」


 少女は、意識を失う二人を交互に見て―――


「めんどくせぇな」


 刹那、カージナルがシュケリの腹部に拳を叩きこむ。


「かッ………」


 人外の膂力に少女はあっさりと意識を手放した。

閲覧いただきありがとうございます。

最近ペルソナ関連のポストがXでたくさん流れて来てうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ