旅路:敵と味方とお別れと
それは遠い記憶。
自分が『シュケリ』であるより前の出来事。
彼女は父とケンカしていた。
父は自分が踊るのが気に食わないようだった。
自分はそれでも踊りたくて―――
※ ※ ※
「お姉ちゃんのダンス綺麗だったね!!」
シュケリの舞踏への乱入から早二日。
馬車に揺られる中、ヴェールは何度もシュケリの舞踏のことを思い出しては、キラキラとした目で彼女のことを褒めちぎっていた。
「や、やめてくださいヴェール………あの夜は、私自身、なんであんなことをしたのか………」
対して、しっかりと羞恥心を感じているシュケリは、ヴェールの言葉に少し顔を背けながら反論していた。
「『付随』」
その時、シュケリの対面に座っていたヨミヤが、突如として魔法を発動させる。
「そうそう。やっと発動できたわねぇ………じゃあ、その魔法をヴェールちゃんと、シュケリちゃんにやってみてぇー」
「はい………」
ヨミヤは、指の先に灯った光を、シュケリ、ヴェールの順に彼女らの額へ押し付ける。
「はいじゃあ、次の魔法ねぇー」
「………………『追跡』」
これは、印をつけた者を、遠隔から察知する魔法。
『探知』と合わせて、この旅の中でヨミヤが習得しようとしていた魔法の一つだ。
「おぉ………二人の位置が………ビンビン伝わってくる………」
まるで、額の先から紐か何かで、シュケリやヴェールとつながっているかのような感覚を不思議がっていると、ヨミヤの目の前の女子二人が、少しだけ背中をのけぞらせる。
「その言い方………ちょっと怖いかも………」
「そうですね、『すとーかーちっく』ですヨミヤ様」
「やめて、そーゆう誰かに引かれるのって、慣れてないから………」
少しだけ涙目のヨミヤであったが、シュケリに着けた『付随』から何か違和感を感じる。
「………? シュケリさん………………今付けた魔法以外に………マーキングされてる?」
ヨミヤが行使した魔法は、度々、こういった違和感が報告される魔法で有名だった。―――それゆえ、魔法に詳しいハーディは、ヨミヤの言葉に頷いた。
「そうね。この魔法、他に何か魔法が付いている対象にかけると、そうゆう違和感を感じるって話は………よくあるわね」
「それって………」
つまりは、ヨミヤ以外に、付随をシュケリに付けた人間がいるかもしれないという推測。
もちろん、まったく別の魔法がシュケリに付いている可能性もあるのだが、この時、少年の頭には、仮面の暗殺者達が浮かび上がっていた。
「………あの襲撃者は、何度も私の居場所を特定しては、襲ってきました。―――私が追跡されている可能性は………高いかと………」
ヨミヤがシュケリに出会ってからの襲撃は三回。
一回目は地下牢、二回目は『ネラガッタ商会』、三回目は『カロンド』の誘拐犯のアジト。
一回目と二回目は、場所もそんなに離れていなかったため、追っ手につけられていた可能性はある。
しかし、三回目は、場所も離れており、なおかつ、時間も空きすぎていた。―――カロンドに到着までの期間に、何度か襲撃のチャンスはあった。
その事実が指し示すことは―――
「わからないな」
そこで、ヨミヤは首をひねった。
「なんででしょうか? 三回目の襲撃まで時間があったのに、襲撃しに来なかった。これは『一度見失ったけど、『追跡』で居場所を特定したから』では?」
疑問の声を上げるヨミヤに、シュケリは自分の根拠を述べるが………
「そもそも、『追跡』があれば、『見失う』こと自体、ありえないんだよ」
「………なるほど」
「………私には話が難しいんだけど………つまり、お姉ちゃんにつけられた魔法は『別の何か』って可能性もあるってこと?」
難しい顔をしながらも、今の話を見事にまとめたヴェールの発言に、『頭いい………』なんて感心しながら、ヨミヤは彼女の発言を肯定した。
「まぁ、そうゆうことだね。―――引き続き、オレが警戒するから二人もなるべく気を付けて」
「うん!」
「承知いたしました」
※ ※ ※
「じゃあ、ここでお別れねぇ」
馬車は無事に『ランスリーニ』に到着した。
『サール』に向かうヨミヤ達はこの街で馬車を乗り換える。―――一方で、ハーディはこの街の近くにある街へ用事があるようで、三人とはこの街でお別れであった。
「はい、とても楽しい旅でした―――また、会うことがあればよろしくお願い致します」
「ふふっ、カタいわねぇ。―――また会えるわよ。貴女、アタシの知り合いにそっくりなの。懐かしかったし、私から会いに行くわよ」
シュケリより身長の高いハーディは、笑顔でシュケリの頭を撫でた。―――そんな彼女の手を、シュケリは満更でもない様子で受け入れていた。
「ハーディ、ちょっとお酒臭いんだから、次会う時はお酒控えて来てね!!」
「えぇ~? いいじゃないヴェールちゃぁん」
「ちょっ、こな―――ぁぁぁぁぁ………ハーディお酒くさいぃぃぃぃぃ………」
シュケリが若干湿っぽかったのに対して、ヴェールは、抱き着いてきたハーディに拒否感を示していて、シュケリの笑いを誘っていた。
「ヨミヤ君、教えた結界魔法、有効に使ってね?」
「はは………難しすぎて、まだ一枚しか展開できませんけどね………」
『血の一本角』の魔導書をハーディが解析し、ヨミヤが習得する―――はずだった。
しかし、この期間で、結局ヨミヤは『血の一本角』の使っていた、『何枚も結界をつなげて運用する魔法』の結界一枚分の展開しかできないのだ。
「嘆くことはないわよ? なんて言ったってあの魔導書、失われた秘法が記されたものですもの」
失われた秘法、という言葉に心当たりのないヨミヤであったが、続く、ハーディの言葉に驚愕を余儀なくされる。
「―――筆頭帝宮魔導士・エイグリッヒ・ベイルリッテが散々苦労した魔法を、初歩とはいえ、数日で習得したのよ、貴方」
「え………ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
閲覧いただきありがとうございます。
最近なんだか気分が落ち込みがちです。
リフレッシュせねば………!!